啓蟄
陽の光は眩しかった。目が覚めてすぐは身体中が重く、とても這い上がれる気はしなかった。周りにある水分をたっぷりと含んだ土は僕の身体中をがっちりと固定していて、まるで動くことの決して許されない銅像になったかのようだった。それでも僕はなぜか、ここにいてはいけないという一種の使命感に囚われたかの如く感じていたから、重い土を手足で必死にかき分け、どうにか外の世界へと出られたのだ。
暗くてジメジメとした土の中とは違い、この世界はなんと明るく、爽やかで、そして広いことか!僕はあまりの変化に心の中で驚嘆し歓喜してはいたが、それに反して身体はぐったりと力なく、地面の上にそっと垂れていた。
周囲には、僕の背丈の何倍もあろうかというほどの草が青く生い茂っていた。薄っすらと通じたその隙間からは、信じられないほどの巨塔が何本も立っているのが見える。僕は、今までの僕が知っていた世界を容易く、新たな色に塗り替えてしまったこの世界をもっと見てまわりたいと思った。力強くまっすぐに生えたこの草たちを、自分の手足を懸命に振り動かし掻き分けたい。そして、聳えたったあの巨木を間近に見て、その溢れんばかりの生命力を感じてみたい。そうすればきっと、さっき僕が土の中から這い出て感じたような興奮や感動を再び感じられるに違いないと確信していた。
試しに手を動かそうとした。力は満足に入らなかったが少しは動かすことができた。しかしすぐに元の位置に戻り、くの字に折れ曲がった。今度は足に力を入れてみた。固い地面の上に腹を浮かせようとうんと伸ばしてみた。しかし踏ん張れず、腹は地面から離れることはなかった。何度か繰り返すうち、とうとう全身の力が尽きてしまった。
空から降り注ぐ陽の光は暖かかった。身体中の細胞という細胞が、まるで温い湯にでも浸ったかのように気持ちがいい。もう土の中はごめんだ。外に出てこれただけでも幸運だったのかもしれない。そういえば他の仲間をまだ目にしていない。未だにあのような暗く狭い世界に閉じ込められているのだろうかと、僕は仲間のことを憐むとともに、自分がこの世界に開放されたことを嬉しく思った。陽の光を浴びるのは多分僕が最初で、今この瞬間もおそらく僕だけなのだろう。
僕がもし力尽きたとしても、この優しさのこもった陽の光が、この世界にようやく這い出ることのできた仲間の身体を、同じように暖かく照らし包んでくれることを切に願う。
啓蟄