闇に呑まれろ
その男は
奇声を発しながら、自らの身体を大ぶりの刀で刻みはじめた。
胸が十字にえぐられる。
腕にも腹にも、次々と刀を突き刺す。
すくんで動けない僕は
男の奇声と、その返り血を全身に浴びる。
まるで雷雨のごとく。
返り血は、ただの血じゃない。
男が抱えている憎悪、暴力、そして悲哀。
全ての負の感情が、その血を通して、僕の全身を駆け巡る。
お前の悲しみを放出せよ。
身体に刀を突き刺せ。
返り血に、己の血を混ぜろ。
声に従い、膝をつく。
亀のように地面を這いつくばり、悪をかき集める。
あるだろう?
あるだろう?
思い出せ
理不尽な差別を
圧倒的な暴力を
謂れのない屈辱を
吐き散らせ 毒を
切り刻め 身体を
闇に呑まれろ
闇に呑まれろ