炭酸ジュースの缶
ジュースの缶って、うまく開けられたためしがない。
のこりのゆびで缶を持って、ひだりのひとさしゆびをひっかけて、かしゅ、とかんたんに開けるきみがだからとてもすき。かっこいい。
月のうらがわってグロテスクだよ。断じたきみは真昼の月の自然な白がすきだという。満月はこわい。新月の夜は、暗くて、こわい。
ぼくは月のうらがわをみるために宇宙エレベーター募金をしたばっかりだったから、実現の際にはきみと炭酸ジュースの缶をもってエレベーターに乗りこみたいな。
夜の散歩にまちあわせはいらない。とくべつ気があうわけじゃないのに。きみの午前三時の夜の端のようなネイビーのひとみは、思考をうつさない。
きみの靴音がすき。二十四時間ずうっとあかるい自動販売機は、親しげ。でも十二メートル先の自動販売機の側面では、ぺんぎんとしろくまが泣いてる。
ぺんぎんもしろくまもすきなきみとぼくは、動物園がきらい。
かしゅ、買ったばかりでつめたい炭酸ジュースの缶を開ける。ぼくはひだりてに缶をもって、みぎてで。
きみはひだりてでかしゅっとやる。喉ぼとけの上下。
色白のぼくのゆびさきが、きみの喉ぼとけをなぞりたがって、ふるえた。
また、うまく開けられなかった。ごくり。
炭酸ジュースの缶