まって、いかないで

 きみの吐息を追いかけたら、月まで届いた。
 冬からはだれも逃げられない。孤独が、寂しさが、どこまでもつきまとうように。
 ゆめのなかでだって、影にひそんでいつでも脳を侵す機会をうかがってるよ。視界のすみに映りこんだ本のページ、めくれる音、天窓からさしこむひかり、どこからともなく聴こえるこわれたオルゴールの奏でる曲、なつかしさは心臓にこびりついている。
 追いかけることしかできない衛星にはお似合いの孤独です。
 影、きみの影、きみの吐息、もうすぐ春がきて、それさえ失う、きみの在り処。
 きみを殺さないで。死にゆく冬の気配が、春の種を落とすまで、あと

まって、いかないで

まって、いかないで

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-02-18

CC BY-NC-ND
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