温室育ちの恋

 月が、わらうので、味方はいないって、また思いしる。
 ゆびさきにじわりと忍びこんでくる摂氏二度の夜が、その恋をたいせつにそだてるのはたのしいだろうなとささやく。つめたいゆびさきが、ただとろりとあたたかい恋をおしえた。
 酔いしれる。せつなく酔いつぶれる。午後五時半のひややかな夕色は、ちょっと、お酒に似ていた。その色だけが、ぼくときみだけの、もの。
 午後十一時半、さめざめと降る雨が温室の壁をとつとつたたく。雨の夜には鎖骨がきしんで、くるしい。
 息をすうたび、きし、きし、と。
 甘えてたってこと思いしったから、現実の氷点下が骨身にしみたから、こんどこそしょくぶつがかりはやめにするから、はやくぼくに恋してよ。
 わすれちゃいけないのは、ぼくときみは、どうしたって、ちがうにんげんだってこと。

温室育ちの恋

温室育ちの恋

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-13

CC BY-NC-ND
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