宇宙人二世 マリア 2
アルタイル星人
するとドリューンは海外旅行などに使われるキャリアバックのように物からパソコンのような物を取り出した。だがキーボードは付いていない。十インチ程度の画面のような物があるだけだ。どうやらタッチパネルのようになっているらしい。だが画像がパネルの中ではなく放射状に淡い緑色の光が浮かび空間に画像が浮かび上がった。文字のようで絵のような物が見える。それを操作している。
「地球には風邪という菌がある事が分かった。我々の星にはない菌だ。この菌の一種が私の体を脅かしているようだ。この菌を取り除く方法はないのか?」
「風邪? そんな菌なら風邪薬で治るわよ。それなら持っているわよ。でも人間じゃないから……効くかどうか」
「それがあるなら見せてくれ」
佐希子は旅行中いつも最低限の常備薬は持ち歩いている。風邪薬もそのひとつだ。
「はい、どうぞ」
ドリューンはそのカプセルに入った風邪薬を開け、手の平に載せるとそれを眺めた。なんとその眼からは青白い光が放射状に薬を照らし始めた。
佐希子は流石に後ずさりした。安心しろと言われても人間じゃない事が改めて思い知らされた。どうやらドリューンは薬の分析をしているようだ。
「驚かしてすまない。このカプセルは私を助けてくれそうだ。貰っていいかな」
「いいわよ……そんな物で治るの?」
「分析の結果、有効のようだ。人間そっくりに改造した肉体だからね」
「改造? じゃあ元の形はどんな風なの?」
「形はない。我々生物は目に見えないような微粒子で出来ている。その微粒子の集合体が集って脳が出来、身体が出来上がって行くが体力がない。しかし脳だけは発達して脳が指令を出し色んな物体に形を変える事が出来るのだ。だが風邪という細菌は我々には脅威だ」
「じゃあ貴方は微粒子の塊なの?」
「ああそうだ。だが私は地球に取り残された微粒子の塊、地球に住む以上は微粒子を符合し続けるしかないのだ。我々は学習する能力がある。だから風邪に対して免疫が出来ればもう大丈夫だ」
佐希子は言っている事を理解しようとするが、微粒子の塊がこのドリューンだとは理解を超えていた。しかし何処から見ても人間そのものだ。眼はやや青く髪はグレーのような妙な色だった。ただ人前で眼から光を放ったら誰もが驚き人とは思わないだろう。
「でも地球で生きて行く為には沢山の菌があるのよ。それに一人では生きて行けないわよ」
「君だけが頼りだ。だから助けて欲しい。その代わり君の為なら何でもする。そして人間になりきる事を誓うよ」
助けて欲しいというから佐希子は助けたが相手は宇宙人、心配は大いにある。佐希子は人間ならともかく宇宙人を助ける意志があるないに関わらず、既に脳はコントロールされていて断る事も出来なかった。ただコントロールされたと言っても、ある程度は佐希子の心は残っている。佐希子はドリューンに言った。
「ねぇ私の助けが必要なら私をコントロールするのは止めて。そして人間として生きて行くなら完璧とまでとは言わないが、人間になりきって生活するのよ。それと私の名は東野佐希子。では貴方をこれからドリューンと呼ぶわね」
「分った、誓うよ。ただ一度人間に作り上げたら二度と戻し事が出来ない。細胞が分裂すれば私は死ぬ。だから君だけが頼りだ。私もこれからサキコと呼ばせて貰う」
「分ったわ。協力しましょう。でも特殊な能力は残るでしょう」
「それは制御出来るが消すことが出来ない。さっき約束した通り佐希子の心は支配しないと約束する」
佐希子はドリューンをこのまま人に合わせる訳には行かないと思い、今日から暫く泊まる予定だった友人から借りた別荘に連れて行く事にした。幸いこの別荘は電気ガス水道の設備も整っていて生活するには問題ない。途中スーパーに寄り食料など必要な物を買った。その間ドリューンは車の中で待たせた。もし居なくなるならそれでいい。何も宇宙人の面倒を無理にみる必要がない。だがドリューンは大人しく車の中で待っていた。本当に私だけが頼りなのだろう。仕方がない面倒見る事にした。
「ねぇドリューン、貴方の星ではドリューンと呼ばれていたの。貴方はこれから此処で暫く暮らすのよ。地球で生きて行く為には人間を理解し人間に溶け込まなくてはいけない」
「ああ、ドリューンは咄嗟に思いついた名前だ。人類には名前があると調べてあるから。サキコの言う通りにする。これから何をすれば良いのか教えてくれ」
「いいわ。処で貴方は、食事はどうするの。人間は食べて栄養を蓄え身体を保っているの」
「食べ物? 私の星では食べる習慣はない。元は粒子の集合体だから」
「えっしかし今は人間になったのでしょう。何も食べないと栄養失調で死んでしまうのよ」
「ふ~ん。身体が受け付けるか分からない?」
「人間は食べて飲んで生きて行くの。それと食べるのは楽しみでもあるのよ」
「楽しみ? 楽しみとは何のこと」
「もう一から説明するのは大変だわ。人間には喜怒哀楽というモノあるの。ドリューンは意志と言うものはないの」
「まてまて、サキコの言っている事は理解し難い。まず食べる事と喜怒哀楽について調べて見よう」
「ええ人間になるのだから、なんでも吸収してね。私は二階を掃除してくるからね」
佐希子が二階に行って居る間にドリューンはまたパソコンのような物を取り出し何やら調べ始めた。例によって空中に絵や文字が浮かび上がる。それから色んな食べ物が浮かび、その料理に手を伸ばして、なんと料理を取り出しではないか。次から次と料理を取り出し二十種類をテーブルに並べた。
「あれ~なんかいい匂いして来たね。出前でも頼んだ……んな訳ないよね。出前の仕方も分からないのに」
佐希子が下に降りて来ると沢山の料理が並べられていた。それをドリューンは試食を始めた。
「なっ! なにこの料理どこから来たの。いつの間に出前の取り方を覚えたの」
「嗚呼、サキコ。確かに食べると美味しいね。これが食べる楽しみか」
佐希子は茫然と立ち尽くし料理を眺めた。驚く佐希子を気にする事もなく次々と食べ続けて居る。
「一体どうなっているの? ドリューン。もう食べられるようになったの。ねぇこの料理は何処から来たの」
ドリューンは食べるのに夢中になっていたが、やっと驚く佐希子に微笑んだ。
つづく
宇宙人二世 マリア 2