自意識ドロドロ人間〜見ざるver〜
今日もアイツはアタシを見てた。
長い髪をくくった時に見えるうなじに釘付けだったのが、振り向かなくても気配でわかる。実際振り向くと、慌てて視線を逸らす姿は、まあなんというか、いじらしい。
きっとアタシのことが好きなのだろう。
なぜアタシのことを好きになったのだろう
可憐だからかしら
お淑やかに見えたのかしら
それとも女だからかしら
アイツの視線を鬱陶しがるふりをして、アタシ自身の浮き足立つ心は、見ないようにしていた。肩にかけたカバンの中ではケイタイが踊ってるが、そんなこともどうでもいいと思えるほどだ。
「髪伸びたから切ろっかな」
ポニーテールの傷んだ毛先をつまみ、わざとアイツに聞こえるように言うと、やめた方が良いと即座に止められた。
ほらやっぱりアタシのことが大好きじゃないか
気持ちがふわふわした。そのまま天まで飛んで行かないように、「なんでよ」と言って、言葉に錘をつける。
彼のことを見つめると、ひとりでに目がキラキラしてしまう。
さあ、なんて台詞をくれるのかしら
「長い方が似合ってるじゃん」
「こんなきれいなのに、もったいないだろ」
「おれ、長い髪のお前がすきだもん」
アタシの妄想を切り裂くように彼はいじらしく笑った。
「だってお前のうなじ超汚ねえじゃん。見えないと
こもちゃんと手入れしとけよぶす」
彼の言葉を笑顔で受け止め、ぶすなアタシはより顔を歪めて彼を笑わせた。それと同じタイミングで、カバンの中でケイタイが震えていた。
アタシは、
自分が可愛いなんて思ったことなんてなかったこと
彼に恋人がいることを知っていたこと
つい先日行った脱毛サロンからの勧誘メールが止まらないこと
好きになっていたのはアタシだけだったこと
その全てが恥ずかしかった。
自意識ドロドロ人間〜見ざるver〜