myself

  僕には、何もない。
 部屋の窓を開けると、冬の冷たい風がすうっと吹きぬける。僕がため息をこぼすと、白くなった空気が真っ暗な空に消えていく。
 時刻は午後十一時三十分。僕の人生にピリオドを打つんだ。何にもできない、僕を殺して、みんなを幸せにするんだ。
 僕は震えていた。いつも震えていた。朝が来ても夜が来ても震えていた。いつも僕を見つめている君の視線が怖くて、震えていた。
 「死ねばいい。」
 僕にそう語りかける君が怖くて、怖くて。もう死んでしまいたかった。でも、できなかった。それは、僕が甘えん坊だからだ。そんな僕は、死ねばいい。甘えん坊が生きていけるほど、世の中甘くない。
 冷たい空気で曇った窓ガラスに手をあてると、一気に体が冷えた。そして、走馬灯のように「あの」光景が蘇る。
「違うだろう。走馬灯は、もう少し後で。」
 僕がそう言うと、君は、
 「いいから、さっさとしなさい。早く私を、幸せにして。」
 と、僕の背中を押す。
 「じゃあ、どうして、僕にあれを見せるの。」
 たくさんの水滴が絨毯に滴り落ちる。
 「だって・・・。あなたが自分のことを可哀想って感じてるから・・・。」
 「そんなこと、感じるわけないだろう!僕は・・・僕は!」
 「何言ってるの。あなたは、心の底で、『ああ、僕はどうしてこんなに不幸なんだ。みんなが僕を苛める。僕はこんなに頑張っているのに』って思っているんでしょう。そんな風に思っいるから、本当のことを教えてあげようと思ったの。」
 寒くて手の甲の色が青紫に変色する。小刻みに震える指先からそれが全身に伝わってくる。早く、早くと急かす君の声に吐き気がする。
 「またやめるの。これで何回目よ。」
 君は呆れた顔をする。
 「やめないよ。」
 僕は言った。
 「・・・本当に、するの。」
 「するよ。」
 君は急に大人しくなった。
 「君は本当は、生きたいのかい。」
 「そんなこと・・・ない。」
 「じゃあ、どうしてそんな悲しそうな顔するの。」
 だって・・・。言いかけてやめた、君の気持ちが手に取るようにわかる。
 「でも・・・間違ってない。」
 「何が。」
 「あなたが死ぬこと。」
 僕は君の言葉を聞いて、頷いた。
 「僕も君と同じ意見だ。」
 足をかける。ひんやりとして、また凍えるような寒さが全身を駆け巡る。
 もう、終わりにしよう。
 冷たい風がもう一度吹き込んだとき、そこにいた少年の姿は、もう消えていた。

myself

ありがとうございました。

myself

僕の手を握ってくれる人は、最後まで現れなかった。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-02

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