十二ヶ月+一月

どうも。これが初作品となります。
若輩者ですが、どうぞ、生暖かい目で見守ってってください。

序章

暗い…。
頭が痛い…。
耳は、車のクラクションを痛いほど覚えていた。
このパターンは、アレだろう。
多分、交通事故にあって死んじまって死後の世界とかいう…。

「さて、今日集まってもらったのは他でもない」

初老の男性の声が、恐らく死後の世界であろうこの空間の沈黙を打ち破った。
暗い世界に、突然スポットライトが当たったかのように、老人が姿を現した。
そしてその隣には、目を閉じたまま動かない少年の姿がある。
そう、その少年というのは、もちろん俺だ。
もうベタすぎて、ノリで「もちろん」とか言っちゃっても不自然が無いくらいに、「あれ、こんな映画、昔見たことあったっけな…」状態だ。
いわゆる俺は今、幽霊もしくは天の声という曖昧なポジションに収まっちゃっているわけである。
「この少年、文字通り今生死の境を彷徨っているのだが…」
彷徨ってるのか、俺。まだ死んでなかったのか、俺。
「皆、どうしよう」
ーええ!?
すると、次々に人ー人の姿をした何かーが姿を現す。
「死なせちゃえば? 」
「働きたくないし」
「地球温暖化! 」
ーええええ!! お前ら、人の命をなんだと思ってるんだ!!
しかし、叫んでも声は届かない、否、声が出ない。
ーああ、死んじまうのか、俺。しかもこんな軽いノリで。地球温暖化なんて、哺乳類一匹死んだくらいで克服するかよコンチクショー!
「じゃあ、放置しておけばそのうち勝手に死ぬし、もう解散でいいや」
ーさらば、我が人生、今この状況だけが唯一の悔いだ。
その時、
「待たれい!! 」
妙に江戸っ子口調の高い声が響いた。
周囲にざわめきが走る。
眩しい。声の主で確認できたのは、逆光より出でた巨大ないくつかの影のみ。
「その者の身柄、我々が預からせてもらう」
先ほどより少し高い声で、これもまた高々と言い放った。…と思ったら、その後すぐに「…です」という控えめな声が聞こえた。
だがいい。この状況を打開してくれるなら、悪魔だって…。
「しかし何故このような小僧を…」

「面白そうだから」

複数の声が合わせて言った。
どうやら俺の命を救ったのは、悪魔なんかよりも大分質の悪い奴等だったらしい。
「そんな、適当な…」
何故だかその言葉だけは声に出せて、俺はそのまま意識を失った。

集り屋爺さんにご用心。

1章

目が覚めたそこは、普通に病室だった。
清潔な白いベッドに、「早村」と書かれたプレートがあり、真横の机に、花やら果実やらが添えられているところを見ると、意識が無かったのは一日二日のことではなさそうだ。
身体を起こして真っ先に考えたことは、自分の身に何が起きたか、ではなく、何の夢を見ていたのだろう、だった。なぜだか。なにか、とても理不尽な目にあった気がする。
「日向…! 」
涙ぐんだ母の声。そうか、交通事故にあったんだと、そこでようやく、自身に降りかかった災難を思い出す。
「生死の境、彷徨ってたんだっけ、俺」
母が、「なんでそんなこと知っているの? 」という顔をした。なんでだったっけ…。
「日向! 」
続いて、父が病室に入ってきた。
始めこそ急ぎ足だったが、だんだんとその歩調は緩み、最後は日向にゆっくり歩み寄って来て、その頭を撫でた。
「よかったわ。本当に」
母も優しく、日向を抱きしめる。
嬉しい。暖かい。しかし…
「よかったー、よかったー」
掛け布団から、何か出た。
「生死の境といったら、生き残るのがセオリーです」
「それをあのジジイ共は…」
「恥を知れ、恥を! 」
「Are you fool ? 」
なんとも、シュールな…。
なにやら小さい奴等が、いたいけな老人を激しく罵倒している。その数、1…2…3…
「12匹…」
「え? 」
母がまた顔をしかめた。どうやら日向以外には見えないらしい…ってなんだこの展開…。
「匹とは失礼な!! 」
小さい奴等が反論してきた。小さいくせに一丁前な。
「我々…人…。匹…ヤメテ…」
人じゃないだろう、サイズからして。
「人種差別だー」
「怖いわー」
「……」
今度は日向が顔をしかめた。母が、
「日向、どうかしたの? 頭打った? 母さんのことわかる? 」
このパターンは…。
ゴクリ…と、日向は固唾を呑んだ。
「大丈夫だよ母さん。まだ頭が冴えないんだ。少し、一人にしてくれないかな」
母は、「そう? 」と小さく返事をすると、心配そうな視線を日向に送ってから、父と共に病室を出た。
危なかった。危うく精神科に連れて行かれるところだったかもしれない。
「で? 」
日向は謎の小さい奴等(12匹)を睨みつけた。
「お前ら一体なんなんだ? 」
12匹はそれぞれに顔を見合わせてから、一列に整列した。
右から
「わいはむちゅき」
「オレは如月」
「弥生と申します」
「卯月だぜぃ」
「bloody eraser」
「ミナヅキ…」
「文月でござる」
「葉月っちゃ! 」
「菊月だ」
「神無月という」
「……」
「師走じゃ」
「12匹揃って」
「「12ヶ月!! 」」
それはそれはもうご丁寧に挨拶なんてしてくれちゃって。確か古典で習っことあるな、月が云たらとか。ていうか、自分らで「匹」って言ってるし!!
無言のやつがいたが、順番的に確か…霜月だったっけ。なんかのアニメで見たかな。
しかし、見過ごせない奴が一人、いや一匹。
「おい5番目」
「sky hight]
「はぁ? 」
意味不明。
「はじめましてゆーてんねん」
関西弁の睦月が翻訳をしてくれた。だがしかし、「sky hight」はどう訳したって「はじめまして」にはならないと思うぞ。
「さっきの「bloody eraser」ってのは…」
「本名は皐月や。今ちょっと病んでん」
「bloody eraser」。直訳すると「血まみれの消しゴム」なんだがな。怖いのか怖くないのか。
「病んでるってのは中二病のことか? 」
「ちゅーに? 皐月は中二」
「お前らにも学年なんてあるのか? 」
「さあ? 」

十二ヶ月+一月

十二ヶ月+一月

主人公、早村日向<はやむらひなた>は、一度交通事故で死に掛けたところを、不思議でちっこい奴等に救われた。半分人間、半分幽霊という曖昧な境界に身を置きながら、悩める魂の相談役をしている。 愉快で可愛い12の月を従える日向の、青春真っ盛りのファンタジーコメディ。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-11-03

Copyrighted
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  1. 序章
  2. 集り屋爺さんにご用心。