温室育ちの恋
月が、わらうので、味方はいないって、また思いしる。
ゆびさきにじわりと忍びこんでくる摂氏二度の夜が、その恋をたいせつにそだてるのはたのしいだろうなとささやく。つめたいゆびさきが、ただとろりとあたたかい恋をおしえた。
酔いしれる。せつなく酔いつぶれる。午後五時半のひややかな夕色は、ちょっと、お酒に似ていた。その色だけが、ぼくときみだけの、もの。
午後十一時半、さめざめと降る雨が温室の壁をとつとつたたく。雨の夜には鎖骨がきしんで、くるしい。
息をすうたび、きし、きし、と。
甘えてたってこと思いしったから、現実の氷点下が骨身にしみたから、こんどこそしょくぶつがかりはやめにするから、はやくぼくに恋してよ。
わすれちゃいけないのは、ぼくときみは、どうしたって、ちがうにんげんだってこと。
温室育ちの恋