三角形の

外人の方には申し訳ないと思いました。

里見君の財布がものすごく膨らんでいた。
「え?里見君」
「どうしたの?」
その財布を出した里見君自体は何でもないような顔をしているけど、でもどう見たって膨らんでいた。誰がどう見たって膨らんでいる。膨張していた。宇宙みたいに。
「長財布何それ?」
賞味期限の切れた缶詰みたいに膨らんでるじゃん。

里見君のそれ。何それ?え?そもそもあれだっけ?里見君って大金もつタイプだっけ?そんなにパンパンの財布もつタイプだったっけ?パンパンじゃねえか。中で酵母でも育ててるの?何?どういう事?

でも、考えてみたら里見君との邂逅は結構久々だった。久々の邂逅であった。
だからもしかしたら会わない間に変わってしまったのかもしれない。
私もそうだけど社会という荒波に揉まれてしまったのかもしれない。
あるいは、
外人のパブか何かに行ってちんこ揉まれてしまったのかもしれない。
そんでそれがトラウマみたいな事になってしまったのかもしれない。
それ故その影響が如実に里見君の財布に現れているのかもしれない。

だってパンパンだもん。

子持ちシシャモの腹位パンパンだもん。

変わってしまったんだなあ。

私は思った。

昔はもっと茫漠としていて、遠慮がちで口数も多くなく、つかみどころがなかったのに、でも時たま笑ったりすると笑顔が愛らしくて。

そんな里見君だったのになあ。

もちろん変わらない物なんてない。私だって変わっただろう。多かれ少なかれ変わってしまっただろう。

でもなあ・・・。

里見君は変わらない。なんでかわからない。どうしてかもわからない。でも、そんな風に思ってたんだけどなあ。

変わってしまったんだなあ。

変わってしまったのかい里見君?もちろんかもしれないけど。でも、君も変わってしまったのかなあ?

「ああ、これレシートがさ」
里見君はそういって笑いながら、あの頃と何ら変わらない笑顔で自分のパンパンになった財布を開けた。

パンパンすぎて開けずらそうな長財布を開けた。

「レシート?」
「そう。溜まりに溜まっちゃって」
レシートですか?レシートを財布に貯めるのはよくないっていう話をどこかで聞いたことがあるような無いような。

「レシートをためるのはよくないらしいよ?」
ホントかどうかも定かじゃない話をしている私の前で、里見君はパンパンになった長財布を開けた。

「わっ!」
すると、中からぴょんと何かが飛び出してきて私は思わずわっ!って言って黙ってしまった。

「こんなんなっちゃった」

里見君のパンパンになった財布からはレシートだ飛び出していた。でも、ただ飛び出しているわけじゃなくて、なんか、なんだこれ?絡まりあって、なんか、

「なんか、なんか見たことあるな」
これ。

「昔『おれたちゃかいぞく』って絵本あったよね、今もあるか知らないけど」
「私持ってたよ。おれたちゃかいぞく。飛び出す絵本。最高に面白かった」
実家にまだあると思う。三角形の絵本でさ。絵が飛び出てくる奴。

「んで、これ、なんかあれみたいでさ」
「あー!」
確かに!

「最後の奴みたいじゃない?」
「ああ、ほんとだ!すげーなあ!これ!」
最後のやつ。恐れを知らない海賊たちが恐れる最後のページのやつみたいだね。確かに。

「だから、これ見せたくてさ」
こういう状態のままにしちゃってたんだよね。

そういった里見君の笑顔は最高に愛らしかった。マジかと思った。

こいつマジかと思った。

三角形の

三角形の

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-12

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