ラジオDJとする挨拶を。
ラジオDJの抑揚から基低音を取り出す。
伝えることに落ち着いた声は
男性に近い女性の声で不思議な親近感を生む。
助詞の端はしは真似できそうで,
それ以上は出来ない。
近況報告の中には興味深いものも
そうでないものも含み,
流行りのアーティストも時々に留まって
残りはDJの好む選曲だ。
でも悪くない。
考えない何かは席を譲り
ゆっくりとドライブする余裕とスペースを用意してくれる。
車検が済んだことを考慮しても,
右足で踏むブレーキは効く。
時速60kmに相応しいビルの高低は
車内の光量を大雑把に調整する。
眩しい時には眩しく,
そうでない時は眩しくない。
やたら静かに車道を広がってるビル影は
カーブする追い越し車線から始まる光に備えていて,
今現在で車道を走る僕らは見送られる気分で
運転席を優しく押されてアクセルをキープする。
躊躇うようにブレーキに触れて入るカーブ。
何か残した気分になり,
あるいはそれは下の弟や妹のために残した,
遊び道具のような気がする。
車内は転がるものを聴きたくて耳を
意識的にも後部に向けた。
少なくとも何か転がって
トランクのリストは作らなかったのは,
大通りが珍しく空いていて
アクセルを踏み込まないのがかえって迷惑になる,
機会を迎えたからだった。
強いピーコンに驚かないようにして
時間は変わった。
僕らに関係のない交通情報はその前に終わって
恐らく2時間のラジオ番組はDJをそのまま席に着かせてる。
『さあ』,と言って時刻が変わったことを彼女も確認した。
深く彫った彫刻刀の線のように時間は改まって,
20秒を経過した。
デジタル時計で確認できず,
近付く次を今目指してる。
マーガリンを買うための隣町。
施錠をするために必要なように言って,
家を出るには歩くことが求められた。
契約駐車場は最後には
クリーニング屋を曲がらなきゃいけず,
その最初には曲がってから気付く不動産屋を通った。
あとは淡々としたもので,
いつも駐車場までの道を説明する困難さが,
初めて車を借りる妹の
さらに前に立って僕に立ち塞がったのを覚えている。
結局運転した僕は助手席に座った妹から
要約して,家を出ることを聞いたのだ。
あの時と車は同じで
助手席に座った妹は家に座ってもない。
飼い犬が年老いてからは
庭の木も早く葉を落とすように思えて
箒で集めた枯れ草でする焼き芋に似合わない,
気後れを隠すようにホクホク食べた。
1階の,ドアが閉められ縁側から見える内側の部屋で,
怒られたら妹は必ず開くドアから出て来た。
僕はだから庭に居ることが多かった。
外の庭で,空に向かって,
狼煙気分で煙を出し続けた。
そうして焼き芋を半分だけ渡す。
怒られなくても少食の妹は,
その焼き芋を半分食べる。
それが事の終わりの先触れになって,
顔を合わせて片付けできた。
地面に残る黒ずみのように,
妹の中では色んなものが
単色だが強い色々が残っていたけど,
2人はそれで良く笑う準備をしたのだ。
2人で正式に,玄関から外にも出れたのだ。
単色で強い色々なものは,
妹の道になって,
見送る僕の,
気持ちにも通じた。
最後に妹と聞いたのは
当時流行っていたアイドルソング。
じゃんけんしたり,
ピースしたり。
CDに混ぜて,MDまで持っていった妹は,
貰うと言わない約束を残した。
消極さがしっかりして芯がある。
基低音は和音を支える。
地面がなければ立てやしない,
走れやしない。
帰り道で積み重ねた類似のことと
スカスカが目立ったラックは,
僕と一緒に帰って
妹と一緒に今も帰っていない。
ラジオ番組は悪くなく,
リスナーに応えたアイドルソングが流れる。
新メンバーになったそのグループは
懐かしくも新しかった。
時間は通じて流れ,
途切れず先へ行こうとするから
(車道を走る僕らのように。
アクセルを踏み分ける僕らのように。),
ブレーキを踏むときも同じになる。
それでも止まればトランクの
荷物を整理しつつ振り返り,
定点のようになって見てきた景色は
(その置き場所を,
見失ったり変えたりもするけど),
たまに狼煙気分で煙をあげて,
高台からでも
また平面からでも
見えるように手作業している,
見えない人がそこ居ることを
見えない僕から見えることを,
知らせて止まず,
灰色の煙色で色褪せもしない。
そうして再度の振り返りで
(それはまたさっき見ていた前を向くこととなって),
おもむろに前方を注視して大事な,
風景の足下で交互に足をプラプラして待てる。
箒を履き顔を上げ,
集めた枯れ草と飛んで来た枯れ草で,
買ってきたものを焼いたり出来る。
そんな時,
焼き芋だって良いのだ。
僕はかつて,
庭に居ることが多かったのだから。
信号のタイミングは悪く,
車道の僕らを随分と多く停めてしまった。
クラクションでも少し,
抗議の声を上げた人が居た。
致し方ないと思って向いた方向の窓を開けた。
冬と言いたい寒さはしかし暦に阻まれ,
秋のマーガリンを袋の中で転がした。
1パック8個入りの卵は平然とした様子だった。
安心して窓を閉める操作をすると
外から訪れた少しの寒さが感じられ
助手席に寝かせてたカーディガンを羽織った。
和らぐ寒さに庭を思い出す。
そろそろ箒を履くと思う。
ラジオDJの基低音は
終盤においても変わりなく,
そして番組は悪くなかった。
そしてラジオDJの抑揚から基低音を取り出す。
伝えることに落ち着いた声は
男性に近い女性の声で不思議な親近感を生む。
助詞の端はしは真似できそうで,
それ以上は出来ない。
近況報告の中には興味深いものも
そうでないものも含み,
流行りのアーティストも時々に留まって
残りはDJの好む選曲だ。
それでもやはり悪くない。
考えない何かは席を譲り
ゆっくりとドライブする余裕とスペースを用意してくれる。
車検が済んだことを考慮しても,
右足で踏むブレーキは効く。
車庫入れの前にトランクは
開いて荷物を確認する場所になる。
少なくとも何かは転がって
それは妹と必ずしも関係しないだろう。
停車した場所からもう山は見え,
近くには自宅も含められて人家がある,
街に居る。
降りて開けたトランクも車内として響くのは,
取り出した基低音を含んだ声で趣旨として,
『また会いましょう』という気持ちだった。
僕は顔を上げた。
狼煙気分の,
煙の匂いがどこかで確かにしたのだった。
ラジオDJとする挨拶を。