潰れたいちごショートケーキ
落ちた白い箱が交差点に往来する無数の靴に踏まれ、中のいちごショートケーキが箱から飛び出していた。
潰れた赤いイチゴの汁が、白いクリームに広がり、鮮血のように筋を引いているのがわかった。
カエデの誕生日のために買ったケーキの箱が、前方から来た男にぶつかり、不覚にも地に落ちた。
大事だったのに、潰れてしまった。
二つ年下のカエデは異母兄妹で、七年前にカエデを引き取った母が死に、再婚もしていなかったことから身寄りがなく、親父が引き取る形で再会することになった。
俺の母はすでに親父と離婚していて消息不明になっていたので、カエデにとって初めての女一人の環境だった。
女が逃げるほどの酷い男の傍にカエデを住まわせておくことには不安を感じていた。
今から三年ほど前の高校卒業の日、俺とカエデとの間に過ちがあった。
それからというもの、男女の関係が続いている。
「お前、処女だったのか」
「お兄ちゃんは、私のこと大事にしてくれたよね。だから。ずっとこんなあたたかいものに憧れていたんだ。お兄ちゃんで、よかったんだ……」
あの日のことは一生忘れることはないだろう。
そして今の状態が正しいのかどうかも、いずれわかる時が来る気がしている。
二年ほど前に酒癖の悪かった親父の会社は潰れ、再就職もままならず、そのまま親父はアルコール中毒症になってしまい、今は離れて暮らしている。
三年前の卒業式後のある日のこと。
「いやあ!やめて!パパ!」
家に帰った途端、カエデの大きな声に驚き居間の扉を開けると、尻を丸出しにしてカエデに覆いかぶさり懸命に腰を振っている親父の姿があった。
「親父!テメエ!何やってるんだ!親子だろ!」
引き離して殴り飛ばした親父は酔っ払っていて、俺に反撃しようとして足がもつれて、そのまま倒れた。
仰向けになった親父のだらしなく垂れた肉棒を見ると情けない気持ちになってきた。まさかここまでの親父だとは思ってもいなかった。
勢いでテーブルの上の日本酒の瓶が倒れて中が床に垂れていたが、かまうわけにはいかなかった。
「カエデ、着替えよう」
ボロボロになってショックのあまり泣いているカエデの肩を抱きながら、一緒に部屋まで連れて行った。
部屋に入り、そっとしておいたほうがいいだろうと思い俺が出て行こうとするとカエデが引き止めるので側にいてやることにした。
「やっぱり、幸せだと思う。お兄ちゃんが最初の人でよかった」
カエデは俺を抱き締め強く唇を求めてきた。
貪るように舌を絡めて吸い上げ、カエデは俺の股間をまさぐりだした。
「お、おい、カエデ……」
「お兄ちゃんのおちんちんしゃぶりたいの。いいでしょ?」
「でも、風呂も入ってないし……」
あんなことがあった後だ。きっとカエデは傷ついているに違いないのに。涙も乾ききらないような頬で、男性のものを見るのでさえ嫌に決まっているだろうに。
「お兄ちゃんのはとても綺麗だよ。大好きなの。お兄ちゃんのおちんちん……」
俺のズボンは下ろされ、抑制が利かなくなって、はちきれそうになっている肉棒はあたたかなカエデの口の中へと柔らかく包まれていった。
今親父は断酒会と病院通いをしながら、警備員の仕事をしている。
「調子はどうだい?親父」
「腐っているより動いていたほうが楽だ。酒のことも考えなくて済むからな」
牛丼屋で一番安い牛丼を食べている親父のおしんこを指でつまんで口の中にひょいと落とす。
しゃなりしゃなりと口の中で鳴るおしんこの音に親父の声が混ざる。
「カエデは、どうしている?」
「元気だよ。でも、カエデから親父の話をしない限りは一切こちらから話はしてない」
「そうか。そうだよな」
丼を手に持ち、かっ込むようにして親父は残りのご飯をたいらげる。
カエデからあの事件以降親父の話が出たことは一切ない。
親父が席から立ち上がり、おしんこを手に持って俺と同じようにして口の中にひょいと落とす。
どことなく、似ている部分があって気味の悪さを感じる時がある。
「じゃあ行くわ。日雇いで忙しいんだ。警備員なんて安い給料でこき使われているよ」
微かにはにかんだような親父の顔によりいっそう深くしわが刻まれていた。
「そう。それじゃあ、また時間ができたら様子見に来る」
「俺は大丈夫だからお前たちはお前たちでちゃんと生きてくれ」
そう言って足早に親父は牛丼屋を出て行った。
小さな、小さな背中に見えた。
いつ会ったかもわからないほど、弱い印象しか残っていなかった。
カエデの誕生日のためにケーキを買ったが、落とした。夜の交差点に落ちて潰れたケーキの箱を、とっさに拾おうと思っていた。
街のギラギラした明かりと人ごみの中で。
「きゃあ。なんか踏んじゃった。きたなあい」
カップルの女が交差点の真ん中で叫んだ。
信号を見ると赤に変わりそうだったので、拾う間もなく俺は人ごみに流されていった。
バス停の向かい側に牛丼屋が見える。
しばらく会っていない。そろそろ、親父の様子も見てこないとなと思いながら、カエデのことを考えていた。
いちごショートケーキを買いに戻ろうにも、閉店ギリギリで奇跡的に余っていた最後の一個を購入したので、もうないだろう。
他のケーキ屋を探すにも、このバスで最後だ。諦めて帰るしかない。
バスを待つ。
白い生クリームに散った赤いイチゴが脳裏に焼きついている。
きっとあの時親父の影に脅えていたんだろう。
「俺たち兄妹だぞ」
「いいの。お兄ちゃんとしたいの。ね?エッチしよう」
カエデはまるで垢抜けたかのように卒業式の夜、俺を求めてきた。
今までそんな素振りなんて見せたこともないのに。
「お、おい……」
カエデは俺の静止を振り切って、ぱっぱと服を脱いでいく。
「ほら、ね?」
「ほらねって言われても」
カエデは俺の前で全裸で両手を広げて立っている。
「いや、カエデ、それじゃああまりにもムードが……」
「お兄ちゃん、私の体じゃ勃たないの?」
「カエデ……いや、ホント、なんか、急に言われても異性だと意識してなかったし、反応しないしな」
「じゃあどうすればいいの?そうだ!お兄ちゃんのおちんちん舐めてあげればいいんでしょ?」
「なっ?」
俺はカエデの言葉にむせそうになった。
「いや、頼むよカエデ。気分が全然乗らない」
カエデは裸のままにじり寄り、俺の手を取り胸に当てる。
「揉んでよ。お兄ちゃん」
最初は手をカエデの胸に当てていただけだが、ぎこちなく最初の力を入れると、思いのほか柔らかく吸い込まれる感覚にすぐに勃起した。
やはり抵抗があってスムーズに揉めない。
「なあに?お兄ちゃん女の人の胸触るのはじめてなの?」
「いや、違うんだが……」
(最初の女は見事なまな板状態で揉むものがなかったんだよな……)
俺がカエデの乳首をつまんでこすりあげると「あん」と甘い声をあげるが、もう勃起して痛いほどになっているのに、まだ最後まで捨てきれない躊躇がある。
どうしてこんなことをしなければいけないのか、という疑問も拭い去れなかった。
カエデがズボンを脱がし、トランクスに引っかかるほど勃起した俺のものを出すと「うわあ……凄い。お兄ちゃん私でこんなになったんだね」と言った。
どことなく情けないような気もして素直に喜べない。
カエデはひざまずき、俺の勃起したものを口に思いっきり含んだ。ぱくりと。
「いたっ!カエデ!食べ物じゃないんだから歯立てるなよ」
その時むっとしたせいだろうか、怒りたい気持ちが今まであったカエデへの躊躇をさらりと洗い流した。
「歯立てないで、ちゃんと吸い上げるようにして舌と口で包み込むようにするんだよ」
俺はカエデの頭を持って優しく奥へと入れた。
カエデは俺のをしゃぶりながら自分の割れ目をいじって、くぐもった声を出している。
「ぷはー!苦しいよ。お兄ちゃん、もう入れてよ。私もう濡れてきちゃったよ。こんなになってる」
カエデが横になり足を広げると、濡れてひくついた花びらが開いていく。
「わかった。いいんだな」
カエデはにこりとしながら頷く。
精一杯無理していたこともその時は知らなかった。
「うん。来て」
少しだけ脅えているようにも見えるカエデのういういしい襞の間に鈴口を滑り込ませる。
一瞬だけ苦痛に歪むカエデのことが気になり、
「あ、いきなりすぎたか?」
と聞くと、カエデは俺をぎゅっと抱き締め「いきそうになってびっくりしちゃったの」と言った。
それにしても、カエデの中がきつい。最初にした彼女のはゆるかったのに。あ、もしかして他の男とやりまくってたとか。いやいや、これは個人の肉体の問題だろ。
「お兄ちゃん?何考えてるの?」
「え?あ、いや、カエデの中きついよ」
「気持ちよくない?」
「いやいやいや。そんなことない」
というか、気持ちよすぎてもう逝きそうなんだけど。もう少し動かしたら俺のは爆発してしまうだろう。
「ごめん。カエデ、気持ちよすぎるんだ。だから他のこと考えてごまかそうと」
と、誤魔化した。
「お兄ちゃん。ちゃんと私のこと考えて感じてよ」
そんな余裕はない。
でも、カエデにしてみれば当然のことだった。
「うっ、もう逝くよ。逝く!」
寸前で抜くとカエデの花びらに白い液が勢いよく何度もかかった。
よく見ると白い液の中に赤いものが混じっていた。
カエデ、いちごショートケーキ楽しみにしていたのに、もったいないことしたな。
「ただいまカエデ」
「おがえぢー。おぢいじゃん」
鼻水と涙で顔面くしゃくしゃのカエデが玄関先で迎えてくれる。
「うわ!カエデ、昨日よりもひどくなっているよ。ちゃんと病院行ったのか?」
「うん。こでね、花粉症だんだっで」
「何言ってるかわからない」
「ぐずりはどんだかだ、ずごじはよぐだるとおぼう」
「薬飲んだんだな?あ、あのな、いちごショートケーキ、売り切れててダメだったんだ」
「いいぼん。わだじにはおじいじゃんがいるがだ」
たぶん、お兄ちゃんがいるからいいと言ってくれたんだろうな。
「カエデ、代わりに何かでちゃんと埋め合わせするから、な」
するとカエデは俺を押し倒して馬乗りのまま鼻水まみれの顔で見つめ、小指を出してきた。
「ずっどいっじょ」
「わかった。ずっと一緒だ。お誕生日おめでとう」
小指をぎゅっと結び合う。
カエデが立ち上がり足早に冷蔵庫に向かい、何かを口に含みながら俺に口づけをしてきた。
俺の口の中にすっぱいいちごの味が広がる。
カエデが口もとからいちごの汁を少し垂らしながら服を脱いでいく。
あんな鼻水まみれの顔じゃムードも何もないが。
俺はあらわになったカエデの野いちごのような乳首に優しくキスをする。
よく見るとカエデの口元に生クリームらしきものがついている。
「あれ?ケーキ買ってたの?」
えへへとカエデは笑いながら俺を抱き締めてくる。
「そうか。何も潰れてなかったんだな」
「ん?」と聞くカエデに「なんでもないよ」と言って、カエデを押し倒し返し、優しく溢れかえる花の蜜へと強く口づけをしていった。
カエデのひどい鼻声の愛の言葉に、俺の愛撫はますます強くなっていった。
潰れたいちごショートケーキ