もうそうだけ

北上八三

Huluで旅猿のウドさんのを見て思いつきました。

「好きです付き合ってください」
と、渾身の気持ちを込めて伝えたが振られた。

「ごめん。タイプじゃないんだ」
そんな風に言われて。

校舎裏での出来事だった。相手は一個上の先輩だった。誰にも相談しないまま、一人でゲリラ的に決行した案件だった。

だからなのか、そんな風に言われてカーっとなった。体の中が。かっかかっかした。父が一日の終わり、晩酌として飲んでいる日本酒とは別に、最後の最後にウイスキーの角瓶を蓋に注いで一杯だけ飲む。その後うおおおってなって体がかっかかっかするといってた。もちろん私は未成年だから飲んだことは無いけど、でもそういう表現がぴったりな気がした。確信的にした。かっかかっかした。体が。何か仕様禁止の混ぜ物でも入ってる石炭を入れた機関車のような。

かっかかっかした。

「そうですか。ありがとうございました」
先輩にはそう言って頭を下げて、私が先にその場を立ち去ったけど、でもその間も体はかっかかっかしてた。一歩一歩ごとに体はかっかしてた。かっかかっかしてた。

「タイプじゃない?」
タイプじゃないって何?タイプとかタイプじゃないって何?もし自分があそこで、
「じゃあ、あなたのタイプに近づく努力をします」
って言ってたらどうなった?

どうなっただろう?そしたら付き合うっていう事になっただろうか?

「・・・」
いや、言わないでよかった。絶対そうだ。言わないでよかった。そんなの別れ間際にダメなところ直すからとかいうのと変わらない。そんなことしたくない。そもそもする選択肢があったのか私?今こうして考えているという事はそういう事なのか?私は先輩の足に縋りついてでも、そういうことをしなくてはいけなかったのか?そんな事、
「ないよな・・・」
体がかっかする。

夜まで、ずっとかっかしていた。

家に帰って母が晩御飯に何を作っているのかを確認した時も、二階の自分の部屋に戻って着替えて勉強をしている時も、父が帰ってきて晩御飯になった時も、お風呂に入ってる時も、夜ようつべを観てるときも、ずっと体はかっかしていた。

そして寝るためにベッドに入った時ふと思った。

「殺そう。先輩を殺そう」
私を振った先輩を殺そう。

そう思ったら体のかっかが止まった。

これが正解なんだ。そう確信した。

家の裏にちょっとした山がある。そこに穴を掘って殺した先輩を埋めよう。

トイレに降りるふりをして階下に降り、玄関から靴をとってまた自室に戻った。

中学の頃に着ていたジャージに着替えて窓を開け屋根伝いに家の塀に降りた。庭にあるシャベルを掴んで誰にも見られていない事を確認して裏山に向かう。

「ここでいいか」
そして適当なところに穴を掘り始めた。

殺そう。

先輩を殺そう。

どうやって殺そう。穴を掘りながら考えた。無策では難しいだろう。昨今どこぞかしこぞにカメラがあるという。それはおそらくこんな田舎でも警戒しなくてはいけない事だと思う。下手なところで私が見られたら、カメラに写ったらそれで犯行がばれてしまう可能性がある。

犯行がばれたら、タイプじゃないと言われてかーっとなって殺した。っていう糞みたいな理由が世に露見する。嫌だ。いやだいやだそんなの。

穴を掘りながら考えた。

しかし少ししたら手が痛くなってきた。

「明日は軍手がいるな」
明日は軍手を用意しよう。

そうしてその日の穴掘りは終了して家に帰った。シャベルをもとあった場所に戻して塀に上り、音をさせないようにして自分の部屋に窓から入った。

「うわあ・・・」
帰って明るいところで確認してみるとジャージも靴も泥だらけだった。ジャージはもともとこの部屋にあったものだからビニール袋にでも入れて少しの間隠しておくのは簡単だろう。そんで土曜日とか父も母もいない時間帯に洗濯したらいい。ただ靴は・・・。
「間とかにもすごい」
入ってる。土とか。

その後一時間かけて、靴の土を削った鉛筆とか先の尖ったものを突っ込んで落とした。

先輩を殺すためだと思うと、苦ではなかった。

そして次の日から穴掘りが日課になった。二日目からは軍手やタオルも用意したし、ダイエーの二階のちょっとした靴売り場みたいな所で二千円くらいのやっすい靴をお小遣いをはたいて買ったりした。

「学校の花壇の整備で使うんでー」
みたいな顔をして。

そうして毎日深夜ちょっと家を抜け出しては穴を掘った。携帯のちょっとしたディスプレイのライトと、夜空の星を頼りに暗闇の中でこつこつと穴を掘った。

もともと誰も来ないような山である。信じられないほど暗い。外灯の類もない。でも先輩を殺して埋めるんだと思うと、怖くもなんともない。あとはどうやって殺すか。どこで殺すか。どうやってここに運び込むか。それともここに呼ぶのがいいのか。呼ぶとしてどうやって呼ぶか。私が呼んだとは思われないように呼ぶにはどうしたらいいのか?

そうして穴を掘って10日。

その穴の側壁からタケノコが頭を出していた。

よくよく確認してみると、近くに竹林がある。先輩を殺そうっていう気持ちが強すぎて全然見てなかった。全然気が付かなかった。

「急に私がタケノコをもって家に帰ったらさすがに怪しまれるよな」
でも、若竹煮とか食べたいなあー。そう思ってタケノコを掘り返してみると思った以上に大きい。それにタケノコの形をしていない。

全部ほじくり返すのに随分と時間がかかった。
「うおおお」
ほじくり返したタケノコは人の形をしていた。

「先輩だ」
先輩の形をしたタケノコだった。その日は月が明るくて携帯で照らさなくても確認ができた。先輩の形だ。私が満願を込めて好きだと告白した先輩の形。告白するまでずっと頭の中にあったからわかる。わかるんだよ。先輩がずっと頭の中にいたから。数多の先輩が頭の中にいたから。

「・・・」
それを穴に埋めた。

土をかぶせて穴を元通りにした。

そうすると先輩に対しての想いとか、かっかかっかしたあの気持ちとか、そういう色々がどうでもよくなった。すっきりした。さっぱりした。

それからは学校で先輩に会っても軽会釈する位には戻った。でももう先輩に対して何とも思っていなかった。

あと穴堀で多少体重が落ちたので、その分シュークリームを買ってバクバク食べた。甘くておいしかった。うひょーってなった。甘さが堪えるぜえってなった。

もうそうだけ

もうそうだけ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-03-22

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