母の青春を探しに

虚文学 純

平畑翔造は、大学生になりたての十八歳。父がいない。母は、亡き父のことをいまだに溺愛していて、決して再婚しようとしない。しかし、父がどんな人だったのか聞いても、母は何も教えてくれない。ただ、世界一素敵な人だとか、やたらに高い評価を語ってうっとりしているだけである。
成長するにつれ、翔造は、父のことをどうしても知りたくなった。それである日、翔造は愛愛大明神の神棚に、父のことを教えてくださいとお祈りしてみた。
愛愛大明神とは、新興宗教の神である。翔造の母は昔から熱心な信者で、居間に神棚が設置されている。愛する人を亡くした悲しみから、そんな宗教にはいってしまったんだろうな、と翔造は想像している。別に母は息子にまで信仰を強要することは無いし、愛愛教は新興宗教といっても大正時代に生まれた時代遅れな感じで、信者も全国に数百人くらいしかいないという人畜無害なマイナー教団なので、翔造としては特に気にしてこなかった。
お祈りしたのも、無意味だと思いつつも、もし願いがかなったらいいな程度の気持ちだった。
しかしである。その夜、翔造が寝ようと思って部屋の灯りを消した途端、鍵をかけたはずの窓がスルスルと開けられ、全身が光り輝く謎の老人が入ってきた。
「我は愛愛大明神。翔造よ、汝の望みをかなえに参った。」
全体が光ってるし、宙に浮いてるし、不審者の演技とは思えなかったので、翔造は言われた通り信じることにした。
「でも妙だな、全然神様のこと信じてなかった俺が一発祈っただけで来てくれるくらいなら、本気の信者には凄いご利益ありそうじゃん。何で信者少ないんだ。」
「我が現れたのは汝の祈りによるのみならず。汝に父のことを知らしめたいという祈りを幾度となく捧げたる者あればこそ。その願いのため、参った。翔造よ、伝えよう。汝の父は死んではいない。」
「ええっ!……そういえば、父ちゃんが死んだなんて母ちゃんは言ってない!俺の思い込みだったのか!じゃあ神様、父ちゃんはどこにいんの?会いにいけるんすか?」
「難しい質問である。近くにいるとも言えるし、そうではないとも言える。会うことは出来ぬ。汝は、汝の父を知っている。」
「そういう神様的なわかりづらい言い方要らないんすけど。え、父ちゃんって、俺の知ってる人っすか?」
翔造の知り合いの、母と同年代の大人といったら、学校の教師や、何人かの近所の人くらいなものである。それ以外で知ってる大人だと、芸能人等だけである。
「離婚してて近所にすんでるとか有り得ないよな。母ちゃんの愛情、本気度すげーし。有名人だったら、絶対毎日会いに行きそうだし。神様、本当に俺の知ってる人?」
「言葉では決して汝は納得しないであろう。であるから、汝をタイムスリップさせる。汝の生まれる前の時代に送る故、自ら父を探すとよい。」
「タイムスリップなんかできんの!?」
「神の力は広大無辺である故。翔造よ、一つアドバイスしておこう。汝の父は存在するが、存在しない。」
「そういうのほんと要らないんで。それより、過去に行ったときに気をつけることとかありますせん?変な行動したら歴史変わっちゃうとか。」
「心配することは無い。時間旅行者によって歴史が変わることなど無い。考えるがよい、過去があればこそ現在があるのなら、汝が未来から現れたという過去がある故に、汝が過去へ行くという現在があるのである。過去では自由に行動するがよい。現在に帰ってきた時に何かが変わっていることなど無い。」
「そうなんすか。ちょっと納得いかないけど、神様が言うことだから信じますよ?」
「では、過去に送る。汝が過去で丸一日過ごしたら、現在から十分後の時間に再びタイムスリップすることとする。では、ゆくのだ。」
その瞬間、翔造の姿が消えた。それから、愛愛大明神は、その場でボーッと佇んでいた。
きっちり十分後、唐突に翔造が現れた。
「翔造よ、過去はどうであったか。」
「あっ、神様。………過去の世界では、人生で一番長い一日を過ごした気がします。」
「語らずともわかる。神の目は全てを見通す。汝が過去で何をしたかも全てわかる。汝は過去で、スマホが無い世界であることにテンパり、アニメの作画クオリティに絶望した。悲嘆に暮れて発狂しそうなほどだったが、通りすがりの女の子に救われた。」
「はい。出会っただけで、心から安心出来たんですよ。初対面なのに、最初からすごく仲良くなれた。あの子………あ、そういえば名前聞いてなかった!」
「汝はその女の名前を知っている。その女は、汝の母である。」
「ええええ?いや、絶対無いです!十何年経って顔変わるにしても、根本的にまったく別人の顔ですよ!」
「その後何度も整形しておる故。」
「……………」
「翔造よ。女がヤンデレ気味で、いきなり惚れまくってきたのに押されて、ヤったであろう。コンドームもせずに。」
「いえ、持ってないんで。俺初めてだったんで。」
「女はそれで妊娠した。その子供が、汝である。」
「え?てことは、俺は俺の精子で出来たんすか?!」
「言ったであろう。汝の父は存在するが存在しないと。そういう意味である。」
翔造は打ちのめされた。
「こんなの知りたくなかった………」
「汝の感情など、どうでもよい。我は毎日、汝に真実を知ってほしいと祈っていた信者の願いをかなえたのみ。」
その時、ふすまが開けられた。
「翔くん、ずっとこの時を待ってたの………もう体がうずいて我慢出来ないよ……さあ、あの日の続きをしましょう。」
そこには、全裸の母が立っていた。
「ギャアアアア!!!整形ババアに襲われるううう!!!」
翔造は、窓から外に逃げようとしたが、
「信者へのアフターサービスである。」
愛愛大明神に羽交い締めにされた。

(完)

母の青春を探しに

母の青春を探しに

ちょっしたブラックユーモア的な短編です。すぐ終わるので、読んでっていただけたら幸いです。

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