夜、擬態
かつて、日本一有名であった舞踏会の1ページをめくる。からから、くすくすと流れる音楽に意識を全て集めて深く、おおきく、体内の風船に無理やり空気を押し込んでは、少し苦しくなるほどにのんびりとろい溜息をつく。直に轟く銃声にて全てを悟り、刹那の空気の乱れを深呼吸で肺に流しこんで、また踊り出す。滑稽で愚かではずかしい踊りをーー。
「これも今では……」
日本一有名では無いのだろうか、と少女は紙の束をしずかにとじる。ぽわっと飛び出る細やかな天使の産毛を掃除して、窓から差しこむ夜の闇を肌で吸う。その闇は少女の肌から目の奥、血液や臓器にも染みこみ、少女を内側から喰らう。
少女は窓からきらきらとろける微かな月の光・・・ではなく、黄身色の街頭を見つめぱたりと仰向けに倒れた。
「こんなふうだったわ、とてもお上手ね。」
お昼に見たドラマはこうで、と1人で死体役をこなしてゆく。不自然なポーズで死に絶えた身体、何がどうしたらあんなふうな向きで死ぬのかしら、少女は目を瞑って考えた。
そうしている間に、夜は一層濃ゆくなり、少女の爪の先まで闇で染めた。少女は雨をふらせた。やわらかく朗らかな朝露の中の花の色香の頬を濡らし、少女はより強く、雨をふらせた。少女のそそぐ雨は、夜に溶け、滲み、冷たい床に昔からある模様みたく、そうなるように、なっていったようにみえた。
夜、擬態
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