壁紙幻想
DIY幻想小説(掌編)
昨今流行りらしい壁紙専門店なる店を訪れ、本物以上に本物らしい木目や煉瓦や混凝土柄等の壁紙にすっかり圧倒されて了った。
それから自室のリフォオムを夢想しつつニヤニヤ家路を辿れば、おや。眼前の空間が施工不十分の壁紙のやうに僅かに捲れているではないか。
摘んでみれば、紙片の質感。
捲ってみると、ナルホド......。
見るべきではない、いや断じて見てはならぬ景色がその先に広がっているのである。
然るに現実は、何者かが貼った一枚の巨きな壁紙に過ぎぬやうであった。さうして道ゆく人たちや街やビルヂング、午後の日差しや烏や貴方や私は、その巨きな壁紙の、柄であるらしい。
私は捲れた壁紙をそっと元に戻すと、何食わぬ顔を装って煙草を咥え、ハハァンとわらった。
春の午後の日差しは柔らかい。クラクションが、彼方此方で鳴り響いている。なんにも知らずに、愉しそうに。
壁紙幻想