【鯉月】どうぞめしあがれ【5/10新刊サンプル】

しずよ

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二次創作(腐)につきご注意ください。
稲妻強盗と蝮のお銀の時の鯉月。月島が東松屋商店へ潜入捜査するために借りる家を鯉登が探してきて、そこでなんかいろいろあるお話。

 鯉登音之進には妙な癖がある。
 それは閨事の最中に何かと話しかけてくることだった。前戯の間はいいのだ。その間は鯉登の舌や唇や歯は、月島の体の隅々を舐めたり吸ったり甘噛みしたりと忙しいから無口になる。
 問題はその後だ。挿入してからその日の出来事や最近気になることを荒い息の合間に月島に話しかけてくるのだ。記憶を手繰り寄せると、いちばん最初は聯隊長である淀川中佐に関する報告だった。第七師団に着任して以降、鯉登は鶴見から淀川の監視を命じられていた。
「今年の軍旗祭の来賓を選定しろと言われたから、昨年の資料を見せてくれと言ったんだ。そしたら何と答えたと思う?」
「……ふ、あっ、……え? 何です?」
 話しているからといって鯉登の腰が止まっている訳ではない。にちゃりぬちゃりとねばついた音がひっきりなしに自分の足の間から聞こえてくる。月島はしょうじき会話どころではない。
「ちゃんと聞かんかバカタレ。軍旗祭の昨年の資料の話だ」
「……いや、あっ、……く、……私は淀川中佐のことをよく存じ上げません……」
 自分があえがせている相手に会話を要求するなんて理不尽な世界があると、月島はこの年になって初めて知った。
「そうなのか?」
「あっ、はい……う、……私は和田大尉の動向を監視しておりましたので」
「ああ、そうだったな。中佐の話に戻すが、あやつは資料がどこにあるのか分からないと言ったんだ。……月島ァ、あれには頭は付いているのか?」
 鯉登は初対面以降、淀川に対しては辛辣だ。見下していることを、なぜか月島には隠そうともしない。しかしそれも無理からぬことだろうと思う。鶴見と比べたら器が小さい男なのだ。もっとも、鶴見と比べるとたいていの将校は近視眼的で見劣りするから、比べるのが酷な話なのだが。
 それでも本人の前ではそんな素振りは見せない。自分の立ち位置をきちんとわきまえる小賢しさが鯉登にはある。だからこのように司令部内で話しづらい内容を、布団の中で話すのだ。いかにも諜報活動っぽいな、と月島は思う。鶴見シンパ以外に聞かれるわけにはいかない。
 閉ざされた空間で内緒の話をして秘密を共有して、こうして二人の関係は抜き差しならないものとなっていった。


 稲妻強盗と蝮のお銀が小樽市内で強盗したことを新聞記事で知った鶴見たちは、ふたりを捕まえるために東松屋商店に罠を張ることを決めた。誰かが借金のかたに刺青人皮を残してくる。そのうわさを聞きつけてやってきたふたりを、客の振りをした師団が捕らえる。
 鶴見の自宅で、誰が潜入に適任か話し合いをしていた。その間、鯉登はたいそう厳しい顔をしていた。まだ囚人狩りに参加し始めたばかりなので、その役に抜擢されることはまずないだろうから、なぜそんな表情をしているかのか引っかかっていた。
 結局、賭場に刺青人皮を置いてくる役は月島に決まった。早速、鶴見が月島に指示をする。
「月島軍曹、兵舎から直接賭場へ向かうわけにはいかないから、市内に部屋を借りなさい。古い長屋がいいのだが、近所付き合いの密な家は避けるように」
「は、承知しました」
 月島は兵舎に戻り、着物に着替えてすぐに借家を探しに出かけようとしたら、鯉登が自分も同行すると言ってきた。
「私服か。それは芭蕉布か?」
「いえ、違います。そんな高そうな織物は、私は持っておりません。着古して薄地に見えるだけですよ」
「そうなのか?」
「それに一時的に羽振りのいい流れ者の設定ですよ。だから鯉登少尉殿が付き添うのは不自然かと」
「……つれないこと言うな月島ァ」
「駄目です」
「では密偵の見本を見たいから、付かず離れずで行くのはどうだ? 尾行の訓練も兼ねて」
「後学のため、とおっしゃる点は敬服いたしますが、あなたと私はまったく違う印象の人間なのです。だから立ち居振る舞いの参考になるとは思えません」
「強情だな」
 鯉登は頬をふくらませる。
「それは少尉殿でしょう」
「あれー、少尉と軍曹がケンカしてる」
 二階堂が愉快そうに笑って、ふたりの様子を見学し始めた。
「あ、二階堂。少尉殿と一緒に花園公園へ行って、串団子を買ってきてくれないか。中尉殿に頼まれているんだ」
「いいよ! オレもあそこの串団子好き!」
「は? そんな言伝……」
 鯉登が疑問を言い終わる前に、月島は玄関を飛び出して行った。家の中から鯉登が「ま、待て月島ァ!」と叫ぶ声が小さく聞こえた。

 月島は地図で東松屋商店を確認する。兵舎や鶴見の自宅からは徒歩で一時間弱離れている。
 まず吟味する点は、家は賭場の近くがいいのか、それとも程よく離れていた方がいいのか。月島は小樽駅付近にある家屋敷の仲介業者を訪ねる。しかし、鶴見の条件『近所付き合いが密ではない』長屋がそもそも希少な物件なのだ。元来、長屋に住まう人々は、隣近所で助け合って暮らしている。これは案外難しいな……。月島は眉間にしわを寄せる。
 そうして候補となる家の下見などしていたら、あっという間に日が暮れた。とりあえず条件に合いそうな物件がひとつだけあった。しかし賭場に近すぎる気もする。借金して帰る時に後をつけられたりするのも厄介だ。追っ手を撒く距離が必要だ。なので契約はしないで、いったん帰ることにした。
 兵舎が近くなると壁にもたれかかっている誰かが見えた。鯉登だ。待ち伏せていたのか。こちらをにらんでくるから身構える。
「月島軍曹、これから出るぞ。ついて来い」
「あの、どこへ?」
 月島が尋ねても答えず、険しい表情で早足で進んで行く。二階堂をけしかけて足止めした件で怒っているな……。月島は鯉登に聞こえないように小さくため息をつく。
 兵舎から三十分ほど歩いて行くと潮のにおいが強くなる。付いたところは運河の近くにある小さな旅館だった。
「あの、ここは?」
「母が北海道へ来る際の定宿のひとつだ」
「はあ……、それで」
「今夜はここに泊まるぞ」
「え? 私もですか?」
「そうだ」
 一見すると旅館とは思えない建物だった。少し大きめの邸宅で、看板すらないような静かなたたずまい。だから部屋数が少なく宿泊客は少ないが、しかし女将をはじめ従業員の接客態度や調度品に至るまで品があり、まるで隠れ家のような宿である。広間にある絵画や花瓶などの美術品の良し悪しは、月島には分からない。が、それらは鶴見が好みそうな物だと感じたから、きっと上等なのだろう。
 鯉登が宿帳に記入を済ませると、女将みずから部屋まで案内する。
「月島、お茶を淹れてくれないか」
「はい、ではお湯をもらって参ります」
「その必要はない。その茶器と一緒に置いてある、鉄の瓶にお湯が入っている」
 月島は鉄瓶の蓋を回して開けてみた。すると、ふわりと湯気が立った。
「ドイツからの輸入物と聞いた。魔法瓶と呼ぶらしい」
「魔法瓶、ですか」
 月島は旭川の司令部と同じように、鯉登に茶を淹れる。考えてみればそれも久しぶりだった。月島は夕張以降、鯉登とあまり接していない。
「あの後、私は二階堂一等卒と一緒に串団子を買いに行ったぞ」
 鯉登はむくれて、ちゃぶ台に頬杖をつく。
「……そうですか。中尉殿はご機嫌だったでしょう」
「まあな。しかし二階堂一等卒のことをお前はずいぶん甘やかしていないか? 足を負傷して入院している間も、世話を焼いていたそうだな」
「それは二階堂がモルヒネをくすねていたからですよ。放っといたら使い過ぎて大事に至ったでしょう。それに他の者も二階堂の世話はしていますよ。足が突然不自由になってしまったのだから、誰かが手助けしてやらないといけないでしょう」
「それは承知の上だ。それでもなんと言ったらいいか……、だんだん子供のようなわがままを言うようになってきていないか? 最初に会った時はもっとしゃきっとしていたはずだがな」
「……」
 鯉登はいぶかしそうに首をひねるが、月島は真顔になる。あんたがそれを言うのか。色々と心中渦巻いたが、それらをぜんぶ飲み込んだ。要するに自分に構ってほしいのだ。
「少尉殿、今日は二階堂の話をしたかったのですか?」
 月島がそう言うと、鯉登は一瞬目を丸くしたあとに「月島軍曹、もっと近くに」と目を細めた。それは本心から嬉しいのが分かる笑顔で、その素直さに月島はいつも身を焼かれる思いがする。鯉登の目の前にかしこまって正座すると、腕をぐいと引かれる。勢いで鯉登の胸に飛び込む格好になった。足のやり場がないから、恐縮しながら鯉登のふとももの上にまたがると、強く抱きしめられる。
「こうしてふたりきりで会うのは二ヶ月振りだな」
 背中に回す腕に力を込めて、しみじみと鯉登は言う。なんでも、月島が夕張での任務で長期間旭川を不在にしていたから、たいそう寂しかったと吐露した。
 寂しいとか心細いとか会いたいとか、そういう弱さを臆面もなく口にできるのは、実は心の礎が強いからだと月島は思う。自分には到底真似が出来ない。
「かっちり着込んだ軍服を脱がせるのもいいのだが、着物だとすぐめくれるのがいいな」
 そう言いながら、むき出しになった月島の太ももに手を這わせるから、びくりと大げさに反応してしまった。
「あの、少尉殿。私は今日はあちこち歩き回って、ずいぶん汗をかきましたので……」
「そんなに汗臭くはないぞ」
 鯉登は月島の首筋に鼻を近づけにおいを嗅ぐ。
「いや、ちょっと、そういうのは……」
 変態みたいじゃないですか。と思ったが言えなかった。あばたもえくぼ。いや、毒を食らわば皿まで。鯉登の執心に気付いて、月島はそれをごまかすために思いつく限りのことわざを、念仏のように心の中で唱えた。それでも、体を嗅がれるくらいなら許容しそうな自分がこわい。すると鯉登が「濡れぬ先こそ露をも厭え、かな」とつぶやく。
 まるで心を読まれたようで、月島が驚いて目を見開く。鯉登が月島をまっすぐに見据える。

 月島は鯉登の指が気になっていた。他人の手に色気を感じたのは、初めての経験だった。
 初めに一番長い中指、それから薬指、余裕があれば人差し指を入れて広げるように動かす。自分の性器を受け入れられるように、濡らして入念に準備をする、その必死な手。指の腹で前立腺をまさぐり、そうして月島の体を開かせる。
 入浴時に自分でも指を入れてみるのだが、月島は手も小さいし、より奥へ入れることを無意識に手加減しているのだろうと思う。なので鯉登の指が沈みこむと、その長さの違いに毎回衝撃を受けて息を飲む。
「は、……はあ……あ、」
 人を殺す術を心得ているその同じ手で、月島の体をも我が物顔で蹂躙する。どこをどう触れば気持ちがいいかをすっかり覚えてしまった男に対する焦りが、月島には常にあった。身も心も離れられなくなったら、オレはどうすればいいんだ。だから月島は、この私的な関係を清算する心の準備を常にしていた。それはすなわち『これは命令なんだ、自分の意志ではないのだ』と自分に言い聞かせて、求められたら応じているのである。
「月島、うつ伏せに寝てくれ」
「は、はい」
 四つ這いになるのかと思ったら、どうやら違う体位のようで月島は戸惑う。両足をほとんど閉じた態勢で、鯉登は月島の太ももにまたがる。それから少しづつ先を押し入れる。
「痛くないか?」
「……大丈夫です」
「ん、……久々だかならな。あまり奥まで挿入すると苦しいだろうから、これが良いと思ったんだ」
 鯉登の配慮だと知り、月島は胸の奥がぎゅっと締め付けられた気がした。すっかり閉じ込めたはずの自分の心が、確かに体の中に息づいていることに気が付く。こうして他人の痛みや弱さを慮る鯉登のことを、世間知らずのボンボンだと尾形のように馬鹿にすることはできない。そうして、ふだんの子供っぽい振る舞いまで帳消しにしてしまうのが習慣となっていた。
「うっ、あ、あ、………はあ、」
「月島、深呼吸しろ。もうちょっとだ」
 この夜も鯉登は挿入して月島を揺さぶりながら、何かと話しかけてきた。串団子を買ってきた後、小樽に住む貿易商の件で鶴見から話しかけられたそうだ。が、月島がいなかったので会話ができなかった、と情けない声になった。二階堂や他にも兵卒がいただろうに、通訳をお願いしなかったのかと気になった。しかし月島は最中に会話を楽しめる気質ではなかったから、質問はしなかった。
 そこで月島は、はたと気が付く。ではオレは、会話よりこの行為を楽しんでいるのか? と。ふと浮かんだ疑問を突き詰めたら自分が困り果ててしまいそうだったから、考えることを止めた。めんどくさい。
 考えることを止めた直後から、頭の中からほとんどの言葉が消えた。出したい。もうそれしか考えられなくなった。締めつけて足まで力もうとした、まさにその瞬間だった。
「ところで、家は探したのか」
 鯉登が話しかけてきた。なぜ今なんだ、後にしてくれ。月島が聞こえない振りをすると、鯉登はぴたりと抽送を止めた。
「……え」
 月島は唖然とする。首をひねり背中にかぶさる鯉登を見る。目が合うと鯉登が満面の笑みになった。
「お前がこんな風に私の体に溺れてくれる様は想像できなかったから、嬉しく思うのだがな。でも質問に答えてくれてもいいだろう?」
 口をとがらせる。
「お、溺れてなど……!」
 月島は赤面して全力で否定しようとすると「嘘を言え」と鯉登は呆れた顔をする。そうして「根比べするか? 月島」と広角を上げる。このまま動かないつもりか。
「……」
 月島がしかめ面で鯉登を見る。
「フフ、冗談だ。お前なら『それならもう止めましょう』と何でもない振りをして、へそを曲げるだろうからな。それは私としても本意ではない」
 そうして律動を再開する。くすぶっていた体に、月島が再び火をともすのは簡単だった。しかし腰の動きはかなり緩慢で、これではいつまでたっても終わりそうにない。そもそも、今の体位だと深くまで挿入されないので、月島には物足りなかった。本音を言えばもっと奥まで擦ってほしい。だから月島は両足を広げた。
「うわっ、急に何だ月島」
 太ももに跨がっていた鯉登は驚いて身を引く。そして月島は腰を高くして「少尉殿、あの……」と言いよどむ。鯉登の喉が鳴った。それはそうだろう。さっきまで自分の性器を咥えこんでいた穴が、目の前にさらされているのだ。
「私にどうしてほしい?」
 試すような視線を向ける。オレにぜんぶ言わせる気だ。ここまであけすけに誘っているのに。その駆け引きに少し悔しくなる。だから月島は起き上がって鯉登の肩を押した。
「な、何をするんだつきし……」
 月島は鯉登の腰にまたがり「失礼いたします」と一声かける。
「えっ、あ、……」
 鯉登が驚いているうちに、月島は自分の体の中に鯉登のものをすべておさめた。自分が上になるとこんなに深いところまで届くのか。この先にある快楽の大きさを想像すると息が浅くなり、下半身から熱を帯びてくる。
 どう動けば気持ちがいいだろうか。最初はゆっくりと前後に動かしてみる。すると、すっかり上気した顔の鯉登が口を開く。
「つ、……月島」
「……は、はい」
「お前の体の中に、ぜんぶ入っているぞ。ほら」
 鯉登は月島の右手を引き寄せ、自分の陰茎の根本を触らせる。指を少し横に滑らせると自分の菊門に当たった。指先で触れただけだったが、そこは熱く脈打っていた。
「わかるか」
「ん、は、はい……、うう」
「気持ちがいい……、それにわっぜよか眺めだ」
 鯉登は下から舐めるように月島の上体を見る。勃起している月島の陰茎が、律動とともにふるふると動く様に見惚れていたらしい。「むぜね」とつぶやきそれを上下にしごき始めた。
「う、……少尉……」
「月島、自分を抑えるな。好きなように動け」
 そうすると、どのあたりが気持ちの良いところかいつもより強く意識する。月島は目を閉じ下半身に集中する。そのうち鯉登が下から突き上げ始めたから、月島はそれに合わせて上下に動かした。
「く、……あっ、あ、あ」
 鯉登は月島の腰骨を掴み、ひとところを狙い撃ちに重たく腰をぶつけてきた。ああ、これは駄目だ。少尉のことを置いてけぼりにして自分だけ達してしまいそうだ。
 鯉登は月島を絶頂に導くまで、いつも限界まで射精を耐えている。その忍耐が月並なことではないのは、同じ男だからよく分かっている。歯を食いしばり汗をにじませて月島の快楽を気にかける真剣な表情が、実は好きだった。そして目が合うと、鯉登は必ずキスをした。
 今、どんな表情をしているんだろう。月島は目を開けて下を見る。すると鯉登と目が合った。ずっと自分の乱れる姿を凝視していたのかと思うと、恥ずかしくて止めてしまった。
「月島、どうしたんだ。疲れたのか?」
「いや、……あの……、少尉殿はその、満足しておられるのかと思いまして」
 月島が丁寧に表現を濁しながら尋ねると、鯉登は断言した。
「満足も何も、これ以上の僥倖はないぞ。好きな男が自分の上で必死に腰を振」
 月島は鯉登の口を慌てて両手でふさいだ。そんなのぼせ上がった顔でオレの必死な姿を実況しなくていいから。鯉登は不服そうにして月島の手をはぎ取った。
「お前が聞くから本心を口にしただけだぞ。というか代わろう。私が上になる」
「あ、えっ……」
 月島がうろたえている間もなく鯉登は上半身を起こして、口づけをしてきた。流れるような所作で、鯉登は月島の体を抱えて倒す。その際にずるりと抜けたが、次の瞬間声かけもなしに突き入れられた。
「あっ!」
 足を持ち上げられて角度を合わせて根本まで埋められて、それから鯉登は月島に抱きつき、上半身をぴったりと密着させた。これをする時に鯉登はいつも、月島が動けないようにわざと体重を強めにかける。だからまるでねじ伏せられてしまったかのような本能的な恐れと、抱きしめられる安堵感が同時に生まれた。複雑だな、と月島は自嘲する。自分で心を制限しているくせに、鯉登に執着されるとどうしようもなく高ぶってしまう。
 二度、直前まで高められた体は、いつもより感度が増していた。そのせいか、月島はふだん口にしない要求までしてしまう。
「……ん、ああ……そ、そこ……!」
「月島、またいきそうになっても締めるな」
「……え?」
「極限まで力を抜くんだ。もう限界だと思ったら、締めていいから」
 月島は訳がわからないながらも、鯉登の言う通りにした。しかし達するために締めつけたくなるし、鯉登だって中がきつい方が気持ちがいいだろう。尻の力を抜くのにその他の全身の力を込めないといけないくらい、難しいことだった。汗が吹き出る。目の前が白んで考えがまとまらなくなる。ああ、もう駄目だ。
「少尉……殿、」
 うまく声が出たかどうかも定かじゃなかった。が、鯉登が返事をしてくれたような気がした。
「あ! ああ、う、……あああっ!」
 自分のものとは思えない高い声が出た。他の部屋まで聞こえてしまうから口をふさぎたいのに、どうすることもできなかった。腹の中に熱い体液が吐き出されたことだけ感じ取れた。



 薄暗い室内を見渡して目を凝らす。顔を左に向けると、自分より長い髪が頬をくすぐる。
「ん……。月島、起きたか?」
 ささやくような声が聞こえた。
「……は、……はい」
 声が出なくて驚く。何度か咳払いをする。オレは眠ってしまっていたのか? いや、眠ったんじゃなくて気を失ったのか……? それに思い至って月島は叫び出しそうになった。そうだ、オレは最中に気を失ったんだ。どっと汗が噴き出る。猛烈に頬が熱い。部屋が暗くて助かったが、月島は羞恥のあまり、消えたくなった。どんどん深みにはまっている気がする。
「月島、無理をさせて済まなかった。体は大丈夫か?」
「え、ええ……、特に変わったところは、な……」
 異常はないと言いかけて、上体を起こそうとしたら、腰から下に全く力が入らない。
「どうした? どこか痛むのか?」
 鯉登が心配そうな顔でのぞきこむ。
「その……、痛くはないのですが、強烈に怠いというか、下半身にまるで力が入りません……」
「すまん。良かれと思ってのことだったのだが……」
 鯉登が言い淀む。
「ああ! そういえば何だったんですか? その、締めるなとか」
「あれはな……、その手の本に書いてあったんだ。ああやって締め付けずに何度か絶頂をやり過ごすと、男でも女のように続けて絶頂するようになるらしい」
「……」
 何て内容の本を読んでいるんだこの少尉殿は。月島は呆れて無表情になる。
「でも月島の体の負担になるなら、もう止めよう」
「はあ……、そうしてもらえると助かり……」
 月島が言いかけると鯉登がぎゅっと抱きついてきた。
「月島ァ! これからもおいと同衾してくれるのか!」
 激しくしてしまって嫌われたかもしれない、と心配していたらしい。それから月島を至近距離で見つめて唇を寄せようとして、途中で止めてしまった。「いかん、また大きくなる」と真剣な表情でつぶやいて離れた。月島は鯉登の喜び様をどう受け止めて返せばいいのか決められないでいたので、話題を変えようと思った。
「あの、先ほど借家の話をしていませんでしたか?」
「ああ、そうだ。東松山商店から遠くもなく近くもない家があるのだ。六軒長屋だが、いま入居しているのは一人だけだと聞いた」
 鯉登が起き上がり、ランプの灯りをつける。そして鞄から紙を取り出した。月島の目の前にばさりと資料が置かれる。

【鯉月】どうぞめしあがれ【5/10新刊サンプル】

【鯉月】どうぞめしあがれ【5/10新刊サンプル】

  • 小説
  • 短編
  • 成人向け
  • 強い性的表現
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