散髪

死んだ人に逢いました。此の人は二年前に亡くなった人で、わたしは此の人の事がすきで、親分と言って慕っておりました。
親分は大工の棟梁で仕事で知り合い、なんというか波長が合うというかそんな感じだったので、仕事以外でも呑みに行ったり、ちょっと一緒に出掛けてみたりしておりました。

それはごく自然な流れで再会を果たしました。知り合いからの仕事で、この日に古いマンションのリフォームの下見をする事になっていて、現場へ行くと親分が居ました。わたしは直ぐに歩み寄り
「あれ親分久しぶり、親分死んだじゃん?」
と声を掛けると親分は
「ああアレな、アレ違うんだわ」
と何時ものにこやかな表情で答えました。わたしは、ああそうだったんだと何かホッとしたというか安心した気持ちになりましたが、二年前に確かに親分の通夜に参列したし、遺影も親分だった事を思い出しました。
それでも現に親分はこうして目の前にいて元気そうだから良かったと思い古いマンションの一室に向かいました。
古い金属製の玄関扉を開けると二段の小上がりになっていて深紅の絨毯がひいてあって、絨毯の上に少し大きめのコタツがある部屋に入りました。コタツには六人が無表情で座っており顔色は皆青黒く、セーターを着ていて無口でした。
親分はその部屋の鴨居のところを触って確かめているようでした。

そしてその辺りで目が覚め、ああ夢だったのかぁと少し残念に思い、それにしても親分は散髪したての様なすっきりした髪の具合で笑顔だったなぁと故人を想いました。

散髪

散髪

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-05

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