心の唖
わたしたちは
すぐ泣くし
すぐ怒るし
すぐ騙されるし
すぐ嗤うし
すぐ喘ぐし
脆いし
哀れ
電車を見つめながらそう思っている。今朝は雨だった。昼から晴れていた。傘が邪魔だった。邪魔がられる傘が不憫だといまはおもう。あなたを誘拐したのはわたしなのにね。わたしが哀れだ。電車に格納されるきみが見える。マスクをしても人間は哀れだからすぐに気が緩んで感染する。漠然としたセンチメンタルに感染する。だけれどわたしが見つめる前からその餃子の皮にはすでに毒が盛られている。それをわたしだけが知っている、と盲信している餡しかその皮のなかにはいない。わたしも含めて、まったく哀れだ。
哀れを見たら 塗り直すべきだろうか
白紙にもどすべきだろうか(嗤っている、喘いでいる、わたしはいまこのときこそ哀れなのにね)
塗り直してもプロじゃないから色がどんどんくすんでいく(脆いと嗤っておきながら自身の脆さに無頓着でいたなんて哀れ甚だしいよ)
織田作之助とショーペンハウアーが口をつぐんでいることの意味をわたしにおしえてくれた
口を奪い奪われたところで
哀れじゃない って
あのとき言えたらよかったな
心の唖