グラデュエーション

わたしの国で、夜は朝よりも明るい。一年生が朝だとしたら、午後になるとわたしはたくさんのわたしを殺していた。放課後、校舎の裏でひとり、カラフルな涙を流しながら信頼の類義語を捜す。そのときのわたしの目は、白よりも優しい黒だったかもしれない。あるいは、くすんだ鼠色。おとなたちは等号を振りかざす。イコールを押しつける。だから灰色の瞳で信頼に等号をたくさんつけようとしている自分が、澱んだおとなに近づいているような気がして、浅ましくおもったし、叫びたくなったし、逃げだしたくなった。どこかしらないところへ。放課後になると、ようやくひとりで太陽を殺せるようになる。息の根が絶えるまで、何度も何度も何度も刃を突き刺す。おとなになりたくないのは、返り血を浴びるのが気持ちいいから。二年生、昼はひとりで嗤っていた。溺れそうな夜だった。自分の涙で溺れて窒息しそうな、そんな愛しい夜だった。カラフルな涙がツートンカラーの海になる。その境界線が消えないようになぞりつづけることが、わたしの支えになった。朝に聴こえた諦めということばが、いまはもう遠く昔のことのように感じる。羽がぼろぼろになっても、まだ飛べそうな気がした。目を背けることに目を背ける。信頼は諦めることを諦めることだと、あの頃のわたしにおしえてあげたい。ネオンが、ランプが、キャンドルが、優しさをいつまでもどこまでも放っている。三年生の、卒業式。きみが死んでも、わたしの心臓は動いてしまう。制服がただの布切れになる。それでもわたしの国で、夜は朝よりも明るい。