夢の跡

ふと目を覚ますと、そこには男の子が立っていた。目覚めた私は夢心地のまま、その状況と対峙する。
「起こしちゃった、ごめんね。」と、申し訳なさそうな、悲しそうな複雑な感情を汲み取れる顔で彼は謝ってくれた、悪い人ではなさそうだ。
「ううん、大丈夫だよ。ところで君は誰なのかな?」一番の疑問を投げつける。
「僕は幽霊だよ。でも、あなたに何か良い事も悪い事も何も出来ないから安心して。ただお喋りがしたいだけなんだ。」そうかそうか、では彼の言葉に甘えて安心させてもらおう。
「なるほど、じゃあ何で君はここにいるの?」二番目の疑問も素早く投げつける。
「特に理由はないけど、お話がしたくって来たんだ。」特別ではなかった、正直少しがっかりした。せっかく会えたんだから特別な何かであって欲しかった。
「幽霊ってなんなの?」純粋な疑問だ。
「わからない。あなたは人間が何かを答えられる?」おっと、見た目によらず難しい事を言ってくる。こんな深夜に頭を回転させたく無いので早々に考える事をやめる。
「私がもう一度寝てしまったら、あなたはどうするの?」実のところ、明日は朝が早かったりする。
「そうしたら何処かへ行くよ。そしてまた、誰かに見つけられる事を祈って歩くよ。」幽霊も何かに祈りを捧げるんだなあ。それは良いとしてとりあえず、せっかく出会えた幽霊さんがどこかへ行ってしまうのは勿体ないので、もう少しお話をする事にする。
「幽霊ってやっぱり未練があるから現世に残ったり、何かを成し遂げたら成仏したりするの?」聞いてみて少し後悔した、もしかしたらとんでも無く重たい話が来るかもしれない。身構える。
「未練はある、かな。ただただ、色んな人と色んな話がしてみたいだけなんだけどね。今まで幽霊になって会話するのがあなたで18回目なんだけど、話し相手が増えなくってね。彷徨って探してるんだ。」幽霊自身もわからないのか、結構大変なんだな。あんまり重たい話じゃなくってホッとした。
「あなたの他にも幽霊っていたりするの?」取材を行っているのかと錯覚するぐらい質問をぶつける。
「僕は会ったことはないけど、僕がなれるんだから多分他にも居るんじゃないかな。」幽霊は群をなさないらしい。
「一方的な質問ばっかりでごめんね。色んな話が聞きたくて彷徨ってるって事は、何か話したい話でもある?」結局質問みたいになってしまった。
「それが特には無いんだよね。君の話も色々聞きたいけど、寂しくなってしまうから。」よくわからない事を言っている。
「寂しくなったらまた話においでよ。」我ながらいい事を言う。無害な幽霊の友達なんて居て損が全く無い。
「ありがとう!嬉しい。また絶対に来るよ。」ここまで喜んでくれると幽霊相手でも嬉しい。
「そろそろ眠くなってきてしまったよ。おやすみ。また今度話そうね。」いっぱい話したいことはあるけど、また話せるならその機会でいいだろう。
「話をしてくれてありがとう。また今度、絶対にお話をしにきます。お話の続きが出来る事を心から祈っています。おやすみなさい。」結構信仰深い幽霊さんだ。私も眠りにつきながらもう一度会えるように祈った。

目覚ましの音に目を覚まさせられた。眠たい目を擦りながら昨晩見た夢を思い出す。何があったかな?覚えてないな。なんだかいいことがあった様な気がするけど、まあいいか。まだまだ寝ていたいな。
現実逃避はその辺にしてベッドから出る。私は今日も日常を送る。

夢の跡

夢の跡

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-02-24

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