炭酸ジュースの缶

 ジュースの缶って、うまく開けられたためしがない。
 のこりのゆびで缶を持って、ひだりのひとさしゆびをひっかけて、かしゅ、とかんたんに開けるきみがだからとてもすき。かっこいい。
 月のうらがわってグロテスクだよ。断じたきみは真昼の月の自然な白がすきだという。満月はこわい。新月の夜は、暗くて、こわい。
 ぼくは月のうらがわをみるために宇宙エレベーター募金をしたばっかりだったから、実現の際にはきみと炭酸ジュースの缶をもってエレベーターに乗りこみたいな。
 夜の散歩にまちあわせはいらない。とくべつ気があうわけじゃないのに。きみの午前三時の夜の端のようなネイビーのひとみは、思考をうつさない。
 きみの靴音がすき。二十四時間ずうっとあかるい自動販売機は、親しげ。でも十二メートル先の自動販売機の側面では、ぺんぎんとしろくまが泣いてる。
 ぺんぎんもしろくまもすきなきみとぼくは、動物園がきらい。
 かしゅ、買ったばかりでつめたい炭酸ジュースの缶を開ける。ぼくはひだりてに缶をもって、みぎてで。
 きみはひだりてでかしゅっとやる。喉ぼとけの上下。
 色白のぼくのゆびさきが、きみの喉ぼとけをなぞりたがって、ふるえた。
 また、うまく開けられなかった。ごくり。

炭酸ジュースの缶

炭酸ジュースの缶

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-02-12

CC BY-NC-ND
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