コロナ関連
要素を恋愛にしちゃった
三年ほど、お付き合いをしていた彼氏と別れたという話をされた。知り合いのかおるさんから。
「どうして自分にそんな話をするんですか?」
私ってなんか、相談あるんだったら聞くよーみたいなタイプでしたっけ?そんな自覚なかったんですけど、無意識にそういう空気出してました?
「いや、たまたま」
かおるさんはそう言うと自らのコーヒーを飲んで少しほーっと息を吐いた。何でもないチェーン店のコーヒーショップである。私ごときなんかは入るのも躊躇われるけど、でも今どきの人達は皆何気ない顔で入れる。私は今頑張って修行してるところ。
「・・・なんかあったんですか?」
修行中の身でありながら他人からの相談を聞くとかレベルが高い気がする。無理じゃないかと思う。
「あの人、開けるタイプだったの」
かおるさんはそう言って、またコーヒーを飲んだ。
「開けるタイプの人?」
何開けるタイプの人って、そういう分類ってあるの?知らねえ。
最近、コロナの影響でどこに行ってもマスクが無いでしょ?で、その日たまたま、あの人と朝一緒になって駅に向かうことになったの。で、途中でちょっとマスクあればいいなくらいの気持ちでスーパーに行ったのね。そしたらそこのスーパー営業時間になったばかりだったからだと思うんだけど、まだ通路に商品の入った箱みたいなのが置いてあって、
「ああ、コンテナ?オリコン?」
なんかそういう名前のやつでしょ?私なんかはもうアイテムボックスでいいけど。
名前はわからないけど、で、まあ当然と言わんばかりにマスクは無かったし、ウエットティッシュもなかったし、紙関係は全部なかったんだけど。だからまあ、仕方ないかって、じゃあ、駅行こうかなって思ってたら、彼が、
「マスクないんですか?」
って店員さんを捕まえて聞いてて、でも、無いじゃない?私の実家の方でもないっていってたし、だから無いのよ。
「いつ入るんですか?」
でも、彼あきらめなかったの。入る予定はないんですか?今日は行ってないんですか?明日は入るんですか。って。
でも、いつ入るかなんて、そんなの誰にも分らない事でしょ?全然ないんだもの。マスクがあるというのはもう縁でしかない。めぐり合わせ。私はそういうものだと思ってた。だって無いものは無いでしょ?それに無い原因だってはっきりしているじゃない?コロナだって。これでコロナが無かったら私だって、いつ入るか聞いてたかもしれないけど、でも、今はもうそれしかないでしょう?コロナ、あと花粉症?
「いつ入るかはもうわかりません」
でも彼は結局いつ入るかもわからない。というところまで説明させてた。私それ見ててなんだかその店員さんがかわいそうになっちゃって。
「ああー」
そうんすか。へー。私は興味もなく、適当に相槌を打ちながら窓の外を見ていた。まあ、コロナの影響でみんなマスクしてるけど。でも覚えていないけど、去年だってこの時期はそうだったような気もするし、おととしだって同じだったような気がしないでもない。今年は特別マスクが無いだけの話で。街行く人たちはいつもと変わらない。街だって別にいつもと変ってるような感じはない。私の印象だけど。
「でね、あの人店員さんが違うところに行ったのを見て」
開けて、確認しだしたの。
「え?」
「その・・・アイテムボックスの中」
「なんでですか?」
マスクは無いって言われたんでしょ?いつ入るかもわからないって。
「だから別れたの」
「なんですか?」
「自分で確認しなきゃ、無い事を確認しなきゃ、納得できないっていう事でしょそれって」
そうなのかな?わからないけど。私したことないし。だからわからないけど、そうなのかな。
「嘘ついてるって思ってるってことでしょ?」
かおるさんはそれから、思えば前からたまに携帯の置いてる場所が変わっていたことがあったという話をした。彼と家にいる時そういう事があったという話をした。トイレに行って帰って着た時やら、食器を洗っている時、お風呂から出てから、朝起きてから。
そういう話をした。
「だってロック位かけてるんでしょ?」
かけてる。かけてはいるけど。でも。
「かおるさんだって別に何もやましいことしてないんでしょ?」
何もしてないよ。でも、たまにだけど、でも、ずっとあったから。そういう事が。
「携帯の置き場所が変わってる事?」
気のせいなんじゃない?
そう言ってあげたかった。かおるさんに。気のせいだと思うよ。そういうのって大体が気のせいなんだって。
そう言ってあげたかった。
今からでも、またやり直したら?
そう言ってあげたかった。
でも、
窓の外にかおるさんの元カレが立っているのを見つけて、そんなことは言えなくなってしまった。
コロナ関連