エロインフルエンザ
世では新型インフルエンザが流行っていた。
病院や政府や個人の対応むなしくウィルスは広がっていた。
感染していくうちに、変種となって、今よりも拍車をかけて広がるのではないかという専門家の見方もあり、人々は目に見えない脅威に恐怖していた。
フミヒロの住んでいるすぐ隣の地域で新型インフルエンザの患者が爆発的に多くなっていたので、時間の問題かと思っていたら、ついに近くで感染者が出たという速報が駆け巡った。
それを番組のテロップで見ていたフミヒロは、
「そう言ったって、どうすりゃいいんだ」
と、一応買っておいたマスクを見ながらつぶやいた。
今日はちょうど休みだが、明日からまた会社が始まる。いやがおうにも人ごみの中に入っていかないといけない。マスクをつけたり、うがい手洗いで限界があるとしたら、もう手の施しようがない。
フミヒロは時計を見た。
彼女のマオを部屋に呼んでいたが、もしかしたら大事を見て来ないかもしれない。
インターホンが鳴り、ドアを開けるとマオがいる。
「遅かったな」
とフミヒロが言うと、マオはぼんやりしている。
「あ…、なんか、ぼんやりする…」
マオの言葉に「大丈夫か?」とフミヒロがおでこに手をあててやると、熱っぽい。
「おい、もしかして、インフルエンザかかったんじゃないだろうな?」
マオはうつろな目をしながらフミヒロを見つめてから、ふらふらと部屋の中に入っていく。
卓上テーブルの前にぺたんと座り込むマオを心配して抱きしめてやると、マオが潤んだ目で見つめてきた。
「フミヒロ…あのね…なんだか体がすごく熱いの…」
「それインフルエンザだろ。すぐ病院に…」
とフミヒロが携帯電話を取ると、マオが静止する。
「違うの…そうじゃないの…熱いのは熱いけど、違うの…」
マオの息が荒くなり、瞳が完全に潤んでいる。声も少し苦しそうだ。これは完全に症状が出ているとフミヒロは思った。
「違うってなんだよ。救急車…」
再度携帯電話を取ろうとすると、マオがいきなりフミヒロを押し倒した。
「違うの。違う…体が火照ってもう濡れてるの。我慢してたの。エッチしたいの」
「え?なんだそれ?」
マオは戸惑うフミヒロのズボンを荒々しく脱がせて、パンツの上から股間をまさぐりその上から唇で愛撫する。
「ああ、いやらしい匂いするよ。これが欲しかったの。しゃぶるよ?」
マオの見せたことのない大胆さに戸惑うフミヒロだったが、心配よりもすでに興奮のほうが勝っていた。
すぐにフミヒロのパンツを下ろしたマオは、そそり立つフミヒロのそれを覆いかぶさるようにして口に含んでいった。
マオがうっとりしながら口に含んだものを吸い上げ、また飲み込む。
いつもと明らかに違う。いつもなら、周りを舐めるようにして、たどたどしくキスしていくマオが、今日は急に深々とフミヒロのをしゃぶっている。フミヒロは一度も今日のようなことをされたことはなかったので、マオのディープスロートに陰茎が飛び上がっていくような快感と射精感を覚えていた。
「マオ、そんなにしたら出ちゃうよ」
マオはおいしそうなものでも食べているかのようにうっとりとフミヒロを見つめ、吸い上げながらチュポンと音を立てて口から陰茎を離す。手は一時たりとも離そうとしない。
「ねえ、いいでしょ。精子の匂い嗅ぎたいの。飲みたいの。いいでしょ?」
(嘘だろ?)
フミヒロは思った。さすがにここまでくるとおかしい。マオは一度も口内での射精を許したことはなかった。いつも「気持ち悪いから嫌」と言って、頑なにフミヒロの願いを断ってきた。それが、今日は自分から「飲みたい」とまで言ってきた。
フミヒロはふとインフルエンザのニュースで「変種となって感染する危険性」を専門化が指摘していたのを思い出した。
(まさか、インフルエンザの変種で感染するとエロくなるとか?ええ?でも実際信じられないことが起こっているわけだし…)
「んもう…何考えてるの?もうダメ。こんなにいやらしくピクピクしてるんだから、食べちゃうもん」
しびれを切らしたマオがまたフミヒロのを深々と咥えこみ、いやらしい音を立てて激しくしゃぶりだしている。
「そ、そんなに激しくしたら、もう、ダメだ…」
下半身に力を入れて射精を免れようとするフミヒロだったが、ついにドクドクと勢いよくマオの口内へ射精してしまった。
マオは髪を片手でかき上げて、口をつけたまま、ごくりごくりとのどを鳴らしている。
(本当に飲んだ…信じられん…)
何が起こったのかはわからないが、何かがマオに取り付きでもしない限り、こんな別人になるわけがない。フミヒロの疑問は深まるばかりだったが、何はともあれ滅多にないチャンスだ。ここはマオとのエッチを楽しもうと思った。
マオはまだ陰茎を口の中に含んだまま亀頭をゆっくりと舐めまわしている。そして微笑みながら言った。
「ねえ、まだ硬いよ…奥まで欲しいよお…入れていい?いっぱい腰振りたいの。上に乗っていい?」
フミヒロもだんだんと調子に乗ってきて、遠慮しないでおこうと思った。
「お、おお。入れていいよ。俺もいっぱい入れたいよ。じゃんじゃん突いてやるよ」
「んふっ。嬉しい。じゃあ入れちゃうよ。もう濡れ濡れなの」
マオはスカートからパンティーを下ろしただけで、すぐに腰を突き立ててきた。いきなり腰を下ろして、何かが突き抜けたかのように一度のけぞり、それからゆっくりと腰を振り出した。
「ああ、いいの、凄い硬くて奥まで来る。ねえ、私、いっぱい出ちゃうのわかるの。感じすぎちゃう。いい、いいの。ああん」
いつもの五倍くらいもだえているマオを見て、フミヒロの興奮も絶頂に達していた。
ヌチャヌチャと音を立てている接合部が、より激しく音を立てだす。
「いい。もういっちゃいそう。ねえ、一緒に、一緒に、いい?いい?」
マオが限界を告げだし、その前から限界に堪えていたフミヒロは一気に出してやろうと思った。
「わかった。一緒にいくよ?」
――いくー!
同時に絶頂に達した二人は抱き合い体を震わせていた。しばらく静かに抱き合った後、少しだけ二人は眠った。
マオが寝ているフミヒロをゆらす。
頭のぼんやりとするフミヒロにマオは言う。
「私、なんだか調子悪いみたいだから家に帰って安静にしているね」
「わかった」
マオが帰った後、フミヒロが時計を見るともう午後八時を回っていた。
「こんなに寝ていたのか…」
お腹がすいた。しかし、冷蔵庫の中にはもう何も入ってなかった。近くのコンビニに弁当を買いに行こうかと思い、立ち上がると体がふらついた。
(疲れたのかな?なんだか体が重い。念のためマスクつけていくか)
ふらふらとしながらコンビニで弁当を買うと、体が火照っているのに気がつく。
(風邪?熱が出てきたのかな…ぼうっとする)
フミヒロはコンビニから出る時に、先にコンビニから出た、会社帰りの女性らしき存在に目が釘付けになった。
タイトスカートが桃のようなヒップラインを浮かび上がらせている。それが右に左に水にでも浮いているかのように揺れているのを見つめていると、フミヒロはだんだん勃起してたまらなくなってきた。
どうやら帰る方向は一緒らしい。コンビニと自分の家の間には公園があり、もしそこを通るなら、とよからぬ期待をフミヒロはしていた。
(何を考えているんだ俺は)
しかし止めることができない。
女が公園へと入っていくとフミヒロはいよいよ興奮してきた。
明かりも多くない薄暗い公園。茂みの奥に引きずり込めば、できないこともない。
股間は痛いほどに勃起して、抑えるのが精一杯なほどだった。
フミヒロはぼんやりとし、めまいにも近いものを覚えながら、ゆれるヒップを自分が荒々しく掴んで、その奥のいやらしい穴へと自分の勃起したものを入れることを考えた時、頭の中で何かがはじけた。
フミヒロは女の体を持ち上げて茂みの奥へ放った。
一瞬のことに何が起こったのかもわからずに絶句している女の唇を無理やり奪った。
イヤイヤと首を振り、小さな悲鳴と激しい抵抗を見せる女のスカートの中にフミヒロは手を入れ、パンツをずり下げる。
女は激しくフミヒロを両手の拳で叩こうとする。
しかししょせん女の力。フミヒロは気にすることもなく、勃起したものをねじ込んだ。
「いやあ!」
大きな声を上げて叫ぶ女にかまわず腰を振り続けるフミヒロ。激しい力と腰の振り方に女の抵抗すらか細い。一気にフミヒロが射精しようとするところ、フミヒロの顔に懐中電灯の光が当たった。
「何しているんだ!」
その声に、フミヒロは女の中から陰茎を出し、外に向かって勢いよく射精してしまった。
「お前!最近ここら辺に出ていた強姦魔だな!」
懐中電灯を当てた人間は警官だった。それも男二人組みだ。しかも射精の瞬間を見られている。下半身を情けなく出した姿では確実に言い逃れはできないはずだった。それにマスクもつけていかにも怪しい。
「え?あっ…」
言葉に詰まるフミヒロはあることに気がついた。あれだけめまいに近いほどぼんやりしていたのに、今はすっきりしている。
警官に取り押さえられるフミヒロ。マスクをはがされ顔に懐中電灯を当てられる。
もう一人の警官が「殴られたとか、お怪我はありませんか?今すぐ救急車を呼びましょう」と女を抱き起こしていた。
あまりにも頭がすっきりしているフミヒロは思った。
(もしかして、変種のインフルエンザが治ったとか?だったら俺の今の行動はインフルエンザのせいだ)
「おまわりさん!」
フミヒロの言葉に警官は「なんだ!」と怒号交じりに答えてくる。今にもフミヒロは手錠をかけられそうだ。
フミヒロは必死に弁明しようとした。
「違うんだ!俺は病気なんだ!」
「そうだろうな。お前みたいな変態は病気だよ」
「違う!違うんだ!」
「何が違うんだ!」
フミヒロの抵抗に警官は苛立つ。たいてい、この手の犯罪者は言い逃れをしようとするので、警官も早く署に連れて行きたかった。
フミヒロは最後まで抵抗しようとした。
「エロくなるインフルエンザなんだよ!」
「何を馬鹿なことを言っている」
「いや、本当。治った!治った、治ったんだよ!だから、俺、もう大丈夫!」
「治ったのなら、ちゃんと自分が犯罪をしたという自覚があるんだな。強姦罪ね。現行逮捕するから」
手錠をかけようとする警官とまだ抵抗しようとするフミヒロの前に犯された女が赤い顔をしながら寄ってきた。目が潤んでぼんやりとしている。
フミヒロをじっと見つめる女。そしてぼそりと言葉がこぼれた。
「はあ…よかった…」
警官とフミヒロは同時に「え?」と聞き返した。
女はめまいを覚えたようでふらりと倒れこみ、ひざまずくような格好になっていたフミヒロの頭をぎゅっと抱いた。
「ぶはっ!」
フミヒロは顔に女の胸の感触があることにどうしていいかわからなかった。やわらかい。しかしもう興奮はしない。
女ははっと気がついたようにフミヒロから離れ、
「いや!よくない!」
といきなりフミヒロの頬に張り手を食らわした。
「ぶはっ!」
フミヒロは張り手に吹く。
女の横にいた警官が女に聞く。
「よくない?」
「いや、いいの。よかったの。とっても…よかった…はあ…」
潤ませた瞳でじっとりとフミヒロを見つめる女。遠くからサイレンが聞こえてくる。
フミヒロは女の様子を見てなおも弁明しようとした。
「おまわりさん。あの、あれ、ほら、俺抵抗ついたからもううつらないんだよ。でもほら、あの女の人、絶対エロインフルエンザだって。感染するんだって」
「いい加減にしろ!話は署に行ってから聞くから」
フミヒロは手錠をかけられた。
「チクショウ!まおー!お前のせいだー!」
ありったけの声でフミヒロは叫んだ。
そのころ、マオはくしゃみをした。
体温計は平熱。
「熱はないみたいね。でも風邪かもしれないから今日はゆっくり寝よう」
マオは部屋の電気を消した。
同じころ、今夜は眠れない男が取調べを受け、救急車で運ばれる女はしっとりと股間を濡らし、先ほどのことを思い出しながら快感に体をガタガタと震わせていた。
(どうしよう。あんなされ方、癖になっちゃいそう。またしたい…許してあげようかな)
救急車の中でその様子を見ていた隊員が女の体温計を見て言う。
「熱っぽい。インフルエンザかもしれませんね」
エロインフルエンザ