腐りかけのたまごやき
腐りかけのたまごやき
「ココア、これあげる」
たまごやきの一欠片。できたばかりのホカホカの黄色いたまごやき。嬉しそうにしっぽを振って、ぱくりと食べ終わると、もう一つと私の顔を見た。
「もう無いよ」
茶色くてココアみたいな色の毛をしているから、ココア。母さんに一番懐いてるココア。私はそれが納得いかなくて凄く不満だ。
「ココア、絶対母さんより私の方がココアの事可愛がってるよね。だって朝散歩も行くし、夜も一緒に眠るし」
まあ、くっつき過ぎて、朝起きたら絶対にココアが横にいないのは置いておいて。
「そりゃ、友達と遊んでばっかりだけど。」
別に悪いことしてないし。
パッと火を止めると、さえばしを流しに置いた。水道を捻ると、ジューっとフライパンの水を弾く音が聞こえる。冷たい水が、フライパンの熱を冷ましてく。
その間もずっと、ココアは私の顔を見上げて首を傾げてた。
「ココア、しっぽ取れちゃうよ」
夢の、夢の、また夢の話し。
ココアが大きくなって、私の傍にいる話し。チョコレートを頬張りながら、ココアには茶色いジャーキーをあげよう。
真ん丸お目目で私を見つめて、細長い口で食らいついて、頬張るココアに、ジャーキーのおかわりを。揺れたしっぽはたんぽぽよりも軽くて。
ココアが傍にいてくれたら、私はだいすきな色のさらさらの毛に身を埋めて日向ぼっこしながら、疲れ切ったココアの横で一緒に眠るんだろう。
手にもったさえばしから、たまご焼きが落ちた。
もう、何日経ったんだろう。母さんが、こんな風になってどのくらい経ったんだろう。
固くなったたまご焼き。灰色の毛がついた玉子焼き。
夢の中で、ココアに会った。
何でココアを勝手にあげたんだろう?
母さん、今日は何日か覚えてる?
腐りかけのたまごやき