ダーリン
「ダーリン、私が溶けちゃったらどうする?」
「ふわふわのアイスみたいに溶けちゃったらどうする」
ダーリンは困ったようにこっちを見た
「そうしたら、僕がちゃんと拭いてあげるよ」
あなたらしいね。そう言って笑ったけど、私はその日夜になっても眠れなかった。
夜中の12時を過ぎたら、溶けてアイスになっちゃうなんて本当のこと、ちゃんと彼に言えなかったから。
胸がドキドキしてきて、もう眠れそうにない。
「ダーリン、本当のこと言ったんだからさ。私が溶けたら、ちゃんと拭いてよね」
彼の頬をそっと撫でると、手がふにゃふにゃと緩くなった。
「あーあ、真面目に話しとけば良かった」
溜息と共に、甘い香りが窓の外をぬける。
キラキラと月の光が部屋に入り込んで、私の体を照らす。
「内緒だよ。誰にも」
溶けていなくなった時、彼の手が少しだけ動いた。
「甘い香りがする」
甘い記憶と一緒に、全部夢の中に。
彼女がそこにいた気がした。
「あそこに彼女が」
夜中、甘い香りと共に目覚めたんだ。
月明かりにそっと照らされて、白いシーツを見に纏って、溶けるように彼女がそこにいたんだ。
窓の外の風に揺られながら、何処かへ行っちゃうみたいに、導かれるみたいに遠くに行っちゃいそうなんだ。
手を伸ばしたけど、届きそうなところで彼女はいなくなった。
次に目が覚めた時、甘い香りに包まれていて、彼女の面影をそっと探したけど、あったのは揺れるカーテンだけ。
あれは夢だったんだろうか。
そういえば、長い間彼女なんて僕にはいない。
それでもこんな寂しい気持ち、久しぶりなんだ。
ダーリン