腹がたつとタオルキメちゃう系のきみ
ぼくが、校舎裏の日陰の、つめたくしめったしずかな場所でぼんやりしていると、きみはふらっとやってきた。
「たばこ!」
びっくりした。けれどその声に非難の色がすこしもにじんでいないことに気づいて、ぼくはただつぎのことばを待った。
「わたしはね、腹がたつと、柔軟剤をたっぷりつかって洗って、ぽかぽか日なたに干したタオルに顔を埋めて、においをかぐの」
こう、すうっと。てのひらをつかって再現するきみ。長身のきみのあたまのてっぺんあたりはちょうど、日なたと日陰の境い目になっていた。
「脳のすみずみまで、すっと、きもちよくなるんだよ。タオルキメてる! って、たのしくなっちゃうんだ」
それ、わたしにとってのタオルなんだもんね。
たばこは、たぶん、腹がたつときにばかり吸うわけではない、と、一瞬脳裏をかすめたことばはけれど、二酸化炭素にはしない。いまそんなことをいったら、台無し。
「たべる?」
代わりに訊くだけ。はっとひらかれるひとみ、それから差しだされたてのひらに、ぼくはふたつ、それをのせた。
オチもヤマもない、腹がたつとタオルキメちゃう系のきみとの午後のこと。のびた日陰。でもやっぱり、ひかりのきみだった。
腹がたつとタオルキメちゃう系のきみ