Battle of Monkey & Crab

モンキーが惨殺された。殺ったのは蜂谷、栗山、臼木の三人であるが、後ろで蟹橋が糸をひいているのは明らかだった。
蟹橋の腰にはまだコルセットが巻かれていた。これはモンキーにやられたものだ。あの夜モンキーと蟹橋は酒を酌み交わしていた。だいぶ酔いがまわり、会話も訳がわからなくなってきた。たしか、柿と牡蠣の事で口論になり、そんなくだらない些細な言い合いから二人とも頭に血がのぼり、殴り合いに。
蟹橋はフラフラだったが、減らず口を叩き、モンキーもフラフラだったが蟹橋にとどめの蹴りを入れた。蟹橋の肋骨辺りで鈍い音がして蟹橋はそのまま気を失った。

蟹橋は後味が悪い満足感の中にいた。
「調子に乗ったお前が悪いんだぞモンキー」
自分に言い聞かせているようだった。しかしまだこの時は気付いてなかった。

モンキーの四十九日も終わった頃、もうすっかりモンキーの事なんか忘れて蟹橋は臼木達と酒場に居た。
蜂谷が隣に座っているホステスに何かいやらしい話をしている時に、その酒場に一人の男が入ってきた。男は店内を見渡すと、奥のテーブルに蟹橋達四人を確認した。

臼木と栗山は、此方に歩いてくる男に気が付いた。蟹橋は、その男を見ると絶句した。
「うわっ」
栗山の口から驚きの声がした。蟹橋は何も言えないでいた。男はテーブルの前で止まった。蜂谷の顔から血の気が引いた。
そこにモンキーが立って居たからだ。
「お前、モンキー、なんで?」
蟹橋が、ようやく小さな声で呟いた。
「三途の川からよぉ」
そう言った途端にモンキーはテーブルを蹴り倒した。


そんな血生臭いドラマを蟹の八十吉は見ていた。甲羅は一部が傷付いていた。それは猿にやられたものだった。

その猿は飄々とやって来て平然と言った。
「よう!八十吉君、その握り飯をさ俺にくれよう。ただとは言わないからさ、そうだあの旨そうな柿を取ってきてやるから、その握り飯をさ俺にくれよう」
八十吉は、握り飯を食いたかった。食いたかったけど柿も食いたかった。考えた末に猿のエレ蔵に言った。
「エレ蔵君、わかったよ。じゃ握り飯やるから柿を取ってきておくれ」
そう八十吉が言い終わらないうちに、握り飯をひったくりエレ蔵は、もぐもぐと其を食べた。握り飯を食い終わると柿が実っている木にスルスルスルスルと登って、今度は柿を食い始めた。
「旨い、んぐんぐ、旨いわ」
エレ蔵は、ひたすら柿にかぶりついていた。木の下では八十吉が涎を垂らしていた。
「エレ蔵君、いい加減に柿をおくれよ」
八十吉の言葉が聞こえているはずのエレ蔵であったが、ひたすら鹿十して柿を貪った。八十吉は段々とムカついてきて
「エレ蔵、馬鹿野郎、早く柿をよこせ」
と叫んだ。その言葉にエレ蔵もムカついて、まだ青い柿をもぎ八十吉めがけて投げつけた。柿は甲羅に当たりひびが入った。尚も容赦なく柿を投げてくるエレ蔵からようやく八十吉は逃げる事が出来た。

八十吉は、悔しかった。悔し涙が滲み出た。そんな想いの中、思い出した。それは祖父の重吉が言ってた言葉だった。
「昔からな、蟹は猿に出し抜かれる事が度々あって、その都度悔しい想いをしていた。そんな時にはな、あのもの達に助けを求めれば良い。いいか、蜂、臼、栗に話をすれば、きっと仇をとってくれるから」
八十吉は、半信半疑ではあったものの、蜂、臼、栗を家に招いてエレ蔵の事を話した。するとその三者は互いにアイコンタクトをとり頷いた。そして代表して臼が言った。
「話はわかりましたよ。まぁね、そう、なんつーかね、お祖父様は、ちょっと肝心なところをハショっておられて、えーとね、まぁザックリ言うと僕らビジネスでやってましてね、はい、なんつーか昔話の美談って事では動けないんすよ。いや、やれと言われればやりますよビジネスですからね、という訳でギャランティの方を」
八十吉は少し面食らったが、そりゃそうだよなと思い、金で解決する事にした。
「では確かに、領収書の宛名は上様でいいっすか?」
臼は、金を受け取りそんな事を言った。そしてプロフェッショナルに素早く綺麗に人知れずエレ蔵を暗殺した。

エレ蔵の亡骸の前に猿が立っていた。エレ蔵の双子の兄キレ作だ。キレ作は、わかっていた。この手口は正にあのもの達の仕業で、雇い主は蟹だという事を。そしてその蟹は八十吉だという事も。

その頃、八十吉は作業報告書を受け取っていた。それには写真付きで詳細に作業状況が記されていた。
「つか殺したの?マジで?ヤバくない?」
八十吉はそう思ったけどもう遅かった。次の日玄関の呼び鈴が鳴り、扉を開けるとそこにエレ蔵が居た。八十吉は声が出なかった。エレ蔵は殺害されたはず、なのに?
「三途の川からよ」
そう言って八十吉を鉈で斬りつけた。傷付いていた甲羅が割れた。
「エレ蔵が世話になったのぉ、俺ら双子でよぉ」
キレ作は更に斬りつけた。そして蟹を食い始めた。
八十吉は薄れゆく意識の中で思った。

あのドラマで酒場に来たのはモンキーの双子の兄だったのかぁ。


Battle of Monkey & Crab

Battle of Monkey & Crab

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-13

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