勝手な期待に裏切られてろ

 しずかに、吐いた息が、可視化する夜。二十三時の夜の底。
 きみがためらったそのひとことの存在のこと、はっきりみちゃって、ぼくはすっかりあきらめることをやめてしまった。
 街灯が、ばちばち、と、蛾を殺して、鱗粉の感触に目を輝かせたきみは、いつでも死に興味をそそられていた。
 きみのいのちまるごと、死の引力の虜だった。
 鎖骨がぎゅう、と締めつけられる、孤独のこと。
 わすれないで。そのことばがわすれるなとつよくつよくぼくに刻みつけたわすれちゃいけなかったはずのもののこと、もうわすれてしまった。
 ながい夜のうちに、たいせつなものほど月あかりにみちびかれて月へ行く。
 だから新月の夜、ぼくはこんどこそきみに、きみがひそやかにためらったそのことばを、伝えにいくよ。
 心地よいささやかな孤独は、おわりだ。

勝手な期待に裏切られてろ

勝手な期待に裏切られてろ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-02-16

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND