宇宙人二世 マリア 8

『ようこそ地球の諸君。我々はアルタイル星から発信している。諸君は光の速さで届く時間を計算しているようだが我々は時間という物はない。ないが十六万光年は余りにも遠い。それでも八日間で地球に行く事が出来、物資も遅れる。物資以外なら時間の空洞を使えば瞬時に届く。つまり諸君が読んでいる文章は時間差がない。またそちらの情報を送れば我々は時間の空洞に入れ、やはり瞬時に届く計算だ。だからその時間の空間を提供しよう、それで瞬時に交信出来るはずだ』
 スタッフ全員と総務大臣が一斉に溜め息をつく。だが本当に宇宙からのメッセージなのか信じられない。何処かの国の誰かが悪戯をしているんじゃないかと。試しに返信を送った。
「我々は俄かに信じがたい。本当にアルタイル星からなのか証拠を示して欲しい」
『ある若い日本人女性に我々の仲間を助けて貰った。そのお礼に鉱石と機械をプレゼントした。彼女はその機械をコミポートと名付けたそうだ。彼女が我々の使者だと思って良い。なお彼女は特殊能力の持ち主だ。接触したいなら連絡をくれ。こちらから彼女が直接、総務省に出向くよう連絡しておく。なお我々は友好を望んでいる。友好の印に彼女に鉱石を託した』
 そこで通信は切れた。やはり地球以外から送られたものだと分析の結果わかった。政府も我々も友好を望むと送信して、それでは早速彼女を出迎える準備をしておくと伝えた。

第五章 会議室での出来事

 二日後アリアは事情を家族に話した。アルタイル星人が日本政府にコンタクトを取ったが未だに政府は信じられないようだ。彼女が直接出向くと伝えた為、何処の誰かさえも分からない。いや宇宙人なのかも知れない。ともかく今日来る予定だと聞き政府関係者は不安と期待が入り交じっているようだ。万が一の為に総務省周辺に機動隊が待機している。但し目立たないように近くのビルに潜んでいるようだ。マリアは会社の面接に行くようなスーツを着込んで来た。ラフな格好では失礼と思ったのだろう。マリアは総務省に向かった。何故か警察官あちこちに見られる。それもそのはず右側に警視庁、左側には検察庁がある。マリアは受付に来た。住所氏名と身分証明書、行き先、要件を記入して申請する。その手続きが面倒だ。マリアは受付嬢に言った。

「あの総務大臣にお会いしたいのですが、お取次ぎ願いますか。そう言えば分かると思います」
「ハァ~取り敢えず其処に記入し身分証明を示しものを提示して下さい。それと総務大臣など簡単に会えませんよ」
 受付嬢は呆れた顔で睨みつけた。
「とにかく、そう伝えて下さい。でないと帰りますよ」
 なんか揉めていると見たのか警備員が寄って来た。其処に慌てて誰か走り寄って来た。
「大変失礼致しました。もしかして貴女が例の方でしょうか」
「あっはいそうです。私もこういう場所は馴れないもので」
「いいえ、いいえどうぞ。大臣がお待ちしております」
 これには受付嬢も警備員も口をアングリ開けて驚いている。若い娘が直接総務大臣に会うなんて前代未聞だ。マリアは丁重に案内され立七階にある立派な会議室に通された。既に総務大臣の中曽根幸三とお偉方五人にスタッフ十数名が待っていた。其処に入って来たのがマリアだ。なんと何処かの女優かモデルのような容姿をしている。しかしあまりにも若いので周りは驚いている。しかも日本人にしては髪の色も眼も違う。イギリスかイタリア系の二世かもしれない。こんな小娘に宇宙人は使者として送ったのか。特殊能力の持ち主と言うが一体何者? とは言え大事なお客様である。全員笑顔で出迎えた。

「よくいらしてくれました。私が総務大臣の中曽根幸三です。どうぞお座り下さい」
「初めまして東野真理亜です。早速ですが疑問から説明しましょう。ある日、私は八ヶ岳連峰の蓼科で宇宙人と遭遇しまして、しかし見た目は人間でした。かなり弱っていて宇宙人と疑わず解放というか薬を飲ませたのです。それで簡単に治ってしまいました。その宇宙人は地球の細菌にやられてようです。その細菌は風邪の菌でした。笑うかも知れませんが人間には軽い病気でも宇宙人には免疫がなく瀕死の重傷だったのでしょう。暫く休ませておくと夕方になり、流れ星かと思ったら宇宙船だったのです。ただ母体ではなく母体から放出した小型宇宙船が下りて来てその宇宙船に乗って帰って行きました。だからそれ以外の宇宙人と接触していません。それから何故か私はアルタイル星と交信出来る能力を得ました。それだけじゃなく彼らは私を通して地球と接触を図りたいようです。それから暫くしてアルタイル星人が私を蓼科へ登るように連絡が来ました。すると上空から小型宇宙船のような物からカプセルが放出されて来て御礼の贈り物だというのです。それがこれです」
 マリアは母佐希子と父ドリューンが初めて会った時の話を、母から自分に置き換えて説明した。これでドリューンが疑われずに済む。

 マリアは金属の箱から二個の石を取り出した。見た目はなんの変哲がないようだ。
「この赤みがかった鉱石はエネルギーを半永久的に産み出すそうです。因みにこれ一個で原子力発電所と同等のエネルギーがあるそうです。次に青みがかった鉱石はバクテリアを破壊する強烈な光が一点を攻撃し死滅されるものだそうです。もちろん癌も破壊出来るそうです」
「なっなんだって原子力発電同等のエネルギーしかも永久にとは? 私は素人なので分からないが科学者に見て貰おう。そしてこの青みがかった石が癌を死滅させるというのかね。信じられん。これも医学博士に見て貰う必要がある」
「そうしてください。この石が日本の為、世界いや人類に役立ちものである事を祈ります。さてこんな若い娘がアルタイル星人の使者と信じがたいでしょうが私は何故かアルタイル星人に気に入られたようです。特殊能力かどうか分かりませんが私はアルタイル星人と接触してから自分で気が付かぬうちに何らかの能力が備わったようです。この小さなパソコンのような物をご覧ください。まずこれは私しか操作出来ない構造になっており、如何にアルタイル星人の知能が高いか、これを見ると分かります。因みに私はこの機械をコミポートと名付けました」
 マリアはそのコミポートを取り出した。確かにパソコンに似ている。ちゃんと十インチほどの画面はあるがキーボードもマウスもない。更に電源コードもない。全員が中央のテーブルに置かれたコミポートを喰い入るように見つめた。マリアはその画面に手を宛がう。すると画面が放射線の輪が浮かび文字が空中に浮かび上がった。会議室は騒然となりオーと驚きの声を上げた。
『我々はアルタイル星人である。地球の諸君、例の石を受け取って頂いただろうか。きっと地球に役立ちと信じている。友好を結ぶと言っても我々は地球に降り立ち事が出来ない。その理由は御存じだろう。また人類もまた我々の星まで到達する技術もない。よって当面はこのような通信のみで友好を保ちたい。いずれ我々が地球の細菌に耐えられる体力を得たら、また人類がアルタイル星まで来られる技術が出来る事を祈る。当面はマリア嬢を通して良き関係を結びたい』
 全員が読み終えるとマリアは画面の手を払った。するとみんなが溜め息をついた。
「まさしくこの機械も我々にない技術だ。だが不思議なのはなぜアルタイル星人は姿を見せないか」
「それはアルタイル星人に本来形はないのです。一言で云えば微粒子の集合体だと彼らは言っています。人間の姿一人を作りあげるにしても大変な数の微粒子が必要なのです。では何故物体のないのに人間の姿や色んな物体に形を変える事が出来るのか、また宇宙船を作る事が出来るのかという疑問が浮かぶと思います。そこでベガ星の存在があります。ベガは織姫、アルタイルは彦星。七夕での物語のような関係にありベガは物を作る体力を持っているが知力がない。そこでアルタイル星人はベガ星人に物を作らせ、その代わりアルタイル星人は知識を与える。二つの星が協力する事により発展しているのです」
「ほうでは七夕の物語はただのお伽噺ではなく既にそんな関係があったのか」

 一応、マリアの説明が一通り終わった。二つの石は総務省の関係者に渡された。
「これで私の役目は終わりです。あとは皆さんがあの鉱石をどのように役立てるか期待しております」
 すると一人のスタッフがマリアに質問した。というより興味本位なのかも知れない。何故か疑わしい眼つきだ。こんな小娘が宇宙人の使者というのが気に入らないのだろう。
「あの~東野さんと申しましたか。特殊能力の持ち主だと伺いましたがどのような能力をお持ちなのでしょう。出来れば披露して頂けますでしょうか」
 マリアはその男をギロリと睨む。先程までの穏やかな雰囲気で話していた表情が一変する。あの瞳に下にあるホクロのような物が光った感じがした。
 「そんなに特殊能力に興味がありますか? 特殊能力は見せ物じゃありませんよ。興味本位な考えならお止め下さい」
 その男は尚も挑発的な行動に出た。ニヤニヤしながら更に続ける。同僚は失礼だぞと咎めたが聞く耳を持たない。
 「やはりな。今どき超能力なんてマジックか漫画の世界でしかない。出来ないなら超能力なんて言わない方がいいよ。人に笑われるよ」
 完全に挑発されている。もはやマリアは我慢の限界に来た。やはり宇宙人の使者と言うのは信じられないだろう。それでは私の役目は疑われる。こう小馬鹿にする奴は許せない。マリアはその男の前に立った。名札には秋口義弘と書かれてある。マリアの眼が青白く光ったような気がするが、それに気づいたのは正面にいる秋口だけ。その秋口が何を思ったか部屋から出て行った数分すると何故か珈琲を持って来てマリアの所に置いた。次に何を思ったかハンカチを取り出しマリアの靴を磨き出した。周りは何が起きたのか、先ほどまで挑発的な態度が消え、マリアに操られているかのようだ。それで終われば大した事なく終わるのだがマリアの手がスーと上に挙げられた。それと同時に秋口の身体が少しずつ浮き上がる。周りが騒めき出した。秋口の身体は更に上がり始める。そして何故か会議室の窓ガラスが勝手に開きその外から風が入って来た。すると秋口の身体が窓に向かって泳ぐように頭から突っ込んで行った。そのまま秋口は窓から飛びして行った。周りが一斉に止めろと悲鳴をあげる。マリアは何も言わず両手を交差させた。すると窓に飛び出したはずの秋口が会議室に浮いたままだった。周りはまた騒めきマリアと秋口を見比べた。
 「御免なさいね。本当は見せ物じゃないかと言って置きながら、つい使ってしまいしまた。秋口さんが珈琲を運ばせたのは私、そして宙に浮かせたのも私。窓を開けたのも私。ただし秋口さんは窓の外を飛びだしていませんよ。飛び出したように見せたのも私。つまり皆さんも一緒に一瞬コントロールしたのです。ではこれにて失礼致します」
 そう言ってマリアは会議室を出て行く間際に眼から光線が発しられた。会議室は暫く誰も動く者は居なかったが、やがて我に返ったような顔をしている。マリアは先ほどの出来事の記憶を消し去ったのだ。しかし消された記憶は秋口への悪戯のみでマリアが鉱石を持って来て説明した記憶は残っている。ただ秋口だけが未だに空中に浮いていた。他の者は記憶を消されたが秋口だけは記憶が消されず恐怖に怯えて空中に浮いている。
「秋口なぜ浮いているんだ?」
「知らん。あのマリアと言う女が俺を浮かせた。あの女が特殊能力の使ったのだ」
「そんな馬鹿な。良く見ろ、お前の腰にロープが結んである。それで吊るされたのだろう。それにしてもお前が悪い。挑発したからお仕置きされたんだろう」
「しかし誰がいつの間に吊るしたというのだ。誰も見てないしそんな余裕もなかっただろう」
「ではあのマリアさんの仕業なのか? だとしたらエスパー?」

つづく

宇宙人二世 マリア 8

宇宙人二世 マリア 8

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-26

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