イン・ザ・ルーム

田宮優月

短篇、みたいなものです。


登場人物
・大倉大河(オオクラ タイガ)
・坂口悠真(サカグチ ユウマ)
・東泰士 (アズマ タイシ)
・神谷京 (カミヤ ケイ)
・瀬名要 (セナ カナメ)
・伏見一花(フシミ イチカ)
・水野律 (ミズノ リツ)
・五十嵐椿(イガラシ ツバキ)



【御話の始まり】

舞台上にバラバラにいる役者たち。

大倉  はーい、集合。

ぱらぱらと集まるほかの役者たち。

大倉  えー、じゃ、とりあえずオープニング、一回やっとこか。
伏見  まだ五十嵐来てへんけど。
大倉  え?○時(ステージ開演時刻)には来るいうてたやん。
伏見  いやわたし聞いてへんし。
水野  どないしたんやろ。
坂口  全員おらんなできんやろ、そのシーン。
瀬名  そりゃオープニングやからなあ。
東   待つ?
大倉  いやぁ、
水野  ちゃうとこ練習しとく? うちと瀬名のとことか。なあ。
瀬名  うん、あんま練習できてへんし、できるんならしたいな。
大倉  いや、
神谷  いや、なんやねん。
大倉  考えてんねやんか。
神谷  時間なくなるて。
水野  まぁまぁ。

五十嵐、やって来る。

五十嵐 おはようございます。
一同  ……

五十嵐、機嫌悪そうに準備をする。

五十嵐 何?
東   いや、
神谷  何? てお前、遅れといてごめんの一つもないんかよ。
五十嵐 ああ、ごめん。
神谷  いや、ほんまええかげんにせえて。
大倉  まあまあ。
神谷  まあまあ、ちゃうし。てかお前も嫌そうな顔してやんけ。
大倉  それとこれはちゃうやん。
坂口  まあまあ。
瀬名  とにかく、全員揃ったんやし、やろや。オープニング。
伏見  せやな。
神谷  ……
五十嵐 何よ。
神谷  ウォームアップは?
五十嵐 前の稽古場で済ませて来たからええよ。
神谷  あ、そう。
五十嵐 座長でもないのに、指図線とってくれる?
神谷  してへんやんけ。
大倉  はい、おしまい。ね、楽しくやろう、楽しく。仲良くはやらんでええから、楽しくやろや。
五十嵐・神谷 ……
大倉  はい、準備してー。

役者、各々の準備に。

伏見  東さん、手錠もちました?
東   あ、忘れとった。
伏見  はい、これ。
東   サンキュー。
水野  一花ちゃん、私のポテチどこー?
伏見  さっきそこ置いてましたよ。
水野  あ、ほんまや。
瀬名  大倉さん、これ、どないしましょ。
大倉  あー、始めにでてくるんどれ?
瀬名  NHKっす。
大倉  じゃ、そんときおる場所置いときや。
瀬名  おっけーです。
坂口  俺の衣装どこー?
大倉  俺持っとるよ。
坂口  さすぅ。
水野  え、なにそれ。
坂口  え?
水野  なに、その「さすぅ」って。
坂口  え、さすが、の略。
瀬名  略す意味皆無やな……
大倉  準備できた?

それぞれ返事。


【この後お金は返しました】

部屋で一人、両手両足を手錠でえらいこっちゃになっている東が転がっている。
チャイムの鳴る音。

坂口 東さん? 東さーん。おるんやろ? 返事しいや。
東  ……
大倉 電気メーター回っとんの確認済みやねん。おい。聞いてんのか?
東  ……
坂口 ドア、開けるで。
東  え、ちょ、
坂口 おい、大倉。
大倉 あいよ!

大倉、ピッキングをする仕草。

大倉 ストーカーで身につけたピッキング能力、なめんなよぉ。
坂口 自慢することちゃうけどな。
大倉 開きました!
東  あ……どうも。
坂口・大倉 ……え?
東  いや、ね。出よう思ったんですよ。でも、これ、抜けんくて。
坂口 ……
東  そんな顔で見んといてくださいよ。ゴキブリ見るみたいな。
大倉 いや、なるやろ。坂口さん、こいつ頭おかしいんちゃいます?
坂口 それはそやろな。ま、身動き取れへんのやったらちょうどええわ。金だけとってくで。
東  あ、俺今一文無しなんすよ。
坂口 そんな嘘ついたってなあ、
東  そもそも、俺、借金してないんと思うんですけど……
大倉 伊集院桜子さんの借用書の連帯保証人の欄に、お前の名前と捺印があるねん。
東  あー……そういやそんなんしたなあ。あ、そう、その桜子ちゃんのせいで、俺今金ないねん。
坂口 なんやお前、風俗嬢に全財産搾り取られたんか。
東  ええ、もういろんな意味でしっぽりと、あいて。
大倉 お前の事情は聞いてへんねん。ええから金だせ。ないなら稼げ。稼げへんなら……わかるよなぁ?
東  あ、桜子ちゃんどこにおるかわかります?
坂口 わからんからお前んとこ来とるんやろ。
東  ……なるほど。
大倉 地味に無視すんなて。
東  まあ、桜子ちゃんのためなら頑張れると思うんで、とりあえず、これはずすん手伝ってくれません?
大倉 なんで俺らがお前の手伝いせなあかんねん。
東  これ外してくれへんかったら、一生金稼げへんでしょ? だからほら、自分のためにも。
坂口 ……一つ聞いてええか。
東  何ですか?
坂口 ずっと気になっとったんやけどなあ、なんでそんなことなってるん?
東  いや、ね。その桜子ちゃんとSMごっこしよ思て買った手錠が届いて、こう、テンション上がって、つい。ね?
二人 ……
東  とりあえず、これ、外すん手伝ってくれません? 君らのためにも。

終わり。


【簡易的殺害方法論】

五十嵐、スマホをいじってる。
外から、伏見の声。

伏見  ありがとうございました。またご利用くださいませ。

伏見、勢いよく入って来る。

伏見  ……
五十嵐 お疲れ。
伏見  お疲れ。
五十嵐 また?
伏見  また。
五十嵐 いや、またかー。
伏見  なんでー、なんでこのタイミングなんー。
五十嵐 もう来なくていいよね。
伏見  来るな。一生来るな。
五十嵐 でも、来たら来たで、売り上げ。
伏見  そう、そうなんだよなぁ。
五十嵐 殺す?
伏見  いや、無理でしょ。
五十嵐 毒殺?
伏見  なにに入れるの。
五十嵐 ……ローランペリエ?
伏見  あー、あり。
五十嵐 お、行っとく?
伏見  いや無理。
五十嵐 心臓発作で倒れて死ななかいなあ。
伏見  あり。
五十嵐 でも死んだら売り上げがなぁ。
伏見  なぁ。
五十嵐 どうする?
伏見  なにを。
五十嵐 殺す?
伏見  いやあ。
五十嵐 うん、殺しとこう。
伏見  いや、
五十嵐 うん、殺しに行こう。今すぐ。
伏見  うん、いや。
五十嵐 え?
伏見  冗談だよ。
五十嵐 え?
伏見  冗談だよ、殺す、とか。
五十嵐 冗談?
伏見  そう、冗談。
五十嵐 え、冗談?
伏見  うん。
五十嵐 冗談で、殺す、とか、言っちゃう?
伏見  いや、殺すって言ったのは椿、じゃん?
五十嵐 でも一花、
伏見  無理でしょって言ったじゃん?
五十嵐 言ったけど。
伏見  うん。
五十嵐 え、
伏見  え?
五十嵐 でも、殺すでしょ?
伏見  いや、だから殺さないって。うん。
五十嵐 え?
伏見  え?
五十嵐 あ、じゃあ、
伏見  うん。
五十嵐 私、今から殺して行くから。
伏見  え?
五十嵐 行って来るわ。
伏見  いやいやいやいや。
五十嵐 え?
伏見  うん。
五十嵐 え?
伏見  やめとこう。
五十嵐 なんで?
伏見  なんで、って。
五十嵐 ほら、こう。
伏見  うん。
五十嵐 殺しちゃだめな理由、ある?
伏見  小学校の道徳の時間に人は殺しちゃいけませんって習わなかった?
五十嵐 ……(行こうとする)
伏見  いやいやいやいや。

大倉、入って来る。

大倉  伏見ぃ、ちょっと。
伏見  え。
大倉  はよ。
伏見  あ、申し訳ございません……。

伏見、大倉出る。

五十嵐 なーんちゃって。

終わり。


【二ヶ月で二○五二○円】

家でくつろぐ水野。
チャイムの音。
水野、動かない。
少し間があって、チャイムの音。
水野、ちらりとドアの方を見る。
再び、チャイムの音。
水野、のそのそと立ち上がり、ドアの覗き窓から覗く。

瀬名 あれ、お留守ですかー? NHKの集金でーす。

水野、のそのそと元に戻る。
再び、チャイムの音。
水野、無視。
再び、チャ

水野 いや、しつこっ。

終わり。


【面倒くせえっていうお前が一番面倒くせえ】

部屋。寝転んでいる神谷と、綺麗な服を着た五十嵐。

五十嵐 ねぇ。
神谷  …
五十嵐 ねぇ、聞いてる?
神谷  うるせぇな。
五十嵐 今日、デートするって言ってたよね。
神谷  あ、そうだっけ?
五十嵐 そうだよ。
神谷  今日じゃないとダメなのかよ。
五十嵐 え、だって、二ヶ月ぶりに二人で出かけるんだよ?
神谷  いいじゃん、家にいても一緒にいられるんだから。
五十嵐 それとこれとは違うじゃん。
神谷  一緒だろ。面倒くせえな。
五十嵐 ……昔はもっと優しかったのに。
神谷  あぁ? なんか文句あんのかよ。
五十嵐 ……ううん、何にも。

終わり。


【数年前に流行った女性アーティストのMVに出て来そうなやつ】

爪にペディキュアを塗りながら小さく歌う水野。
ケータイの通知音。
伏見、画面をみて、くすりと笑う。

終わり。


【楽屋】

大倉、坂口、神谷、瀬名、東がそれぞれ開演前の準備をしている。
東、変な動き。

瀬名 ……何してんすか。
東  集中。
瀬名 いや、おかしいでしょ。
瀬名 ねぇ、なんで誰も突っ込まないんすか!?
坂口 慣れた。
大倉 慣れやで。
瀬名 えぇ……。
神谷 人のルーティンに口出ししたらあかん。
大倉 心を無にするねん。
瀬名 そこまで言う?

しばらくの間。

瀬名 なあ。
大倉 ん?
瀬名 これ、お客さんみてどう思うんやろなあ。
大倉 知らん。
瀬名 えぇ……
大倉 こっちが「こうですよーって、提示しても、お客さんがその通りに受け取ってくれるかどうかなんて、こっちにはわからんし。
瀬名 まあ、そやねんけどさ。
坂口 何がそんな心配なん。
瀬名 いや、わかんないんすけど。こう、これ、すごいリアルじゃないですか。
神谷 まあ、エンタメー! では、ないわな。
瀬名 しかも、劇団の話やったりするじゃないですか。
坂口 そうやなあ。
瀬名 これがほんまに俺らやーって思われたら、嫌やなあって。
大倉 なんで?
瀬名 え、だって、こんな仲めっちゃ悪そうなん、嫌やん。
大倉 でも、これがリアルやって思ってもらえたら、それはそれくらい俺らの演技が上手いってことやん?
瀬名 まあ、そうやねんけど。
神谷 嫌な奴って思われるんが嫌なん?
瀬名 そう、なんかもしれん。
坂口 瀬名はいい奴ポジションしかやってこんかったからなあ。余計やな。
大倉 それに、そのリアルなんかなんなんかわからんからこそ、おもろいってのもあるしな。
神谷 あんまり身内ネタぶっ込みすぎたら客受け悪いけどな。
大倉 存じておりますとも……
坂口 ま、今更考えたって、やしな。
神谷 あと三十分後には開演やし。
東  あ、今から公演中止する? 公演中止劇団する?
坂口 やめなさい。
東  ごめんなさい。
神谷 マリッジブルーみたいやな。
東  え、瀬名くん結婚するの?
神谷 いや、例えやん。
東  例えか……。
神谷 がっかりすんな。
大倉 瀬名が心配してる以上にお客さんは俺らの敵じゃないし、味方でもないって。
坂口 今更何言ったってどうにもならんしな。
神谷 これで大コケしたら全部大倉の所為や。
大倉 え。
東  よっ! 座長! よっ! 作演出ぅ!
大倉 お腹痛くなってきたからトイレ行ってくるわー。
坂口 早よ帰って来いよー。

大倉、出て行く。

終わり。


【どうせ消費されるんだったら私は私として消費されたい】

向かい合って座っている

瀬名 で。いつまでにどれくらい稼ぎたいの?
伏見 来月までに、二十万。
瀬名 あと半月しかないけど。わかってる?
伏見 わかってます。
瀬名 うーん。君ならいけるとは思うけど……。正直、稼ぎたいんならうち以外の方がいいんじゃない?
伏見 そこまではしたくないんです。
瀬名 みんなそういうんだけどねぇ、結局は一緒だよ、行き着く先は。
伏見 消費されるのに代わりないなら、自分も相手を消費したいので。
瀬名 は?
伏見 いえ、なんでも。
瀬名 まあいいや。とりあえず名前、決めようか。
伏見 本名で。
瀬名 え?
伏見 本名で、お願いします。

終わり。


【ずっずっずっ】

教室で一人、緊張した顔の東が立っている。
なんらかの緊張をほぐす行為を行う。
そこに水野、やって来る。

水野 ごめーん、委員会長引いちゃってさ。
東  あ、ああああ、う、ううん、全然、全然、大丈夫。
水野 ずっと待っってくれたの?
東  う、あ、まあ、うん。
水野 で、どうしたの?
東  え?
水野 で、なあに?
東  え、
水野 話って。
東  あ、あぁ。
水野 うん。
東  えっと、
水野 うん。
東  あ、ま、前髪切った?
水野 え? うん、少し。
東  そ、そっかー。
水野 ねぇ、何?
東  え。
水野 前髪で呼んだの?
東  いや、違うけど。
水野 うん。
東  あの—
水野 うん。
東  ずっずっず、っずっと前から好きで、
水野 −−うん。
東  き、気持ち悪いと思うんだけど。俺なんかが。でも、あの。うん。なんか、こう、クラス委員、誰も立候補しなところに率先して手をあげたり、ちゃんとみんなのことまとめてたり。授業中。真面目に授業聞いてるけど眠気に負けてたまに寝てしまうところとか。なんか。色々。ちょっと、こう、むっちりした感じのその、足、とか。もう、全部、全部まとめて好き、なんですけど。
水野 ……
東  よ、よければ付き合ってくれたり、とか。いや、俺なんかがって思うんだけど。
水野 ……
東  あ、嫌、だよね、やっぱり。俺みたいな気持ち悪いのがね、こうね、付き合ってほしいとかね、嫌ですよね、ね。
水野 ……
東  ごめんナシ、今のなしで! 今まで通りで!
水野 もっと自信もてよ。
東  え?
水野 もっと自信もてよ! ていうか、「俺なんか」とか言われて付き合いたいと思うか つーか気持ち悪い本心全部さらけ出すのなんの、バカなの?
東  いや、それは言葉のあやっていうか、ていうか、めっちゃ、
水野 めんどくさ! 女々し! もっと自信つけて出直してこい! ままんの子宮から出直してこい!

終わり。


【デリヘル呼んだら君が来た】

ホテルで座っている神谷。
チャイムの鳴る音。
神谷、ドアを開けながら

神谷  はー…………

ドアを閉める。

神谷  ……なんだ、幻聴か。

電話、鳴る。

神谷  ……
神谷  ……ハイ。
五十嵐 あ、もう着いたんですけど……ローソンの真向かいのホテルの、二○五号室であってますよね?
神谷  ア……ハイ。
五十嵐 よかったぁ。あ、開けてもらってもいいですか?
神谷  ……え、っとお
五十嵐 あ、もしかしてシャワー浴びてました?
神谷  うん? いやぁ、
五十嵐 早やく開けてもらっていいですか
神谷  あ、はい。

ドア、開く。

神谷  ……
五十嵐 どぉも、桜子です。
神谷  あ、あぁ、桜子さん。ね。うん。だって俺、桜子さんでーって言ったもんね、うん、やっぱり間違って
五十嵐 何です?
神谷  う、ううん、なんでもない。なんでもない……あ、じゃ、じゃあ、どうしたらいいかな、シャワーは、浴びたんだけ、
五十嵐 なんですか? 私の顔、なんかついてます?
神谷  う、ううん。違う違う。かわいいなぁって、思って、うん。見惚れてただけ、だから。
五十嵐 えぇ、もう。そうんなこと言ったって。

五十嵐、神谷を椅子(ソファが理想)に押し倒す。
見つめ合う二人。
しばらくの間。

神谷  あのお。失礼かもしれないんですけどお、さ、ささささ、桜子さんて、彼氏とか、いるんですか?
五十嵐 いますよお。
神谷  へ、へぇ、そうなん
五十嵐 目の前にな!
神谷  だーーーーー!
五十嵐 なんか、言うことない?
神谷  えぇ?
五十嵐 なんか、言うことない?
神谷  え、えっと……。あ、あの、椿、さん、なんでここにいるんでしょうか?
五十嵐 あんたが指名したからでしょ。
神谷  いや、そうじゃなくてぇ!
五十嵐 なんでヘルス嬢やってるのか聞きたいの?
神谷  (頷く)
五十嵐 お前みたいなアホみたいにセックスのことしか考えてない男がいるからでしょ。
神谷  え、えぇ……
五十嵐 私じゃ不満か? 私じゃ不満だからこんなとこきたんか? おい。Fラン私立大学の女よりK大お嬢様とやりたかったんか? えぇ?
神谷  い、いや、そうじゃなくて……
五十嵐 じゃあなんで!
神谷  さ、最近、椿、バイトで疲れてそうだったし、ほら。そういう時に、こう、ね? するのも、嫌かなぁって、負担になるかなぁ、って、思って。
五十嵐 え……
神谷  いやあ、でも俺、それでも椿に雰囲気似てる子を指名しちゃうくらい、椿のこと好きって、なんか、キモいな、はは、あははは……
五十嵐 ……
神谷  椿?
五十嵐 ……大好き。
神谷  うん、俺も。

終わり。


【He live in the toilet】

トイレに駆け込んでくる瀬名。
えづいて苦しそう。
薬を飲む。
すこし、落ち着く。
笑顔で出て行く。そのあしは少し震えている、ことには誰も気づかないのだろうなあ。

終わり。


【アイスが溶ける】

アイスを食べながらグラビア雑誌をめくる伏見。そこを通りかかる水野。

水野  え、何読んでるの?
伏見  これ。
水野  ……え?
伏見  急に読みたくならない?
水野  え、ならないならないならない。
伏見  えー。
水野  なる?
五十嵐 男のなら。
水野  いや、女の子の。
五十嵐 ならない。
伏見  えー。
水野  だって、自分の体見ればよくない?
伏見  それとこれとは別じゃん。
五十嵐 一緒だって。
水野  ……見る?
伏見  結構です。
水野  自分のじゃないのに?
伏見  うん。
五十嵐 男の人のじゃダメなの?
伏見  休憩中にまで、あんな汚い物見たくない、です。
五十嵐 ごもっともでした。
水野  イケメンとおっさんは違うくない?
伏見  イケメンもおっさんも構成されてる物質は殆ど一緒だよ。
水野  DNAの配列が違う!
五十嵐 ハイハイ。
伏見  なんか、安心するんだと思う。
五十嵐 なんで?
伏見  うーん。私たちはさ、あのきったないホテルの一室で、違う私たちになるわけじゃん。お金と今後の生活と夢、のために。おっさんを餌にして。
伏見  この、カメラの向こうでポーズとって微笑んでる可愛い子も、そうなのかなあって。次のステップへ進むためとか、名前を売るためとか。いろんな理由があると思うんだけど、離れた場所に住んでるこの子達もそうなんだなあ、って思うと、安心する。
水野  ……
五十嵐 ……
伏見  あ、アイス。溶けちゃった。

終わり。


【深淵を覗いているとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ】

観覧車に向かい合って座っている坂口と神谷。
しばらくの間。

坂口 ……
神谷 ……
坂口 あのさ。
神谷 うん。
坂口 なんで男二人?
神谷 いやあ。
坂口 いやあ、て。
神谷 いやあ。
坂口 いやあ。
神谷 観覧車。ねえ。
坂口 そう、観覧車。
神谷 観覧車、カップルで乗ると別れるっていうね、ジンクス。
坂口 あー、あるね。
神谷 だから、男二人、みたいな。
坂口 意味わかんねえな。
神谷 うん、意味わからんな。
坂口 なんでこうなった?
神谷 昼から酒のんで。
坂口 うん。
神谷 めっちゃテンション上がって。
坂口 うん。
神谷 それで、
坂口 うん。
神谷 こう、観覧車みつけて。
坂口 うん。
神谷 観覧車のろうぜ! みたいな。
坂口 あー。
神谷 で、今、みたいな。
坂口 なるほど。
神谷 なるほど?
坂口 いや、全然なるほどらないんだけど。
神谷 なるほどらない。
坂口 うん。
神谷 実際、乗ってみたらなんか、こう、違うじゃん、みたいな。
坂口 違うっていうか。
神谷 うん。
坂口 さみしい。
神谷 さみしい。
坂口 ほら、前のカップルめっちゃいちゃついてんじゃん。
神谷 あー。
坂口 あーほら、あんな鏡ばりのところでキスなんかしちゃって。
神谷 やーん破廉恥。
坂口 この後絶対東梅田行くんすよ。
神谷 あ、ここ関西?
坂口 いや、だって東京のラブホ街とか知らんし。
神谷 せやな。
坂口 いきなり関西弁なるなや。
神谷 いや、坂口さんやって。
坂口 あかんわ、これどないもできへんわ。
神谷 諦めよ。もうこっから関西弁でいこ。
坂口 全編?
神谷 え?
坂口 全編。
神谷 いや、全編てなに?
坂口 え?
神谷 え?
坂口 ……
神谷 ……
坂口 まあええわ。
神谷 うん。
坂口 なんの話やっけ。
神谷 東梅田行く話。
坂口 あー。
神谷 まあ、ええんちゃいます。
坂口 少子化社会やしね。
神谷 そうそう。
坂口 いや、虚しいっすね。
神谷 虚しいっすね。
坂口 なんで観覧車なんて乗ったんやろな。
神谷 ヘップに来たんがあかんかった。
坂口 なんでこんなショッピングモールに観覧車ついとんねん。
神谷 いや、それはちゃうやん。
坂口 でも、ついてへんかったら俺らこんなことなってへんやん?
神谷 たしかにぃ。
坂口 うん。
神谷 まあ。
坂口 こういうこともあるな。
神谷 あるある。
坂口 今度は彼女とこよ。
神谷 ここでいきなり裏切ります?
坂口 ふはっ。

終わり。


【楽屋】

伏見、水野、五十嵐、それぞれ開演前の準備をしている。

水野  なあ。
五十嵐 ん?
水野  今日私紐パンやねん。
五十嵐 いらんわ、その報告。
伏見  ほんまそれ。
水野  なんでよ! ちょっとはノッてくれてもええやん。
伏見  いやあ、興味ないですね。
五十嵐 まじ興味ない。
水野  りっちゃん泣いちゃう。
伏見  きも。
水野  なあ今きもって言った!? きもって言ったよなぁ!?
伏見  うん。
水野  むきー!
五十嵐 猿やん……
水野  私、一応年上やで? おーけー?
五十嵐 知ってるけど。
伏見  まあ、ねえ。
水野  君ら、外部出るときどうしてるんよ。
伏見  敬語使ってますけど。
五十嵐 同じく。
水野  ……なんで?(自分を指差す)
伏見  なんで、やろなあ。
五十嵐 慣れ?
伏見  ある。
五十嵐 そんな感じ。
水野  ざっくりやなあ。
伏見  いらんところに蓄光テープ貼りまくる人は年上って見れへんよな。
五十嵐 あれは五歳児。
伏見  ふはっ。
水野  バカにしてる?
伏見  はい。
水野  怒った! 私怒った!
伏見  律さん、しー。
水野  はい。
五十嵐 で、なんで紐パン?
伏見  勝負パンツなん?
水野  いや、なんとなく。
水野  なんとなく履いてきたから、なんとなく言ってみた。
伏見  ……
五十嵐 ……
水野  ……
伏見  あ、開場した。
五十嵐 あ、ほんまや。
水野  おー、結構お客さん始めに入って行くなあ。
伏見  散々ツイッターではよ来いって言ったからな。
五十嵐 開演時間押したくないもんなあ。
水野  優秀なお客さんです。いつもありがとう。
伏見  誰に向かって言ってるん。
水野  壁の向こうのお客さん。なむなむ。
五十嵐 いや、殺すなて。
水野  お腹すいた。
伏見  そこにおにぎりありますよ。
水野  ねっころがったらおにぎり出そう。
伏見  いや、どんなやねん。
水野  こう、けろって。
五十嵐 けろって……

終わり


【牢獄】

部屋に一人、みずぼらしい格好をした大倉がいる。
人々が、前を通り過ぎて行く。
中をのぞいたり、虐げたり、無視したり、反応は様々。

終わり。


【G】

水野 あ! ゴキブリ!
坂口 ひぇ!?
水野 うっそでっしたー!
坂口 お前ー!

二人、楽しそうに笑って、終わり。

終わり。


【非効率的退職方法】

手足を縛られた瀬名、床に転がっている。
その横でスマホを触る五十嵐。

瀬名  あの。
五十嵐 なあに。
瀬名  そろそろ、これ。
五十嵐 これ。なに?
瀬名  限界、なんですけど。
五十嵐 うん。
瀬名  色々と。
五十嵐 へえ。
瀬名  だいたい、なんで僕、なんですか?
五十嵐 なにが?
瀬名  誘拐されたの。
五十嵐 ……
瀬名  なにか悪いこと、しましたっけ、僕。あなたに。
五十嵐 さあ。
瀬名  そろそろ、トイレとか。
五十嵐 そこでしたらいいじゃない。
瀬名  いや、もう、成人してる男性がそれは、やばい。
五十嵐 今の状況よりも?
瀬名  あー。あなたが言いますか、それ。
五十嵐 ええ。
瀬名  まあ、いいかあ。

しばらく、テレビの音だけが響く。

瀬名  僕、今どういう扱いなんですかね。
五十嵐 なにが?
瀬名  世間で。
五十嵐 さあ。
瀬名  会社、無断で休んじゃったなぁ……
五十嵐 もっと、別のこと心配しなさいよ。
瀬名  例えば?
五十嵐 例えば、私があなたを殺す、とか。
瀬名  いやあ、ないない。
五十嵐 そうとも言い切れないでしょ。
瀬名  ええー。
五十嵐 楽しそう。
瀬名  仕事してるよりは、何倍も楽しい。
五十嵐 ……
瀬名  お水だけ、飲ませてくれませんか。
五十嵐 はい。(ペットボトルを渡す)
瀬名  いやあ、無理でしょ。
五十嵐 そう。
瀬名  会社に電話、とか。
五十嵐 必要ないでしょ。
瀬名  え?
五十嵐 もう、必要ないでしょ。行かないんだから。
五十嵐 というか、いけないんだから。

再び、テレビの音だけが響く。
バライティ番組。芸人たちの笑い声が響く。耳障り。

瀬名  もう、会社行かなくていいですかね。
五十嵐 いけないでしょ、今の状況じゃ。
瀬名  うん、でも行かないといけないかな、とか。
五十嵐 というか、行かせない、けど。
瀬名  なんで。
五十嵐 なんでって。私はあなたを誘拐してるんだから。
瀬名  ああ、そっかあ。
瀬名  ふはっ。
五十嵐 ……
瀬名  もう、仕事しなくていいんですね、僕。
五十嵐 そう。
瀬名  ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。

感謝し続ける瀬名。五十嵐、顔を苦痛に歪める。

終わり。


【現実と○○】

疲弊した様子の坂口、大倉。

大倉 ……
坂口 ……
大倉 どこも開かないんですが。
坂口 開かないですねぇ。
大倉 一体なにがどうなってるっていうのよ……
坂口 え?
大倉 え?
坂口 いま、どうなってるっていうのよ、って、言いませんでした?
大倉 い、いやいやいやいや、気のせいじゃない?
坂口 あ、そうですか。だったら、いいんですけど。
大倉 本当に、どこも開きそうにないわ……わーなー。
坂口 ……? そうですね。
大倉 電波も届いてないみたいだし。
坂口 あんまり動いて体力消費するのも何ですし、ちょっと休憩しましょうか。
大倉 休憩!?
坂口 え?
大倉 い、いや、なんでもない、で、すよ。
坂口 そうですか……だったらいいんですけど。初対面だし、気を使うこともあると思うんですけど、あんまり無理しないでくださいね。
大倉 あ、ありがとう。
坂口 なんで泣いてるんですか……
大倉 尊すぎて……
坂口 え?
大倉 いいえ何でもないわ。
坂口 はあ。
大倉 私、もう少し出られるところがないか探してみるわ。
坂口 あの。
大倉 何よ。
坂口 喋り方……
大倉 え?
坂口 もしかして……
大倉 違う! 違うんです! 姉! 姉がいて! ちょっと! その喋り方がね、こうね、遺伝しちゃってね、たまにオネエみたいになっちゃうだけで、別に本当にオネエなわけじゃあないんです! おほほほほほほ。
坂口 はあ。
大倉 さあて、どこかに出口はないかしらねー
坂口 いや、もうボロ出てますけどね……

大倉、聞こえないふり。
しばらくあたりを探す。

坂口 あのー、そろそろ休みません? あのー。
大倉 ねえ。
坂口 はい。
大倉 主に二次創作でこうして二人きりで何をしても開かない部屋に入れらるパターンの創作物があることはご存知?
坂口 え? まあ、俺も男なので少しは……
大倉 私ね、思うの。
坂口 は、はい……
大倉 私たち、今、その状況に陥ってるんじゃないかって……
坂口 は、はあ。
大倉 つまり、私が言いたいのはね。
坂口 ストーップ! いやいやいやいや、ないでしょ。現実なんだから。これ、別にそんな二次創作でもなんでもないですよね? しかも俺とあなたは今日、目を覚ましてこの部屋で知り合った、知り合って2時間にも満たない仲ですよね? いや、ちょっと、きつい、っていうかまず、同性同士っていう時点で、俺、彼女いるし、
大倉 現実かどうかなんて試して見なとわからないでしょ?
坂口 いや、現実! まぎれもない現実だから!

坂口、自分で自分をビンタする。

坂口 痛い!ほら痛い!痛いから現実です、これ!
大倉 大丈夫、私が気持ちよくしてあ・げ・る。
坂口 ほらー! やっぱりそうじゃん! 始めから嫌な予感はしてたんだってー!
大倉 何騒いでるのよ。密室の中で二人って言ったらやることは一つに決まってるでしょう?
坂口 健全! ほかの人はもっと健全だから! ねえ! 何で俺だけこんなメタいセリフばっかなの! ちょ、おま、はやせって、おい、ばかやろー!
大倉 一体誰に向かって喋ってるのかしら。
坂口 お前だよ! お前! そう! オネエキャラがなぜか絶妙にうまいお前だよ!
大倉 ふふ、キャラだなんて。オネエの怖さを知らないのね、坊や。いいわ、私が教えて
坂口 くれなくていいよ! 結構です! 俺はこの部屋から出て可愛い彼女と過ごすの! そういう現実に戻るの!
大倉 現実?
坂口 え?
大倉 現実って、何よ。
坂口 え、だから、俺がもともと住んでいた……
坂口 もともと?
大倉 今、この瞬間は、じゃあ、何?

終わり。


【話し愛】

伏見 うん、だから。
東  え、いや、なんだけど。
伏見 仕方がないじゃん。
東  え、仕方がないって、何。
伏見 だって。
東  うん。
伏見 もう、好きじゃない、し。
東  うん。
伏見 好きじゃない、のに、一緒にいる意味、ある?
東  ない、けど。
伏見 だから、うん。
東  え?
伏見 だから、別れようって。
東  なんで。
伏見 だから、好きじゃないから、別れようって。
東  俺は好きなんだけど。
伏見 うん。
東  だから、別れたくないんだけど。
伏見 うん。
東  いや、うん。
伏見 でも、私は別れたい、ん、ですけど。
東  でも、俺は別れたくない、ん、ですけど。
伏見 えー。
東  えー、って。
伏見 もうこれ、堂々巡りじゃん。
東  そうですね。
伏見 そうですね、って。
東  だって、そうじゃん。
伏見 そうなんだけど。
東  だけど、何。
伏見 どちらかが、譲らない限り、この話し合いは終わらないと思うんだけど。
東  うん。
伏見 現実的に考えたとして、ですよ。
東  はい。
伏見 私は、もう好きじゃないので別れたい、って言ってるじゃん。
東  俺は、
伏見 一回、話を、聞け。
東  ……はい。
伏見 で、泰士は別れたくないわけじゃん。
東  うん。
伏見 で、仮に私が折れたとしよう。このまま付き合い続けたとしよう。
東  おぉ。
伏見 仮の話ね。
東  はい。
伏見 でも、私はもうあなたのこと、好きじゃない。好きじゃない人と一緒にいる。とても苦痛。泰士だって、自分のことをもう好きじゃない好きな人とずっと一緒にいないとだめなわけ。しんどくない? どれだけ私のこと好きでも、私は泰士のこと好きじゃないんだよ?
東  それでもいい、です。正直。
伏見 えぇ……
東  正直、もう、好きとか嫌いとか、好きじゃないとか好きとかどうでもよくて。ここに。ここにいてくれさえすれば、もう、俺のこと好きじゃなくてもなんでもいい、です。
伏見 そういうところが、好きじゃない、です。
東  ごめん。
伏見 いや、ごめんじゃなくて。
東  ごめん。
伏見 もう、いいから。
東  いいの?
伏見 何が。
東  ここにずっといてくれる?
伏見 いや、そういうことじゃなくて。
東  え。
伏見 もう、貴方に何を話しても言葉が通じないということが、ようやく私にもわかったので、もういいです。
東  え?
伏見 明日の朝、勝手に出て行くので。
東  どういうこと?
伏見 話し合ってもどうにもならないなら、物理的に離れるってこと、です。
東  ……
伏見 それじゃあ、私は今から荷物をまとめるので。もう、先に寝ててください。
東  ねえ。
伏見 はい。
東  一体、ここを出てどこに帰るつもりなの?
伏見 ……
東  ほかに、帰る場所なんて、ある?
伏見 ……

二人、沈黙して終わり。


【能ある鷹は爪を隠す】

一人で部屋にいる神谷。
ぶつぶつと、セリフの練習。
ああでもない、こうでもない、と。
そうして時間だけが過ぎて行く。

終わり


【そういうことしゃう?】

マスター(大倉)と客(伏見)がいる。
たわいない会話。
異国・もしくはよくわからない民族衣装のようなものを着た坂口、やってくる。

坂口 (わけのわからない言語を喋る)
大倉・伏見 ……
坂口 (わけのわからない言語を喋る)
伏見 ……お知り合い?
大倉 いやいやいやいや。
坂口 (以下同文)
伏見 今、以下同文って言ったよね?
坂口 (違います)
大倉 違いますって言ったよなぁ!?
坂口 (ちょっと、設定バクるんでやめてもらっていいですか)
大倉 設定バグるってなに……?
坂口 (わけのわからない言語を喋り続ける)

見守る伏見、大倉。
坂口、だんだん自分で笑えてきて。

坂口 いや、あかんわ、これ。
五十嵐 なんで笑うん。
神谷 なんで口挟むねん。
五十嵐 今、稽古中やん。演出止めてへんのに笑って自分で止めるの、あかんやろ。
神谷 だからってお前が口挟むなや、ややこしい。
五十嵐 なんでなん。私間違ったこと言ってる? ていうか、今演出も副座長も出てるねんから。
神谷 どんな理屈やねん。
坂口 いや、もうええから。
坂口 うん。ええから。
五十嵐 ていうか、このシーンいる? 
大倉 ええ?
五十嵐 意味わからんねんけど、このシーン。
大倉 えー……今言う? それ。
五十嵐 ていうか、今やから言う。
神谷 意味わからんし。
大倉 え、このシーン、いらん?
坂口 うーん。
大倉 え、いらん?
伏見 いると思うけど。
五十嵐 なんでよ。
伏見 クレーマー、とかの誇張表現やろ、これ。
大倉 まあ。
伏見 平和やった場所に突然やってくる、災害、みたいな。それの皮肉、みたいな感じちゃうん。いるやろ。
大倉 そう! そんな感じ。俺はそんな感じのこと思って書いててん!
坂口 へぇ、そういう意味やったんや。
伏見 理解してへんかったんすか。
坂口 うん。ただのギャグパートやおもてた。
伏見 ふはっ。
神谷 ほら、いるやん。
五十嵐 なんなん。自分だって理解してへんかったくせに。
神谷 してたし。
大倉 はいはい、喧嘩せえへんの。
坂口 このシーンは残す方向でええの?
大倉 うん、残すよ。
伏見 今日は瀬名も東さんもおらんからたいへんやなあ、大倉。
坂口 水野もおらんし。
大倉 二人も、そんなバチバチせんで。続けるで。
五十嵐 してへんし。
神谷 すまん。
大倉 はい、じゃあ次―。
伏見 もはや悟り開いてますね、あれ。
坂口 俺やったら胃、吐きそう。
伏見 ふはっ。

五十嵐と神谷、坂口と伏見をにらんで。

転。


【想い合い(重い愛)】

チャイムの音。
水野、出る。

水野 はい。
瀬名 あ、お届け物でーす。
水野 はあい。
瀬名 ここにサインもらえます?
水野 わかりましたー。

サインする手を止める水野。

瀬名 どうしました?
水野 あのお。
瀬名 はい。
水野 この、これ。
瀬名 はい?
水野 これ、「僕からの愛」ってなんですか?
瀬名 何って、荷物の名前ですけど。
水野 え?
瀬名 え?
水野 ふざけてます?
瀬名 え?
水野 え、え?
瀬名 いや、だから、愛。
水野 愛。
瀬名 僕から、水野さんへの、愛です。
水野 え?
瀬名 いつも笑顔で対応してくれてありがとうございます、大好きです付き合ってくださいあわよくばそのまま結婚もしてくださいって言う、愛。
水野 いや、意味わかんないんですけど。
瀬名 わかんないですか? 愛。
水野 愛の、じゃなくて。
瀬名 じゃあ、なにの。
水野 あなたのおっしゃる言葉の、です。
瀬名 え? わかんないですか? 僕から水野さんへの愛。
水野 いや、私、あなたのこと知らないんで。
瀬名 え? いつも笑顔で荷物受け取ってくれたのに?
水野 それは、宅配の人を、あなたと認識して、ではなくて。
瀬名 え?
水野 だから、それは、勘違いです。
瀬名 あ、じゃあ書き換えます。
水野 え?
瀬名 僕から水野さんへの想い合いに。
水野 いや、意味わかんないですし。
瀬名 いや、とりあえず書き換えたんで。

と、いいつつ品目を書き換える。

瀬名 はい。想い合い。
水野 いや、困ります、
瀬名 愛じゃなくても?
水野 愛じゃなくても。
瀬名 えぇ……。
水野 だいたい、これ、中身なにが入ってるんですか?
瀬名 だから、想い合い、です。
水野 いや、始めは愛、だったじゃないですか。
瀬名 でも、今は、想い合いなんで。
水野 意味わかんないですから。
瀬名 あ、一回持ってみます?
水野 え?
瀬名 一回持ってみたら、受け取る気になるかもしれないじゃないですか。
水野 いや、ならないですから。
瀬名 いや、一回、一回だけ。
水野 いや……
瀬名 ほら、ね?
水野 じゃあ、持つだけ……

水野、荷物を持つが、すぐに落としてしまう。
嫌な音。

水野 あっ。
瀬名 ね? ただの想い合い、でしょ?

終わり。


【固形物に固形物を絡めて食べる】

伏見、部室に入ってくる。

伏見 ただいま。
坂口 おかえり。
坂口 なにそれ。
伏見 サラスパ。
坂口 サラスパ?
伏見 サラダのスパ。
坂口 は?
伏見 嘘。サラダパスタ。
坂口 サラダパスタ。
伏見 そう。
坂口 サラダとパスタ?
伏見 ううん。パスタ・オン・サラダ。
坂口 それ、サラダとパスタじゃん。
伏見 ん? サラダ・イン・パスタ。
坂口 サラダとパスタじゃん。
伏見 サラダ・アンド・パスタ……?
坂口 ……おう。
伏見 パスタに、サラダを絡めて食べるの。ミートソースみたいに。
坂口 でも、サラダは固形物だろ?
伏見 小さいこと気にしてると一生童貞のままだよ。
坂口 傷を抉るな。
伏見 大丈夫。
坂口 何がだよ。
伏見 サラダパスタ、美味しいから。
坂口 ああそう。
伏見 食べる?
坂口 カツ丼食いたい。
伏見 ……君って、会話のキャッチボールができないよね。
坂口 その言葉、そのままお前に返すよ。
伏見 私は会話のドッチボールをしてるつもりだから。
坂口 もはや暴力だな。

伏見、サラダパスタをすする。
それを見つめる坂口。

伏見 何さ。
坂口 お前の愛の慣れ果てを見たよ。
伏見 ああおおお?
坂口 飲み込んでから喋ってくれ。
伏見 何のこと?
坂口 元彼。
伏見 へー。
坂口 結局、大学やめてなかったんだな。
伏見 あいつにそんな度胸、ないよ。
坂口 よくわかってんじゃん。
伏見 わかってないよ。わかってたらそもそも振られてない。その前に付き合ってない。
坂口  そうか。
伏見 そうよ。
坂口 大変なんだな、恋っていうのも。
伏見 えぇ。潔癖症の童貞くんにはわからないでしょうけど。
坂口 わかろうとも思わないけど。
伏見 いつか君も恋を知って大人になるんだ。
坂口 あぁそうかもな。
伏見 もしかしたら永遠に女の人に幻想を抱きすぎて一生童貞で終わるのかもしれないけれど。
坂口 お前、童貞に親でも殺されたのか?
伏見 初体験なら殺されたけど。
坂口 ……仮にもお前なあ。
伏見 女だろ、なんて。つまらないこと、言わないでよね。
坂口 ……

終わり。


【ギャップ萌え】

スプラッタ映画を見る東。
口元は、残虐なシーンになればなるほど緩んでいく。
そわそわと落ち着かない手足。
楽しそうである。

終わり。


【泥棒】

部屋で一人、坂口が物色している。
しばらくして、鍵の開く音。
坂口、焦って隠れる場所を探すが、隠れられそうな場所がない。
とりあえず、その辺に隠れる。
水野、帰って来る。

水野 ただい……
坂口 お、おかえりなさあい。
水野 いやーーーーーー! 泥棒! 変態!
坂口 違う! 違うんです!
水野 何が違うのよ思いっきり泥棒じゃない、どこからどう見ても泥棒じゃない、誰がどう言おうと泥棒じゃない!
坂口 いや、ちょっと、一回落ち着いて!
水野 落ち着けるわえないでしょ!?
坂口 うん、でもほら、落ち着いて。
水野 警察に連絡しますから!
坂口 待って!
水野 って言われて待つわけがないでしょ?
坂口 一回、一回、俺の顔見て見てください!

水野、一瞥する。
スマートフォンを取り出す。

坂口 待って待って待って、もう一回、もう一回見て。ちゃんと。一瞥じゃなくて、ちゃんと、じっくり、俺の顔、見て。

水野、見る。

坂口 何か、思うことは?
水野 泥棒。
坂口 いや、じゃなくて。
水野 じゃなくないでしょ。
坂口 俺の顔みて、思うこと、ありません?
水野 ……
坂口 そんな考えなくても。
水野 まじで、何にも思わないんですけど。
坂口 かっこいい、とか、思いません?
水野 は?
坂口 俺の顔、かっこいいと思いません?
水野 思いませんけど。
坂口 少しも?
水野 え……いや、まあ、少しは。
坂口 俺が、あなたのことを好きだと言ったら?
水野 え(ドン引き)
坂口 え?
水野 え、いや、ちょっと。
坂口 はい。
水野 あの、じゃあ。はい。

水野、部屋から出て電話をかける。

水野 もしもし、あの、泥棒が今家にいて、

と、その間に坂口、ニヤニヤしながら、窓から出て行く。
誰もいない部屋。

終わり。


【周りの方に配慮してお過ごしください】

瀬名と神谷、塾の自習室らしき場所で勉強をしている。
瀬名が、シャーペンの音、貧乏ゆすり、などで音を立てている。
神谷、だんだん我慢できなくなる。

神谷 あの。
瀬名 ……
神谷 あの。
瀬名 え、はい。
神谷 うるさいんですけど。
瀬名 え?
神谷 それ、うるさいんですけど。
瀬名 (首をかしげる)
神谷 それ。
瀬名 これ、ですか。
神谷 そう、それ。
瀬名 あぁ。
神谷 やめてもらっていいですか、それ。
瀬名 すみません。

しばらくして瀬名、さっきとは違うことをしてうるさくする。
しびれを切らした神谷。

神谷 あの。
瀬名 はい。
神谷 それも、やめてもらっていいですか?
瀬名 え?
神谷 だから、それ。
瀬名 これ、ですか。
神谷 そう、それ。
瀬名 でも、さっきはこれがだめだって。
神谷 うん、でも、それもだめなので。
瀬名 あれもこれもダメなんですね。
神谷 そうです。あれもこれもダメなんです。静かにしてください。
瀬名 はい。

しばらくして瀬名、またさっきとは違うことをしてうるさくする。
しびれを切らした神谷。

神谷 あの。
瀬名 またですか。
神谷 またですか、じゃなくて。
瀬名 これもだめなんですか。
神谷 それもだめです。
瀬名 静かにしてるじゃないでですか。
神谷 いや、全然。むしろとても、うるさい。
瀬名 これとかこれとかよりは静かでしょう。
神谷 そういう問題でなくて。
瀬名 じゃあ、どういう問題なんですか。
神谷 根本的に、音を出さないでください。
瀬名 しねってことですか?
神谷 そこまでは言ってないじゃないですか。
瀬名 でも、生きている限り音は出ます。
神谷 いや、だからそういうことでなくて。
瀬名 はい。
神谷 できるだけ、静かに。極力、音を立てないように、お願いできますか。
瀬名 ……善処します。

瀬名、再び違う方法で音を立てる。
神谷、呆れて部屋から出て行く。
瀬名、神谷が部屋から出て行くのをちらりと見て、音を立てるのをやめる。
静寂。

終わり。


【ヘドが出るほど甘くて重い空気】

寝ている東。入ってくる伏見。

伏見 泰士、朝。
東  ……
伏見 遅刻しますけど。
東  うん。
伏見 いいの?
東  だめです。
伏見 じゃあ、起きてください。
東  起こしてください。
伏見 いや、今起こしてるんじゃん。
東  そうじゃなくて。
伏見 しょうがないなあ。
東  お!?
伏見 はい、おきてー。
東  痛い! 痛いよ一花ちゃん!? 痛い痛い痛い!

伏見、東を引きずって部屋を出て、終わり。


【ヘドが出るほど気持ち悪くて重い空気】

五十嵐が載っているエレベーターに大倉が乗ってくる。
大倉、爪を噛み、何かブツブツと呟き、時たま笑い声を開ける。
ドアが開く。
五十嵐、走って出て行く。

終わり。


【幽霊をさがせ!】

東、部屋の端っこにいる。
神谷、帰って来る。
東には気づかない様子。
東、神谷の目の前まで歩いていく。
神谷、気づかない様子。
東、身近にあるものを床に落として見る。
神谷、気づかない様子。

東  あの、
神谷 はい。
東  気づいてますよね。俺がいること。
神谷 気づいてますよ、あなたがいること。
東  無視しないでもらっていいですか?
神谷 いや、無視したくもなるでしょ。
東  なんで。
神谷 なんでって、あなた幽霊でしょ?
東  はい、そうです。
神谷 幽霊がいるのに気づいて話しかける人なんています?
東  話しかけろとは言ってないんですけど。
神谷 じゃあどうしたらいいんですか。
東  もうちょっと、こう、反応。
神谷 反応。
東  そう、反応。
神谷 例えば?
東  例えば。あ、じゃあ、幽霊役やってもらっていいですか?
神谷 あ、はい。
東  俺、人間役やるんで。その辺、たっといて。
神谷 はい。
東  あ、もうちょっと、こう。
神谷 こう。
東  そう、幽霊らしく。
神谷 幽霊らしく。
東  うん。
東  じゃあ、俺、帰って来た人やるんで。
神谷 はい。

東、部屋に入って来たふり。
神谷を見つけて。

東  う、うわぁあああああああ! た、たすけてくれぇ!(とかなんとか)
東  こんな感じ。
神谷 いや、事態飲み込むの早すぎません?
東  家帰って来たらいきなり幽霊に出迎えられるんですよ? こうもなりません?
神谷 えぇー。
東  なりますって、絶対。ていうか、なってましたって、みんな。
神谷 俺、最初普通の人間かと思ったんですけど。
東  まじで?
神谷 まじで。不審者かと思いました。
東  えぇー。
神谷 でも、よくみたら、足、ないし。
東  はい。
神谷 なんか、めっちゃ主張して来るし。
東  はい。
神谷 めっちゃ主張して来るやんこの幽霊、うざって思ったし。
東  それ、単なる感想ですよね。
神谷 まあ、そうですね。
東  ひどくないですか? 俺、意外とガラスのハートなんですけど。
神谷 いやもう死んでるじゃないですか。
東  まあ、はい。
神谷 あの、一つ聞きたいんですけど。
東  はい。
神谷 そんな、いろんな人驚かして、なにが楽しいんですか?
東  え?
神谷 呪縛霊とかはね、仕方がないと思うんです。その場所にこう、とどまるしかないわけだから。
東  まあ。
神谷 なのに、なんでこう、わざわざいろんな人驚かすんだろうって。
東  え。
神谷 意味なくないですか?
東  ……

終わり。


【この部屋から出られない】

スマホを触る大倉と、台本を読んでいる五十嵐。

五十嵐 なあ。
大倉  うん?
五十嵐 これ、どうやって配役決めてるん?
大倉  えー、適当。
五十嵐 てきとうって。
大倉  うん適当。結構、適当。
五十嵐 てきとうでどうにかなるもんなん?
大倉  うーん。やってみて、合わんかったら変えればええし。
五十嵐 てきとうやなあ。
大倉  うん、適当。
五十嵐 じゃあ、変えて欲しいって言ったら変えてくっるん?
大倉  どこ?
五十嵐 あの、バイトの話のとこ。
大倉  伏見とのやつ?
五十嵐 そうそう。
大倉  なんで。嫌なん?
五十嵐 いや、じゃあないねんけどぉ。
大倉  じゃあええやん。
五十嵐 やりにくいっていうか。
大倉  うん。
五十嵐 なんか、ちゃうなあって。
大倉  何が。
五十嵐 うーん。なんかが?
大倉  そんな、明確な理由もないのに。
五十嵐 いや、あることには、あるねんけど……。大河は見ててなんも思わへんの?
大倉  うん、別に。
五十嵐 そっ……かあ。
大倉  ビミョーに、仲悪そうな。しかも椿が一方的に伏見に苦手意識持ってるんが目に見えて、おもろいなあって思うくらい。
五十嵐 わかってるやん。
大倉  まあ、わかるやろ。
五十嵐 じゃあなんでなん?
大倉  仲いいだけがいいことじゃないねんて。
五十嵐 どういうことよ。
大倉  なんで苦手なん。
五十嵐 えぇ。
大倉  なんで、伏見のこと苦手なん?
五十嵐 それは、こう。
大倉  うん。
五十嵐 ……悪口言っても怒らへん?
大倉  間違ってること言わん限りは。

間。

五十嵐 自分はあなたとは違うのよ、っていうオーラがぷんぷん漂ってるから。なんか、腹たつ。
大倉  なるほど。
五十嵐 うん。
大倉  だから、嫌い?
五十嵐 嫌いっていうか、苦手。あとはまあ、女の勘。みたいな感じ。
大倉  それ言われたらもうなんとも言われへんなあ。
五十嵐 ごめん。
大倉  いいんよ、別に。あれは、わざとあんまり仲良くないあんたらを二人きりにさせてるねんから。
五十嵐 え、そうなん?
大倉  そうそう。
五十嵐 なんや、性格悪。
大倉  だから、椿がやりにくいって言っても変えてなんて上げませーん。
五十嵐 めっちゃ腹たつねんけど、その言い方。
五十嵐 なんでわざと、そうなん?
大倉  自分で考えてみ。
五十嵐 ……
大倉  お前な。あのシーンいらんやん、このシーンこうじゃなくてええやん、ていう前にちゃんと考えや。
五十嵐 考えてるもん。
大倉  俺にはそう思われへんから言っただけやから。
五十嵐 考えてる、ねんけど、でも、その前に「何か嫌や」「何か気に食わん」っていう感情が率先して出てしまって、どうしようもなくなるねんもん。
大倉  じゃあ、その感情に従って「何か」の理由を突き止めてから口に出しや。
五十嵐 なんで、ばっか。
大倉  何が。
五十嵐 なんで、私ばっかそんなん言われるん。私だけが悪いん?
大倉  誰もそんなんいうてへんやろ。
五十嵐 言ってるようなもんやん。考えてるように見えへんって。じゃあ、神谷はどうなん?
大倉  なんで今神谷の話を出すねん。
五十嵐 そんなに物ちゃんと考えられる子がええんやったら、伏見と仲良くしてたらええやん。私なんかと別れて。
大倉  椿、話の筋ずれとるって。
五十嵐 そうやっていつも私の話の腰おるやん。
大倉  はじめに話の腰おったんお前やろ……。
五十嵐 だから、お前って呼ぶんやめてよ。
大倉  ほら、またずれてるやん。
五十嵐 だって、嫌やねんもん。一個気になり出したらもう、全部全部いやになってくるねんもん。ついさっきまで好きだったものまで、全部嫌になるねんもん。
大倉  あ、そう。

しばらくの間。
泣き出す五十嵐。

大倉  ……
五十嵐 ……ごめん。
大倉  ……ええよ、別に。
五十嵐 ……
大倉  あーもう、俺もごめんて。
五十嵐 今、めんどくさいって思ったやろ。
大倉  思ってないよ。
五十嵐 思ったって顔しとった。
大倉  どんな顔やねん、めんどくさいなあ。
五十嵐 ほら、めんどくさいって、
大倉  そうやって言われるんにめんどくさいって言っただけやろ、もう。
五十嵐 もう、何よ。
大倉  何もないよ。
五十嵐 思ってることあるんやったら言ってよ。
大倉  ちょっと、外でてくる。

部屋から出ようとする大倉。それを引き止める五十嵐。

五十嵐 ごめん、
大倉  いや、だからさあ。
五十嵐 私が悪いねん、全部。ごめん。ごめんなさい。だから行かんといて。伏見と仲良くしたらいいやんとか、全部嘘やねん。ごめん。ごめんなさい。
大倉  ……

終わり。


【うまく隠しているつもり】

部屋の中でくつろいでいる東と、部屋の外で電話をしている伏見。

伏見 ……うん。わかっとるよ。正月帰ったやん。……そうじゃないって。何? ……わかってる。感謝、しとるよ。でも、ごめん。やりたいねんもん。……しんどいけど。でも、好きやねん、この劇団が。……当たり前やん。私やったらどこの会社入ってもやってける。だから、ここにおるねん。……わからへん、よなあ。ごめんな。……いや、まあ、そやけど。……今がよければそれでいいねんもん。楽しいし、幸せやから。……うん。心配してくれてありがとう。また考えとく。

伏見、一息ついて、部屋に入る。
二人、たわいもない会話。

終わり。


【御話の途中】

ストレッチをする神谷、瀬名。

神谷 なあ。
瀬名 うん?
神谷 あの、風俗の面接のとこあるやん。
瀬名 あー、私は私のまま消費されたいやつ?
神谷 そうそう。
神谷 あれ、どんな気持ちでやってんの?
瀬名 えー。
瀬名 なんか、伏見を、物だと思ってる。
神谷 なんか。思った以上にどぎついな。
瀬名 本人には、口が裂けても言われへんわ。
神谷 言われへんなあ。

二人、少し笑って、終わり。


【教室】

音楽。

それぞれ友達と話している。
全員、仲良さげである。

少し時間が流れて。

それぞれ友達と話している。
仲の悪そうなグループ。

少し時間が流れて。

それぞれ友達と話している、が。グループ編成が少し変わっている。

少し時間が流れて。

それぞれ友達と話している。
部屋の隅で一人、ポツン、といる。

音楽止まって。

全員、自分の席について、終わり。


【SEKAINOOWARI】

部屋の中で呆然とする大倉と東。
セミの声。

大倉 あー。
東  おっぱい。
大倉 え?
東  え?
大倉 急に、なに。
東  死ぬのかなあって。
大倉 うん。
東  思ったら、俺、何で部屋で幼馴染の男と二人でこうやって寝そべって天井のシミの数数えてんだろうって思って、
大倉 うん。
東  悲しくなった。
大倉 それで、
東  おっぱい。
大倉 いや、なんで。
東  俺たちはこうして田舎の隔離された土地で、おっぱいの感触も知らないまま死んで行くのかあって思うと。悲しくて。
大倉 いや、知ってるじゃん。
東  おかんは無しな。
大倉 ……
東  な?
大倉 でも、事故で肘あたったことなら、あるし。
東  そういうのは、無し。
大倉 無しかあ。
東  無し。ちゃんと、合意のもと、そういう目的以外は、無し。
大倉 そういえば。
東  うん。
大倉 あの、バス停のところに今度喫茶店できるんだって。
東  へえ。
大倉 可愛い店員さんとかいるのかなあ。
東  いたらいいよなあ。
大倉 まあ、明日死ぬんだけど。
東  じゃあ、いうなよ。
大倉 なんか。
東  うん。
大倉 明日死ぬっていうのに、こういうことしか考えられないのが、寂しい。
東  寂しい。
大倉 他にもっと、気にかけることとか、考えることとか、ないの。
東  例えば?
大倉 今後の日本はどうなるのか。
東  明日世界の終わりなのに?
大倉 あー。
東  この街になぜカフェはないのか。
大倉 まず街ですらない、村だから。
東  なぜこの村の女の子は可愛くないのか。
大倉 村だから。
東  なぜこの村は人が少ないのか。
大倉 村だから。
東  なんで俺たちはこの村に生まれてきたのか。
大倉 その時母ちゃんと父ちゃんがこの村にいたから。
東  ……
大倉 ……
東  なんか。
大倉 うん。
東  本当に、明日世界終わる?
大倉 終わるって。
東  もしかしたら隕石の軌道が外れるかも。
大倉 いや、もう、空どえらい色なってるのに。
東  奇跡的に回避!
大倉 ないない。
東  寸止め!
大倉 ないない。
東  もっと希望をもって生きようよ。
大倉 無理無理。
東  つまんね。
大倉 ほんと、つまんね。
東  どうせなら、もっと都会で華やかな青春送りたかったなあ。
大倉 そうだなあ。
東  大学までいってたらまだ望みあったんだけど。
大倉 そうだなあ。
東  そもそも、大学、いけたんだろうか。
大倉 そうだなあ。
東  きいてる?
大倉 そうだなあ。
東  きいてないよね。
大倉 うん。
東  ……なんでそこだけ返事したの。
大倉 してみた、返事。
東  うん。
大倉 でもさ。俺が返事してもしなくても、泰士、勝手に喋るじゃん。
東  喋るね。
大倉 俺が言葉を発することで、お前に与える影響なんて、ほとんどないじゃん。
東  そうだなあ。
大倉 そう思うとさあ。
東  うん。
大倉 明日地中が滅亡しても、この膨大な宇宙に与える影響なんて、ちっぽけなもので、全然、なんてことないよ、みたいな顔して宇宙は存在し続けるんじゃん。
東  ……
大倉 虚しいじゃん。
大倉 俺たちにとってはこの村一つが全部だけどさ。地中全体、いや、日本全体、ていうか、市、全体で考えても、こんな村、世界のたった一区切りじゃん。
東  ……
大倉 そんなところで、俺たちは、隕石が地球にぶつかるっていう、地球規模では大きなことだけど、宇宙規模ではよくよくあるような理由で、大騒ぎしてさ。バカみたいだなあ、と、思って。
東  ……
大倉 うん。
東  とりあえずさ。
大倉 うん。
東  寝よう、明日のために。
大倉 なんで、
東  死ぬときに、痛い思いして死ななくていいように、もう、寝てちゃおう。
東  俺たちが寝てようが起きてようが、この、隕石の軌道に全然、影響なんてないんだから。
大倉 そうだな。
東  おやすみ。
大倉 おやすみ。

終わり。


【平和な日常】

部屋で一人、両手両足を手錠でえらいこっちゃになっている東が転がっている。
チャイムの鳴る音。

坂口 東さん? 東さーん。おるんやろ? 返事しいや。
東  ……
大倉 電気メーター回っとんの確認済みやねん。おい。聞いてんのか?
東  ……
坂口 ドア、開けるで。
東  え、ちょ、
坂口 おい、大倉。
大倉 あいよ!

大倉、ピッキングをする仕草。

大倉 ストーカーで身につけたピッキング能力、なめんなよぉ。
坂口 自慢することちゃうけどな。
大倉 開きました!
東  あ……どうも。
坂口・大倉 ……え?
東  いや、ね。出よう思ったんですよ。でも、これ、抜けんくて。
坂口 ……
東  そんな顔で見んといてくださいよ。ゴキブリ見るみたいな。
水野 東さん、そこいつも関西弁のイントネーションおかしないですか?
東  えー、まじで?
水野 まじで。
坂口 あ、今も標準語やった。
東  うわあああああ。
伏見 東さん、日頃から割と標準語ですよね。
大倉 あ、それ俺も思ってた。
神谷 まあ、普段やったらいいねんけどな。
瀬名 ここは、コテコテの関西弁じゃないとなぁ。
東  なんでみんな揃って俺をそんなボコボコにするん……
水野 あ、今綺麗な関西弁やった。
東  ほんま!?
水野 ほんま。
大倉 ま、多少やったらね、大丈夫やろ。
神谷 えー、でも結構気になるで? 変な関西弁喋ってたら。
瀬名 そやなあ。
大倉 妥協も必要やろ。
瀬名 まあ、そうやねんけどな。
大倉 うん。
瀬名 ま、演出が良いっていうなら良いんやろ。
伏見 なんて平和的解決。
水野 五十嵐椿がいない、ストレスフリー。
神谷 (頷いている)
大倉 やめや、そういうこと言うん。
神谷 大倉って、結構五十嵐のことかばうよな。
坂口 確かに。
大倉 え。
坂口 え。
瀬名 え。
神谷 え。
東  え。
伏見 ……
水野 え、もしかして、そう言うむごっ(坂口に口を抑えられる)。
坂口 しーっ。
水野 え、だめ?
坂口 だめ。
神谷 いや、お前のその行動が一番ダメ。
瀬名 あーあ。
東  せっかく皆言葉にはしなかったのに……
大倉 いや、勝手に話すすめんといてくれる?
東  うん、わかるから。気持ちは、わかるから。うん。
大倉 だから人の話聞けって。
坂口 先輩に向かってなんやその口の聞き方は!
大倉 急に理不尽!
瀬名 ま、まあな……人には人の好みがあるもんな……
神谷 俺には絶対無理。
瀬名 そんなこと言ったらあかん。
神谷 本音は?
瀬名 ……
神谷 ほらみぃ。
瀬名 それは意地悪やん!
水野 こらこら、人の恋で遊ばないの。
大倉 誰やねん。
伏見 はいはい、続きは稽古終わってからね。
一同 はあい。
大倉 じゃなくて! そう! 稽古! するで!
東  何してたんやっけ。
瀬名 不安なシーンの確認。
東  そうそれ。
坂口 東の関西弁が変で止まったんやで。
東  なるほど。だから俺、こんな格好やねんな。
神谷 そうじゃなくてその格好やったら単なるサイコパス劇団やで。
水野 なんなん、そのなんとか劇団って。
神谷 東がよく言っているやつ。
瀬名 肝心の東くんが言ってるの聞いたことないけどな。
神谷 まあ、ええねん。
東  そろそろ、手足が痛いから外すかなんかしていいですかね……
大倉 あ、ごめんごめん。
東  ありがとう(外してくれた人に)
坂口 いいん? 外して。
大倉 うん、入りのところ確認したかっただけやから。
坂口 そっか。
神谷 あとは、どこやっけ。
瀬名 退職方法と、デリへル。
伏見 五十嵐。
大倉 いや、俺知らんで。
水野 知らんかったらあかんやろ。
大倉 遅れるとしか聞いてへん。
坂口 他の現場?
大倉 らしいで。
神谷 ここんとこ、もう、毎回やん。
瀬名 ちょっと、うん。
坂口 流石になあ。
大倉 でも、俺が言ってもきかんし。
神谷 行っとく? 最年長。
東  そう言う問題?
水野 無理やろ、東さんには。
東  なんか、言われたら言われたで腹たつな。
水野 めんどくさ。
東  えぇ……
大倉 仕方がないから、違うシーンやっとくかあ。

【平和な日常?】

五十嵐、やって来る。

五十嵐 おはようございます。
一同  ……

五十嵐、機嫌悪そうに準備をする。

五十嵐 何?
東   いや、
神谷  何? てお前、おくれといてごめんの一つもないんかよ。
五十嵐 ああ、ごめん。
神谷  いや、ほんまええかげんにせえて。
大倉  まあまあ。
神谷  まあまあ、ちゃうし。てかお前が怒れよ。
坂口  まあまあ。
瀬名  とにかく、全員揃ったんやし、やろや、退職方法とデリヘル。
五十嵐 え、ちょっと待って。
神谷  なんやねん。
五十嵐 来て、急には、困る。
瀬名  はあ?
坂口  本心でてるぞ。
瀬名  あっ。
五十嵐 え、ちょっと待ってもらっていい?
大倉  なんで?
五十嵐 だから、色々あるやん。
大倉  色々てなんやねん。
東   お、頑張ってる、大河!
伏見  東さん、しー。
東   見守る劇団!
五十嵐 その間に他のシーンやっててくれたらええやん。
大倉  他のシーンはやって、あと残ってるのお前のとこだけやねん。
五十嵐 なに、お前のとこだけって言いかた。
大倉  そこ突っかかってくるとこちゃうやろ。ほんま、もう。
五十嵐 もう、何よ。
大倉  ええよ、もう。
五十嵐 だから、何がよ。
大倉  他のシーン、先にしとくから。そのあいだに準備するんやったらしたらええやわ。
水野  大河がそうやって甘やかすからあ。
大倉  甘やかしてへんよ。
伏見  どこやるん?
大倉  そやなあ。想い合いやろか。
水野  あいよー。
瀬名  はーい。
水野  はじめから?
大倉  うん。
瀬名  あ、りっちゃんここ、いつもどの道とおってる?
水野  ここー。
瀬名  おっけー、ありがと。
大倉  はい、準備はいいですか。
水野  ばっちし。
瀬名  おっけー。
大倉  はい、じゃあ。よーい、はい。
東   ぴんぽーん。

水野、出る。

水野  はい。
瀬名  あ、お届け物でーす。
水野  はあい。
瀬名  ここにサインもらえます?
水野  わかりましたー。

サインする手を止める水野。

瀬名  どうしました?
水野  あのお。
瀬名  はい。
水野  この、これ。
瀬名  はい?
水野  これ、「僕からの愛」ってなんですか?
五十嵐 あ、もう大丈夫。
一同  ……
瀬名  え?
神谷  いやいやいやいや。
東   ないわ……さすがに、ないわ。
五十嵐 何よ。
瀬名  え? だって今、俺たち、練習、ねえ?
水野  うん。
五十嵐 別に、中断せんで良かったやん。私は大丈夫になったっていう報告しただけやねんから。
坂口  いや、空気読もうぜぇ。
水野  ちょっと椿、最近自分勝手すぎん?
伏見  まあまあ。
水野  まあまあちゃうし、ていうか一花ちゃんが言わなあかん立場やん。
伏見  まあまあ。
五十嵐 自分勝手なんはみんなもやん。何よ。私だけ悪い、みたいな、そんな言いかた。
瀬名  誰もそんなこといってないやん。
五十嵐 言いたげな顔してるやん。
神谷  わかってるんやったらその言動やめえや。
東   まあまあ。
坂口  でも、神谷の言ってることはあってるやろ。
東   正しいだけが正義じゃないんやってば。
五十嵐 なんなん、皆んなして。
大倉  もう、ええて。
大倉  いや、まじで。ええて。こんなんしてる場合ちゃうやん。自分らが一番わかってるやん。ええ加減にしろや。
東   ……ごめん。
瀬名  ごめん。
水野  東くんと瀬名は悪くない、と思う。
五十嵐 何よ、それ。
伏見  あのぉ。
五十嵐 何?
伏見  そろそろ、茶番やめて、稽古せえへん?

間。

【御話は御仕舞い】

東   いや、今、このタイミングで、とめるん、かーい。
伏見  だって永遠に続きそうなんですもん。
神谷  ていうか、普通にもう時間やん。
坂口  いやー、楽しかった。
水野  臨場感満載のエチュードやったね。
五十嵐 どこの昼ドラの悪役やねん、私。
瀬名  ハマり役やったで?
神谷  それ、褒めてへんで。
瀬名  え。
坂口  しばきやな。
東   しっぺやなあ。
伏見  なんでしっぺなん……
水野  あ! ていうか、ずっずっずやねんけど、もっと気持ち悪くしてよ。全然気持ち悪くない。
坂口  急なだめだし。
東   どういう気持ち悪さ?
水野  もっと、こう、ぐちょぐちょな感じ。
神谷  いや、どんなやねん。

以下、役者たち、各々に話したいことを話しながら片付けを始める。
役者たち、楽しげにさって行く。
部屋には、一人取り残された大倉。
大倉の行動を、全員が監視するように、それぞれの体制で見ている。
大倉、視線に気がつき、あたりを見渡す。
全員、視線をそらす。
大倉、戸惑いながらも行動。
全員、大倉に視線を戻す。
どんどん息苦しく、狭くなる部屋。
それでも行動をやめない大倉。監視し続けるようにみるづけるほかの役者。
大倉一人しか入られないほどの部屋の小ささになる。
大倉、それでも動いている。
それを、監視員たちは見続けている。

【イン・ザ・ルーム】

暗転。



イン・ザ・ルーム

イン・ザ・ルーム

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-02-14

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著作権法内での利用のみを許可します。

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