美しく死ねないから死なない

死にたい 殺して私のこと
ぼくも死にたい 一緒に死のう

寂れた港町 殺風景の部屋
ぼくと彼女は煙草を吸う
ぼくは彼女の何も知らないし
彼女はぼくの何も知らない

キスをしたら セックスをしたら
少しはマシになるかもしれない
誤魔化せるかもしれない
美しいかもしれない

ああ、酒でもあれば
そんなことを考えてしまうくらいに
ぼくは弱っている
ひどくぶざまに弱っている

ぼくも彼女もわかっている
どうせ死なないんだって
そんなの当たり前じゃんって
わかっている
だって美しくないから
美しくないから 生きないといけない
汚いから 生きないといけない
何かそういった建前みたいなものを
ぼくも彼女もちゃんと持っている

煙草で眩んだ頭で
ぼくも彼女も考える
なんで死にたいんだっけ
なんで死にたいんだっけ
結局わからなくて
自分のことも 相手のことも
全部嫌になって考えたくもなくて

涙はこぼれない
ここまでいかにもって感じなのに
気付けば彼女は寝ていて
ぼくも後を追うように寝た



陽の光が床にちらついて
それを目に留めたぼくは
あまり眠くもない目をこすり
煙草に火をつけた

しばらくすると彼女も目を覚まして
二人して煙草を吸い始める
顔を見合わせて苦笑いなんかして
示し合わせたかのように二人して火を消す

街へ出るとまだみんな起きていない
やけに早くから走る電車のホーム
電車に乗った彼女を見送る
次いつ会うかもわからない

自販機で缶コーヒーを買う

飲み終わった空き缶を灰皿にして
ふらふらと歩きながら煙草を吸う
そのうち不意に眠気が襲ってくるものだから
ぼくはベッドに戻って眠った

美しく死ねないから死なない

美しく死ねないから死なない

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted