恋の目覚め
あおい はる
ちかいのキスの、意味とか、あんまり考えたことなかったなと思いながら、わたしは、しらないだれかのことを、ばかにするようなにんげんにはぜったいになりたくないなと、漠然と、想像していました。
二十一時のカフェに、あのひとはいました。
あのひとは、いつも、コーヒーを飲みながら、たばこを吸っていました。ときどき、文庫本を読んでいて、携帯電話を操作しているところは、一度も、見たことはありませんでした。わたしはカフェオレを飲んでいて、ともだちはココアを飲んでいて、話の内容は、どちらかといえば、どうでもいい感じの話が多かったのだけれど、でも、それでいいと思っていました。まじめな話をするのには、そのともだちとは、ちょっとちがうな、とも思っていたのでした。
あのひとの左耳で揺れる、三日月のピアスが印象的でした。
わたしは、たまに、眠れない夜なんかに、あのひとの恋人になる自分、なんてものを、妄想していました。二十一時のカフェにいることと、たばこを吸うことと、通信機器より、紙の本を好むこと以外は、ぜんぜん、まるで、なにも、しらないのだけれど。
あの、あのひとの、ゆびに、ふれられる瞬間を思い描くと、皮膚が、ちりちりと鳴くのでした。そして、わたしは、これが恋かと、また漠然と、思うのでした。
恋の目覚め