綻びから、

あおい はる

 生物室で、ねむっている、せんせいの、左目に咲く、白い花の、花びらは、とても、ぽったりしている。肉厚、というのが正しいのか、触れると、重みを感じる。弾力がある。
 ねむれないひとが、日々、やすらかなねむりにつけるよう、祈る会、などという、あやしい集団に、せんせいは入っていて、そこには、購買部でパンを売っているしろくまも、いて、いかに睡眠薬に頼らずねむれるかを、研究し、祈っているらしい。ねむろうとおもえば、すぐにねむれる質のぼくには、無縁のものである。研究はともかく、祈る、という行為が、無条件に、その会のあやしさをかもしだしている、気がする。せんせいの、左目の白い花は、永遠に枯れない系の花で、学校は、三階の、音楽室あたりから、静かに綻びはじめているので、無期限休校になる日も、そう遠くはないという。祈る会には、そういえば、生物部のせんぱいや、となりのクラスのおなじ中学だったひとも、入っていて、男女比は、だいたい半々、とのこと。
 ぼくは、生物室の、長方形の、黒いテーブルの上で、ねむっているせんせいの、左目に咲いた白い花に、そっと触れる。花びらを撫でて、つまみ、厚みをたしかめる。ぽったりした、重さも。
 さいきん、年上の恋人が、できた。
 せんせいにおしえたら、そのひとはちゃんとねむれていますか、ときかれたので、だいじょうぶです、と答えておいた。ふだんは購買部でパンを売っているしろくまが、きまぐれにつくるフォンダンショコラが、けっこう好きで、ひとつ七百円するといったら、高いねと、恋人は笑ってた。

綻びから、

綻びから、

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-02-13

CC BY-NC-ND
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