宇宙人二世 マリア 3

「ああこれは、あの機械から出したんだよ」
「あのパソコンのようなもので」
「そうだよ。必要なら他にも取り出しみようか」
「駄目よ。そんなズルしては人間社会にはルールというものがあるの。苦労しないで手に入れるのもルール違反。人間は働いてお金を手に入れて、そのお金で物を買ったり食べたり遊んだりするの」

 佐希子は頭を抱えた。やはり人間の姿をしていても人間を理解させるのは難しいのか。なんとかして特殊能力を消せないだろうか。この調子なら家に居ながらなんでも手に入れてしまうだろう。金が必要と言ったら、あの不思議な機械で好きなだけ取り出しかもしれない。
「あのね。ドリューン人間として生きて行くなら、その機会を処分して。そうしないと私は貴方を面倒見切れない。私は帰るわ。あとは一人で生きて行きなさい」
「サキコそんなに怒るなよ。人間になる為に学習しなくてはならない。その為にこの機械は必要なんだよ」
「それならその機械で人間社会を勉強して。一週間だけ待ってやる。その間に全てを吸収して宇宙人なのだから一週間あれば充分でしょう。それでパソコンの操作も学んで出来るようになったら次からパソコンを使って、そしてその機械は処分して便利過ぎると努力をしなくなるから」
 佐希子の凄い剣幕にドリューンはシュンとなった。以外と素直で可愛いところがある。
「分った。一週間でマスターするよ。その後はこの機械を処分する」
「約束よ。破ったらもう面倒見ないからね」
 納得した佐希子は機械から取り出した料理を摘まんでみた。普通の料理だ。何処かのレストランから出来た物を電送したのだろうか。理解出来ないが捨てる訳にも行かず二人で食べ捲った。残った物は冷蔵庫に入れ、佐希子はワインを持って来た。
「それは何、食べ物にしては液体のようだが」
「人間は飲み物も必要なの。これはワイン。アルコールが入っているの。ドリューンは馴れてから飲ませてあげる」
「ふ~ん人間って面白い生物だね。私も早く本当の人間になれるように努力するよ」
「そうして、じゃあ今日は色々あったから疲れた。寝ましょう。と言ってもドリューンは寝る事が出来るの。ベッドで寝るのよ」
「私は寝る事は知らない。だから立ったままでいい」
「立ったまま? ああ疲れる。人間は睡眠が必要なの。寝るとは横になって目と閉じて寝るの。ドリューンが立ったままで居たら私が落ち着いて眠れないわよ」
 それから三日が過ぎた。その間ドリューンは不思議な機械で地球や人間の事を学んでいるようだ。人間なら三年は掛かる事をたった三日間で学んだ。その証拠に料理を作るようになり掃除も始めた。恐ろしいほどの吸収力だ。それから更に二日が過ぎ休暇は無くなった。仕方なく体調壊しと三日間有給休暇を使わせて貰った。取り敢えずドリューンを車に乗せ家に帰る事した。
  佐希子は車の中で自分の家族に合わせるからドリューンにイタリア人になり切るように伝えた。それと苗字も決めなくてはならない。イタリア人は何故かアで始まる苗字が殆どと言ってよいほどアで始まる。そこでドリューン・アンドレと決めた。
「今から貴方はドリューン。アンドレよ。そうそう私は佐希子・東野。ただ日本では苗字が先読みだからトウノ・サキコが正しい呼びかたよ」
「良く分かった。それから君の家族に会う時の挨拶も覚えたよ。初めまして私はドリューン・アンドレです。イタリア人で日本を旅行中に佐希子さんとお友だちになりました。よろしくお願いいたします。どうこれで」
「お~流石、もう完璧よ。それとこれからどうするの。日本で働かなくてはならないのよ。仕事は出来るの」
「大丈夫、パソコンもマスターしたし車も運転出来るよ。料理も力仕事でもなんでも出来る」
「知っているわ。別荘で私の車を勝手にキーもないのに車を動かしていたものね。また特殊能力を使ったのね」
「ごめん、便利だからつい」
「これからは人の前では使わないでね。怖がって誰も貴方に寄り付かなくなるわよ」
「分った。これからは人間として生きて行くのだから全て佐希子に従うよ」
 最近のドリューンはやけに素直で可愛い。つい母性本能がくすぐられる。いやいや宇宙人に惚れる訳には行かないと否定したが、否定しても惹かれて行くことにはどうにもならない。佐希子はドリューンの持っているパソコンのような機械を処分すると言って預かっているが本当に処分していいか迷っている。何かあった時の為に隠してある。
 やがて佐希子の実家に到着した。実家は東京といっても山郷にある奥多摩だ。周りは山ばかりでとても東京とは思えない。佐希子は両親に友人を連れて帰ると伝えてあった。ただ外国人とは伝えていないから驚くかも知れない。

「ただいま~いま帰りました。お土産沢山買って来たからね」
すると近くで育てていた野菜を持って母が笑顔でお帰りと言った。
「あらお友だちって外国の方なの」
「そうよ、旅先で仲良くなって暫く泊めるからね。お父さんは?」
「ああ間もなく帰って来るよ。佐希子が帰って来るというので仕事の帰りに肉を買ってくると言っていた」
「へぇ~じゃ今夜はスキヤキかな」
佐希子が食べたいならスキヤキにしょうかね。そちらの外人さん口に合うかな」
「ああ紹介するね。イタリアの人、日本で働きたいそうよ」
「初めまして私はドリューン・アンドレです。宜しくお願いします」
「あれまぁ日本語が上手なこと。日本語が話せるなら仕事もすぐ見つかるさ」
 それから間もなく父が帰って来た。ドリューンを見て少し驚いているが歓迎してくれた。その夜はスキヤキ歓迎パーティとなった。ドリューンは何処から見ても不思議なところはない。素直で冗談まで覚えて両親を笑わせてくれた。思いのほか好かれているようだ。ドリューンは食べる事の喜びを覚えた。いまでは問題なくなんでも食べられるようになった。そしてアルコールも飲めるようになった。なんという吸収力の高さか。もうどこから見ても普通の人間だ。
 翌日から仕事探しを始めた。雑誌で探しのではなくパソコンで探した。ドリューンはコンピューター関係の仕事がいいと青梅市に募集している会社があった。ゲームソフト開発会社のようだ。日本人スタッフだけのようだがイタリア人の発想も面白いと採用になった。佐希子は父が勤める役場で働いている。ドリューンをいつまでも家に泊めて行く訳にも行かない。佐希子は近くにアパートを借りてあげた。しかし外国人という設定だが一人で暮らせるか心配だ。佐希子は仕事が終わると毎日ドリューンのアパートを訪れ何かと面倒を見てやった。それから休みの日などはピクニックにも行くようになった。半分は両親も参加して、そんな日々が一年続いた。この頃になると両親を含め誰もが認める恋人同士となっていた。佐希子も宇宙人という事はもはや頭になかった。こうして二人は結婚した。結婚式にはドリューンの親は出席しなかった。そなんものは最初から居ないのだから病気で海外に出る事は出来ないという事になっている。その代わり電話や手紙は両親の元に届く。勿論、音声も作られたもので手紙も同じだ。 
 ドリューンは既に人間になりきっていた。ただ困った時だけ佐希子の許しを得て特殊な機能を発揮した。例えば戸籍の取得を役所のコンピューターへハッカーして勝手に戸籍を作ったりもする。勿論パスポートも取得、更に車の免許に特殊技師として日本で働ける就業ビザまで作った。佐希子の両親もイタリア人として疑う事はなかった。
つづく

宇宙人二世 マリア 3

宇宙人二世 マリア 3

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-18

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