きみだけがすべて

 こおりのくにで、わたしたち、わらってる。
 ホットミルクが憂鬱さを、晴らしてくれるのは気のせいで、きみがいなくなって七日が経っても、わたしはいまだに、きみがすぐそこにいるようにしか思えなくって、かわいそうね、なんて同情してくるやつらのくちびるを、縫いつけてやりたくなったときの、でも、その感情の残酷さを、ひとりで嘆いている。どうか、冬は明けないでという祈りに、神さまは季節外れの雪を降らせて、春はもう、とっくにきているというのに、沈めるみたいに、水底に。鬱蒼とした森にたたずむ洋館で、きみは眠っていて、いなくなった、という表現は正しくないのかもしれないけれど、わたしの横にいないきみなど、いなくなったに等しい。(洋館に住んでいる、あの、おとこ、気に入らないんだ、きみをひとりじめしたいんじゃないかって、わたし、うたがっている)
 きみにね、赤い薔薇は、にあわないと思っているの。きみは、白色か、黄色、もしくは、桃色で、赤は、赤はね、なんだか血の色を想わせるから、そんな赤い薔薇にかこまれるきみを、みたくないだけ。町は、いい感じに、氷漬けとなっていて、このまま、春が、浮上しないまま、冬の国になればいいのに、はだを切り裂くような、つめたい空気が、感覚をうばうような、つめたい水が、きみをうしなって、日々、ぼんやりと暮らすわたしには、ちょうどいいよ。インターネットのなかにミカタがいるとは、かぎらないから、ときどき、みたくない。スマートフォンも、パソコンも。

きみだけがすべて

きみだけがすべて

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-29

CC BY-NC-ND
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