テレビのなかのことが世界のすべてじゃないって

 もものかんづめ、生クリームと、はさんでフルーツサンド。
 春だから、きみといっしょにピクニックでも、と思うのに、世界は少しだけ、混沌としている。ざんねんです。おろしたての白いスニーカーで、春の公園を歩きたいな。ぼくがいうと、きみは笑って、フルーツサンドをたくさんつくろうという。フルーツサンドをいっぱいつくって、おうちのなかでピクニックしよう。バスケットにいれて、水筒のなかみは紅茶で、レジャーシートをしいて、ごろごろして、おしゃべりをして、本を読んだり、おひるねをしたり、しよう。きみはいって、それっていつも、ぼくらがしてることとなんら変わらないねって、ぼくはこたえて、でも、テレビはつけたらだめだし、カーテンも、窓も、ばーっと開けはなって、おうちのなかなのに、外にいる気分をあじわおう、なんて、きみはどこまでも前向きで、なんかもうほんと、好きだって思う。
 昨年の三月の、おなじ頃には満開だった桜が、とっくに葉っぱになっていたよ、このあいだ、アルバイトの帰りに通った川沿いの遊歩道。パンダのやっているクレープ屋さんは、あいかわらず繁盛していた。かっこいいおにいさんがいる例のお花屋さんでは、いつものように女の人がひっきりなしに花を買っていて、本屋さんの髪がみじかくて背の高い女の店員さんが、コーヒーをのみながら本屋さんの真向かいのオープンテラスでぼんやりしていた。
 春だね。
 テレビのなかではまいにち、なんだか、いろいろあるけれど、春だよ。

テレビのなかのことが世界のすべてじゃないって

テレビのなかのことが世界のすべてじゃないって

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-12

CC BY-NC-ND
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