空も飛べるはず

僕は飛び立つ

さあ、旅だとう。

どこまでも行ける。そう思っていた。
僕が立っているのは都市ビル高層タワー44階の屋上のぎりぎり、下界との狭間で見下ろすと人とか車とかがまるで蟻のように小さくあくせくうごめいている。眺めがいい。気持ちがいい。コンクリートでできた建物の枠は網の柵をよっこらしょと越えていかないといけない場所にありそんなところに来る人は一人もいなくてたった一人僕は風に吹かれたら今にも落ちそうな危なげな場所にいる。どこにでも行けるんだ、と思った。
テンションの高い音楽を聴いている。リズミカルで激しく、歌詞はちょっと大人げないほど愛を語っている。
愛する人がいるなんて幸せなことだろうが誰かに合わせて生きていくのは僕にはちょっと無理なお願いで独りきり自由でいたいと思うけれど人肌が恋しいこの頃は将来を何とかしなければいけないのかななんて危惧したりもする。
手を広げて翼にすればどこまでも飛べる。そう信じていた。
ライト兄弟は地道な実験を繰り返して飛行機を発明した。僕はそんなコツコツ努力なんてしなくてもすぐに今すぐに飛び立てる。柵を超えたときはすこし心臓が高鳴った。今から行く場所はどこでもない、誰もついてくることができない。止められやしない。この情熱は。誰もいないし誰も気にしないし誰も邪魔しない場所、そこへ僕は今行こうとしている。足を片方、前に突き出してみた。風が吹いた。僕はよろけた。もう片方の足がコンクリートから半分はみ出す。僕の上半身が前へと傾く。つんのめって、この形は美しくないなと思った。右手が柵をしっかり握っている。突き出したほうの足は宙ぶらりんになって空をさまよう。空気はとても薄くて軽くて踏みしめるには体積がなさ過ぎた。水はこおればその上を渡れるけれど空気は無理だ。さて。行くとするか。僕は決意を固めた。飛び立とうと決めて学校を抜け出して駅まで来てビルに上った。立ち入り禁止の札は無視だ無視。重力に逆らって、人間界のルールを破って生命の尊さなんてわからずじまいで僕は行く。遠く自由なところへと旅に出る。空は晴れていた。風が強かった。美しく、が僕の美学だ。誰がどう思うとも、最後まで美しくいるんだ。右足と左足が軽く震えているがそんなことはかまいやしない。僕は柵を握っている右手をパッと離した。空にダイブ。一気に目まぐるしいほどの景色の変化をちゃんと目に焼き付けた。上昇気流が吹いたが僕はその風に乗れなくて重力と引力の法則に沿って下へ、下へと。

空も飛べるはず

読後の後味はいかがでしたでしょうか。

空も飛べるはず

空へ高く高く飛び立ちたいと思う。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • 青年向け
更新日
登録日
2020-03-25

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