あの花の咲く頃に

注意事項
①米印はト書きです。読まないでください。
②カッコ内は読んでください。
③この作品は、男性3人女性3人の合計6人の声劇です。

あの花の咲く頃に

〔登場人物〕
・里本 純也(さともとじゅんや/男)
・天野 瑠莉(あまのるり/女)
・天野 哲夫(あまのてつお/男)
・河東 駿太(かとうしゅんた/男)
・里本 麗(さともとれい/女)
・遠藤 恭子(えんどうきょうこ/女)
(※Nは、ナレーションの意)


純也:あ、お花だ。こんなところに咲いているんだ。
えっと、この花は確か“アネモネ”って言うんだっけ?初めて知ったのって、彼女と散歩をしていた時だっけかな。懐かしいなぁ~。

“あの時から、また季節が廻って(めぐって)来たんだ。”


(※純也の回想スタート。)

純也(N):その花の存在を知ったのは、彼女のおかげ。もし彼女と出会っていなかったら・付き合っていなかったら存在すら知ることも無かっただろう。今では強引な告白だと思えるが、笑い話となっては良き思い出である。


純也:あ、あの!

瑠莉:?

純也:あ、天野さんに話がありまして。

瑠莉:私に?何かしら?

純也:“…、ぼ、僕と。

僕と付き合ってください!”

瑠莉:じゅ、じゅんくん?!

純也:よく図書館で似たジャンルの本を読んではその帰りに一緒に話をして、勉強も色々と教えてもらって。こんなばか野郎な後輩にも笑いながら優しく接してもらえるだなんて。
僕、先輩ともっと一緒にお話がしたいですしもっと勉強がしたい・教えてもらいたいのです。もっと勉強して逆に教えられるように頑張りたいのです!

瑠莉:じゅんくん…。

純也:こんな拙い(つたない)理由になってしまいますが。

“天野先輩”僕と付き合ってください。お願いします!!


瑠莉:…。

純也:(あぁ…。俺、やっちまったよ。とうとうやらかしたよ。
…泣きたい。恥ずかしい。)

瑠莉:…それ、本気で捉えて良いのかしら?

純也:はい!

瑠莉:嘘とかじゃないわよね?

純也:はい!

もしこれで私が全然勉強していなかったら、先輩から別れてもらって結構です。

瑠莉:…なら、私は信じるわ。最近のキミはテストや模試で上位陣に食い込んできているようだから、このままさらにトップグループ、具体的には20位以内に入ったらOKを出すわ。
それまでは、保留。

純也:再来週に期末試験があるので、その順位で判断をお願いします!

瑠莉:わかったわ。

“頑張って。”


純也(N):そこから私は、寝る間も惜しんで勉強した。バスケ部で疲弊しながらも隙間を見つけては単語帳を読み込んでいた。クマが酷くなったりたまに体調がおかしい時もあり先生や知人に心配されたこともあった。

河東:なぁ、純也。お前、最近何かおかしいぞ。

純也:…。

河東:お前、何か変なもの食べたりしてねぇよな?それとも、何かに絶望したのか?

純也:…!(怒)

河東:おい、さt…

(※河東の話を遮るように)

純也:“うっせぇ!一人にさせてくれ!!”

河東:さ、里本?

一緒に帰るんじゃないのか??

純也:悪いけど、先に一人で帰って。後から追っかける。何かありゃ連絡するから。

河東:お、おう…。
(最近、アイツ何かがおかしいんだよ。狂ったように勉強し出すし。部活よりも勉強がしたいんじゃねぇのかなぁ?見るからに「早く終われ!」って顔してるんだよ。)


遠藤:里本くん?そろそろ校舎閉めますよ??

純也:…ハッ!

遠藤先生!!

遠藤:里本くん。勉強をするのはいいけど、時間をよく見てちょうだい?もうすぐ夜の8時よ。親御さんに怒られても知りませんよ?

純也:はい。わかりました。

遠藤先生、さようなら。

遠藤:さようなら。気をつけて帰ってね。


純也(N):こんな日が数日続き、何とか勉強してテストに臨めた。


瑠莉:さて、順位が出たようね。

純也:先輩。こちらです。

瑠莉:どれどれ…。なるほどなるほど。

クラス順位が40人中1位でコース順位が158人中1位、学年順位は275人中8位。

“コース順位1位?!学年順位はTOP10以内に入っている…。”

純也:先輩。僕はあの時の言葉を忘れていません。
この場で、改めて言います。

“僕と付き合ってください!!”

瑠莉:“こちらこそ、お願いします”

このまま良い順位をキープできるように頑張ってください。私も応援します♡

純也:“はい!ありがとうございます!!”

瑠莉:あと、私の事は“るり”って呼び捨てでいいわ。ただし、校内ではきちんと先輩付けさせること。

純也:はい。


純也(N):この“るり”が私の彼女である。1つ上の先輩である。
その後も勉強熱心だった私は周りの事をお構いなく頭の中はそれでいっぱい。
それを見かねて、るりは“散歩”を提案してくれた。これは所謂(いわゆる)デートというわけだが、ただ単に川沿いを歩くだけのものだった。プリクラや映画といった定番のものではない。“静(じょう)のデート”とでも形容しておこう。

瑠莉:今日は天気がいいわね。気持ちいいわ♪

純也:そうですね。散歩をするにはもってこいです。

瑠莉:あぁ♡ ねぇねぇ、見て見て?このお花。

純也:綺麗ですね♪

瑠莉:このお花、“アネモネ”って言うの。白や青色が咲いているみたいね。赤色も、小さいけど咲いているようね。

このお花は、“会いたい”っていう花言葉があるらしいの。色によっても意味が異なるみたい。赤は「君を愛す」っていう意味らしいの。

純也:なるほど。

瑠莉:まだ小さい赤いお花だから、これから私たちの恋が成就するのを分かっていたりして。

純也:だといいですね。

アハハ。

瑠莉:うふふ♡

純也:るり♡

せっかくだから、この赤いの育てようか。これ以外にも、奥に一本あったから一緒に育てて大きくさせよう。

瑠莉:じゅん、そうね。私たちの恋が実ったら、大きく咲くのよね?

純也:えぇ!


瑠莉(N):じゅんは先輩の私を頑張ってエスコートしてくれた。たまにカフェでお茶を飲んだり、本や服を買いに出かけたり。とても楽しかった。とても充実していた。

“じゅん、大好きだよ♡愛してる♡”


河東(N):翌年の6月初旬。事態は急変した。純也の様子がおかしかった。これは遠藤先生を始めとした他の教師陣、校長先生にまで心配をさせるものとなっていた。

というのも、この高校の生徒が交通事故に巻き込まれてしまったらしい。被害者は“高校3年生の女子生徒”で複数人いたらしい。そこまでしかニュースでは伝えられていなかったが、どうやらこの“生徒”に彼が反応を示したのだ。

純也:…。
(※窓の外を見て現実逃避中。)

河東:お~い、純也~?

純也:…。

河東:お前、先生にあてられているぞ?気づけ。

お~い。
(まだ心配になっているのか。)

遠藤:里本君。教科書の114頁(ページ)を読んでね。

里本君?

河東:先生、里本君が反応しません。

遠藤:(…ま、心配になるわよね。)

わかりました。では、河東君。代わりにお願い。

河東:はい。


(※本日の授業がすべて終了)

遠藤:今日はここまで。引き続き、帰りのST(エスティー)に入るわ。来週の月曜日は、緊急で全校集会をやることになったから忘れないで。それと、水曜日からは2泊3日で修学旅行だから忘れないように。

最後に、“里本君”?

純也:…?

僕ですか?

遠藤:そう、貴方よ。

この後、私のところに来て。

純也:はい。

遠藤:今日はここまで。気をつけて帰るのよ。

河東:先生、さようなら。


(※ST後)

遠藤:今日の授業は全然乗り気じゃなかったようね。

純也:…はい。今はとにかく心配で心配で。

遠藤:…まぁ、無理もないわね。

確かに、ここの生徒が巻き込まれた。女子生徒が被害を受けたわ。

純也:犯人は?犯人は?!

“犯人は誰なんですか?!”

遠藤:いちよ、捕まってはいるみたいね。容疑も認めているみたいだし。

純也:だから!だから犯人は?!


河東:“伊原新見(いはらにいみ)。”85歳のご老体だとさ。

純也:!!

遠藤:河東くん?!何故ここに?!

河東:先生。さっき、校長先生が教えてくれたんです。純也ととても仲が良いらしいから、君の口からそれを本人に教えてくれと。

純也:…!(怒)

遠藤:河東くん…。

河東:先生は、昼休憩中にでも知ったのでしょうね。

犯人と“犠牲者”。

遠藤:…え、一体何のことかしら??

河東:下手な演技なんてしなくてもいいのですよ。

私なら、もっとうまく演技できますし。一応、演劇部なので。
…ま、それはいいや。

純也:…駿太。

河東:ん?どうした?

純也:…教えてくれ。誰が巻き込まれたんだ。誰が酷い目に合わされたんだ?

“誰なんだよ!!!”

河東:言う前に一言だけ。

“名前を逝(い)った後で、お前がどうなっても俺は知らないからな?”

純也:…あぁ。

河東:この事故で、残念ながら“1人”犠牲者が出てしまった。

“天野瑠莉”18歳。

純也:…。

遠藤:…。

河東:里本、すまない。俺を殴りたい気持ちもあるだろうが、俺には何ともできない。

“…許せ。”
(※少し泣いている。)


純也:“ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!”

遠藤:…。

河東:…。
(※泣いています。鼻を少しすすってます。)

純也:“るりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~!!!!!!!”

“ああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~!!!!!!!”


(※葬式会場にて)

純也:る、るり…。

哲夫:純也君…。

純也君、瑠莉のことをありがとう。

純也:おじさん…。

哲夫:大丈夫だ。君のことは瑠莉から何度も聞かせてもらってるよ。真面目で部活も頑張っている。たまに出かけた“あの時”が瑠莉には最高の時間だったんだ。帰った後はいつもルンルンだった。

…でも、“あの日は”様子がおかしかった。何かを察していたのかもね。

純也:…るり。

哲夫:ま、今はそんな話はやめよう。瑠璃にきちんと挨拶をしてくれ。

純也:…るり。アネモネ、持ってきたよ。僕が育てた赤、青、白の3本全て素敵な花を咲かせたよ。これ、あげるね。大切にしてね…。

うぅ…。
(※大泣きを我慢する感じに泣いている。)

哲夫:大丈夫、大丈夫だ。里本くん。

瑠莉に思いは届いた。その素敵な花も届いた。な?


(※純也、静かにうなずく。)


哲夫:さぁ、出棺の時だ。
最期の言葉、かけてやれ。

純也:“瑠莉!アネモネの花、ありがと~!!勉強を教えてくれて、ありがと~~!!先輩に負けないように、いい大学行きますからね~!!!!

先輩!だぁ~~~~いすきです!!!”


(※出棺)


哲夫(N):その後、彼は無事にとある国公立大学に入学。言語の研究をしていて、アラブの言葉の調査をしている。

そして、在学中に結婚。幸せな生活を送っている。さらに年に4回、決まって彼はお墓参りに訪れる。感謝してもしきれない気持ちでいっぱいなのであろう。

(※回想終了)

麗:あなた、着きましたよ。

純也:あぁ、着いたな。

いつもすまない、こんなことに付き合ってくれて。

麗:“こんなこと”だなんて、そんなぁ。

恩人のもとを訪れることに、そんなことやあんなことなんてありません。きちんと訪れて挨拶をしていることが立派なのです。それだけ恩師を大切にしている証拠でもありますから。

純也:あぁ、ありがとう。


(※瑠莉の御墓の前にて)

純也:るり。順調に大学生活を送っているよ。それで、今年無事に卒業します。素敵なお嫁さんと共に幸せな生活を送っています。
こんな僕でいいのなら、これからも温かく見守ってください。

そして、今年もアネモネが咲きました。またあの川沿いで元気に咲いています。

麗:あなた?行きますよ。

純也:わかった、すぐに行く。

“また、挨拶に来るから。”


瑠莉:じゅん、いつも来てくれてありがとう♡お嫁さんを大事にしてこれからも頑張ってください。そして、大学卒業おめでとう。

純也:また、一緒に見に行こうな!!


純也・瑠莉:“あの花の咲く頃に”

あの花の咲く頃に

〈花の参照元〉
Clover 【花言葉】「会いたい」を伝える片思いや切ない恋愛の意味を持つ花一覧 【花言葉】「会いたい」の意味も持つ花:アネモネ
https://www.minden.jp/clover/language_of_flower_meet/

訂正情報
・3月14日(土) 本文を一部修正。
・3月17日(火) 本文を一部修正。
・5月5日(火) 本文を一部修正。
・2024年6月5日 本文を一部修正。

あの花の咲く頃に

学生時代、先輩に憧れたなんて方はいませんか?先輩の活躍する姿に心を奪われたり、いろいろなことを教えてもらって胸キュンしたり。そんな恋物語。儚い恋物語。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-13

CC BY
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