電話
けたたましくコール音が鳴った。女は画面を確認すると、顔をあからさまに顰める。
はっきりフったのに、しつこい男。会話をするのも嫌なのに。
しかし世の中というのは本当に便利になった。女は画面の下縁に指を置いて上へスワイプする。そして、現れた『AIモード』のボタンをONにした。
こうしておけば、普段の電話の内容から、持ち主の音声と会話の特徴を学習したAIが、自動的に応対してくれるのだ。これで、面倒くさい相手を無視することと、悪い印象を残さないことが同時に行える。
ベッドに携帯を放ったのと同時に、男の声が流れ出し、それにナチュラルな自分の声が続いた。男は疑いもせず、未練をくっちゃべっている。
フン、繋がっただけで私だと思ってるんだから。馬鹿な男ね。
口元に冷笑を浮かべて、女は鏡に向かい、口紅を手に取った。
「いえ、奥さん、これは本当のことなんです」
「で、でも……娘とはつい昨日の夜、話したんですよ。電話でしたけれど、声は元気そのものでした」
「死亡推定時刻がおよそ3日前というのは、間違いありません。そうとう腐乱が進んで――おっと、失礼」
「そんな……。けれど、お話では一ヶ月前から、か、監禁されていたと……どうして誰も気づいてくれなかったんです? あの子が失踪したって!」
「それがですなぁ。此方としてもきちんと聞き込みをしたんですが、似たような証言しか得られませんで。皆言うんですよ。『電話が繋がったから大丈夫だと思った』ってね」
電話