【土山】鼓動に忠誠を

しずよ

二次創作(腐)につきご注意ください。
2012年頃に旧サイトに掲載していた土山です。
胸の音を聞いて眠るような、静かな夜が時にはあってもいいんじゃないかな、と思って書きました。
サイト掲載時とはタイトル変えています。前のはあまりにも中ニくさくて、恥ずかしくなりました笑

 部屋にいた俺の腕を副長はぎゅっと掴み、引きずるように連行した。
「ちょっと! どこ行くんですか」
 チラリと俺を振り返り、ひとこと「急用」と抑揚のない調子で言う。んん、もう夜の九時なのに用事? 仕事とは違うのか……?
 門を出るとタクシーに押し込まれる。
「新宿五丁目の北公園。あ、五分で行って」と副長は運転手に告げた。すると「ええ! 旦那そりゃ無理っすよ」と情けない声をあげた。確かに新宿五丁目だったら二倍時間がかかるんじゃないか。
 警察官にスピード違反を強要されたタクシーは、六分で公園に到着した。この町は天人の多い繁華街だ。
 何も言わずすたすたと副長は歩き出す。遅れないように後を追う。
 公園に入る。その途端に副長は振り向いて俺の手を取る。ごく普通に手をつないで歩くので驚いた。
「あ、あのふくちょ……」
 すごい形相で振り返り、手のひらで口を塞がれた。一体なんなんだ……、しゃべるなという意味か。
 園内をぐるっと歩く。副長の顔を横から伺うと、視線だけ彷徨わせている。誰か探している風だ。 場所柄、この時間帯でも天人や人は多いと思ったが見かけない。と、感じたのはものの一分で、植え込みや木の影に人が見えた。しかも怪しげな息遣いも聞こえる。ここってひょっとして……。
 高さが七十cmほどの植え込みのブロックに副長が座る。俺も隣に腰掛けていいんだろうか。迷っていたら、なんと副長は自分の膝の上を指差した。
 ええ? 膝の上に座れってこと?
 いい加減に説明してくれないかな。俺の勘違いだったら困るじゃないか。異教徒でもないのに、俺は胸の前で十字を切りたくなった。恐る恐る、副長の膝の上に横向きで座った。
 するり頭を撫でられ俺の顔の向きをやんわりと変える。副長と向き合う。そのまま頭を押されて、息がかかる距離になった。そこでようやく副長は俺の耳元でささやく。
「後ろの会話」
 植え込みの向こう側を葉の隙間からどうにかのぞくと人影があり、ふたり並んでベタベタしている。奴らが何なのか知らないけど、会話を聞けってことなんだろう。なのでいちゃいちゃする振りをしながら、聞き耳をたてた。
「……人事課の……来週顔見せるか……例の……大丈夫、松平は……」
 松平って、これひょっとして、とっつぁんのことじゃないのか。少しだけ話が読めた。
 しかしあちらが実のある会話をしていたのは十分程度で、次第に興奮しはじめた。息遣いが荒くなる。
「……」
 こちらも負けじと下半身に手を伸ばし……、という訳にはいかず、微妙な雰囲気になった。顔を見合わせる。
「帰るぞ」
 小さく指示されサッと膝から降りて、歩き出す。公園を出ると手も離れ、途端に「はーあ」と盛大にため息をつく。
「まぁ、帰ってから話すわ。……つーか、帰る?」
 誘うような視線をこちらに向けるのが少し意外だった。
「アンタのお好きにどうぞ」
 膝の上では軽く足を撫でられたり、俺も副長の首筋にキスをする振りをしたり。それが返って興奮をあおったんだろう。
 先ほどの公園はいわゆるハッテンバだ。繁華街と言えど天人が多いと、 治外法権の雰囲気に押されて普段はあまりパトロールしない場所だ。
 まっすぐ帰らないならホテルへ行くんだろうか? 副長は黙って歩いて行くので、着いて行く。
「えーと、確かこっち」
「どこ向かってるんですか」
「野郎二人でも入れるラブホ」
 なんでそんなの知ってるんだと困惑して横顔を見たら「ちげーよ。とっつぁんに聞いたんだって」となおさら不可解なことを言った。
「ええっ! とっつぁんにバレてるんですか」
「それも違う。ほら行くぞ」
 古びた五階建ての建物の前に着く。部屋に入ると、絵に描いたようないかがわしさが満点だった。
「さっきの連中、なんて言ってたか分かったか?」
「あー、覚えている限りを書き出しましょうか」
 二人で発言内容を整理する。
「俺はとっつぁんに連絡するから、お前が先に風呂いけよ」
 シャワーを浴びて出てくると、土方さんは寝そべってタバコを吸っている。
「寝タバコは危ないですよ」
 そう言いながらベッドに腰掛ける。
「本庁の揉め事は手前らで解決しろよっつったんだけどな、官房参事の進藤って奴まで疑い始めなきゃいけない事態になったって、落ち込んでんだよ。……なんか気の毒になってさ」
 官房参事は事務方の課長みたいなものだと、いぜん局長から聞いたことがある。それなのに裏切りなんて。副長が同情するのも分かる。
「ハハ、土方さんらしいですよね」
「うるせえよ」
「俺はそう言うことにはならないから、安心してくださいね」
 にっこりと笑う。
「急にしおらしいこと言いやがって」
 照れるかと思ったけど、副長はなぜか難しい顔をした。
「ホシがさっきの公園で資金調達してるの突き止めたんだと。このホテルでも頻繁に目撃されていたらしい。……一時間前だったかな。とっつぁんから電話があってさ、公園に現れたから適当に誰か連れて証拠固めして来いって言うんだよ」
 それを聞いて、隈無さんや原田の膝の上に座りベタベタしている副長を想像してしまい、思わず吹き出した。すると「妙な想像しただろ」と頬を抓られた。痛い。
「何で俺たちが出張らなきゃならねえんだよって言い返したんだけどさ、面が割れてなくて信用できるのがすぐ思い浮かばねえんだ! なんて泣きつかれてさ」まぁ、面倒臭かっただけかもしんねえけど、と付けたした。
 間が空く。何か言葉が続くかと思い副長を見ると、射抜くように見つめ返された。まるで、問いかけているような強い瞳。手が伸びてきて引き寄せられる。逆らわずキスをした。
「ああいうのどう思う?」
「取引ですか? 天人とつるまれちゃあ厄介ですよね……。なんか芋づる式で他の職員も出てくるんじゃないでしょうか……」
 前かがみの体勢で腕が辛くなってきたので、土方さんの胸の上に寝そべった。するとトクントクンと鼓動が俺の顔にも伝わる。
「シャワー浴びてくる」
 俺が胸の上から離れると、すぐに扉の向こうへ姿が消えた。誘う割には今ひとつそんな気がないように見える。もしかして自分に置き換えたんだろうか。
 裏切りとか心変わり。
 俺は裏切らない、と言うよりは、ずっと平穏無事でいられる時間はそう長くないんだろうと、なんとなくそう思っているだけだ。だからと言って、とくべつ悲観している訳じゃない。自分の命の使い方は、これがベストなんだと思っている。
 俺の方が先にあの世へ行くことになるだろうから、ちゃんと信頼できる人間は他にも見つけてほしいと思う。
 そこまで考えて、さっきの質問の答えが的はずれだったことに気がついた。
 しんみりしていたのは、どんな理由であろうと信頼している者がいなくなる寂しさ。
 参ったな。やっぱり俺が長生きしなきゃいけないじゃないか。この人には俺は予定が狂わされっぱなしだ。
 とは言え、演技でも外で堂々といちゃつくなんて思いもしなかった。もし俺が屯所を空けている期間だったら、誰を連れて行ったんだろう。本気で気になる。
 扉が開き、土方さんが俺の隣へ腰掛ける。シャワーの前に飲んでいたものらしいペットボトルに口をつける。
「結構あちいな」
「今日は上着いらなかったですね」
 タバコを吸うのかと思ったら、照明をすぐに消した。そして土方さんは隣に仰向けに寝転ぶ。
「疲れたんですか?」
「いや、そうじゃねえよ」
「このまま寝ます?」
「寝るだけだったら、最初から屯所帰るわ」
 俺はさっきみたいに土方さんの胸に耳をあてた。呼吸と一緒に俺の視界も揺れる。
「なにしてんの」
「心臓の音、聞いてます」
「おもしれえのか?」
「面白いって言うか、生きてる感じがします。それに自分じゃ胸の音なんて聞けんでしょう。だから俺が聞くんです」
 そう言うと、土方さんは何かを思い巡らすような表情に変わった。少しして体を返され、彼が俺の胸に耳をあてる。いつもはよく見えないつむじが見える。
「意外と露骨な音だよな」
「そうかも。筋肉が動いてるって感じがしますよね」
 しばらくして浴衣の前を肌蹴けられた。ほんの一瞬、土方さんの目が曇る。心臓のほど近くの傷のせいだ。見るたびいつもそんな顔をする。すぐに元に戻り、今度は肌に直に耳をあててきた。
「さっきより早くなったぞ」
「それは……、急に浴衣を脱がせるからですよ」
「期待した?」
 聞く声が少し弾んでいた。それから特に身動きせず、三十分くらいは経過したと思う。寝てるんじゃないだろうか。
「土方さん」
 そっと声を掛けると「飽きないもんだな。でも寝ちまいそう」とボソボソと声が返ってくる。
 気疲れしたんだろう。今夜は土方さんが先に眠るまで、ずっとこうしていようと思った。大人にも添い寝が必要な夜もある。
 規則正しい心音は子守唄にぴったりかもしれない。すぐに寝息が聞こえてきて、俺の今夜の任務が成功してホッとした。
〈了〉

【土山】鼓動に忠誠を

【土山】鼓動に忠誠を

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
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登録日

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