カクコロ

勢いで書きました

「ああヤバイ!」
確定申告を忘れていた。やばい。バイヤー。転売ヤー。

「いるもの、なんだっけ?」
あれとこれと、あと何だっけ?何だっけ?何をもっていけばいい!どうしたらいい!?去年どうしてたっけ?何してたっけ?今まで何してた?なんで忘れてた!この野郎!馬鹿野郎!

ともかく、ただともかく行かなくては。そういう気持ちに支配されて家を出た。半ばパニック状態で家を出た。

確定申告は毎年さいたまスーパーアリーナに行く。

それ以外で埼玉スパーアリーナに行くことは無い。ライブも行かねえし。スポーツイベントにも行ったためしがない。埼玉に住んでもう何年になるかわからないけど、確定申告の時しかさいたまスーパーアリーナに行かない。

他人には、
「ネットとかでやればいいじゃん」
って言われるけど、これでしかさいたまスーパーアリーナに行かない。だからさいたまスーパーアリーナに行きたい。他で行くことはまずないだろうから、こん時くらいは。

んで、電車に乗ってさいたまスーパーアリーナに行った。

九時の開園前だからだろうか、まだ誰もいなかった。

「けやきひろばに行きたい」
コーヒーとか飲める場所があるに違いない。

しかし、そうも言ってられない。確定申告会場としてのさいたまスーパーアリーナは競争社会である。他を知らないからよくわからないけど、でも、確定申告会場としてのさいたまスーパーアリーナはライブ会場にも匹敵する人の混雑さ加減である。

まだ時間あるなあ。って余裕ぶってコーヒーなんて飲んでたら、あっという間に入口が人の山と化す。

「終わったら飲むんだよ」
そう。終わったら飲んだらいい。戦い終わったら飲んだらいいんだ。戦う前に余裕を見せるんじゃない。それで何度も失敗してきた手合いだろ。
「私は」
その通り。

しかし、そうやって寒さに震えて待っていても他に誰も来なかった。

やがて会場が開いても、他に誰も来なかった。

「え?何?」
私一人、案内されて列に並ぶことなくパソコンの前までたどり着き、そこで某か入力して係の人呼んだらすぐに来て確認してもらった。
「どうぞー」
ってさらに区切られた綱のルートをすすんでいき、
「何で払いますか?」
って聞かれたので、
「あ、コンビニで」
って言ったら、すぐ用紙をプリンターで出してもらって、それを受け取って重い扉開けてもらって、さいたまスーパーアリーナから出た。

あっという間に。

ものの五分程度で。去年は2時間くらいかかったのに。

「終わった・・・?」
終わったの?

ホラー映画の最後みたいにこれでいいのか悪いのか、でもまあとにかく終わったんだ。でも、最後にやっぱり終わってなかったっていうエンディングなんじゃないか?そんな疑心暗鬼な気持ちになったけど、でも、
「用紙は間違いなくあるし・・・」
あるしな。あとはコンビニに行って払って帰るだけだな。

「よし」
ってなったらさいたまスーパーアリーナの出た所の脇のあたりから、可愛らしい今どきの感がにじみ出てるんだけどでもそれを隠しているみたいな感じの女の子が出てきて、

「あ、お疲れ様でしたぁー」
って言われた。

「え?何?」
なんのサービスですか?

「えーっと今年ぃ、コロナの影響で来場者が激減してぇ、私この時期のバイトで雇われたんですけどぉ、やることなくてぇ」
だからお見送りしろって言われてぇ。

っていう話を聞かされた。

「あー・・・じゃあ、君がここにいるっていうのは誰か確認しに来るの?」
定期的にこの重たいドア開けて誰か見に来るの?

「こないですよぉ」
誰も。

っていうから、彼女と一緒にけやきひろばに行ってスタバに入ってコーヒー飲んだ。

スタバに初めて入った。

ありがとう。
「えーっと、小野さん?」
胸のところにネームプレートが。
「はい、そうですぅ」
ありがとう小野さん。

あと、ありがとうコロナ。

あまり大きな声では言えない。そんなこと言ったら確実に叩かれて殺されて吊るされて燃やされる。

だから、大きな声では言えないけど。

でも、ありがとう。

こうなるともう小野さんのニックネームももうコロナだよな。

それはもう仕方ない。そうなるよ。もう。

あと、私の住んでるところは今年、コロナ拡大防止のために確定申告の期限が伸びたんだって。

知らなかった。全然知らなかった。

カクコロ

カクコロ

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-13

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