暮れなずむ
俺は、何と戦っているのだろう────
焼け付くような日差しの下。
日本ではない国の地面をひたすら掘っている。
地雷を埋めるため────
ここには兵士だけがいるわけじゃない。
自国も敵国も、それ以外に普通の人達も暮らしている。
敵の戦隊が通りそうな所に地雷を設置する。
俺は、何と戦っているのだろう。
こんなことで国に置いてきた妻や5歳になる娘を守れているのか。
うだるような暑さと毎日の疲れの中で俺の頭は混乱を極めていた。
どれぐらい没頭していたのか。
ふと顔を上げると、地雷を仕掛けた辺りに
小さな女の子が入り込んでいた。
地雷が埋まっているなんて知る由もない。
このままではあの子の命が危ない。
ふと、その時、我が子の姿が重なった。
娘を、あの子を助けなければ!
勝手に体が動いていた。
「おいで、こっちにおいで、こわくないよ」
日本語が通じる訳はなかった。
でも…おずおずと小さな手が俺に向かって伸びている。
「そうだ、おいで、ゆっくり、いい子だ」
怖がらせないように、焦らせないように、
それとは裏腹に俺の鼓動は危険を知らせていた。
あと数十メートル。
そこで、小さな希望が…絶たれた。
俺が、殺した。
あの子を、我が子と変わらない歳の子を
俺達が埋めた地雷が吹き飛ばした。
俺は、こんなことをするために戦争に来たのか。
俺は、何と戦っているんだ。
俺が、戦うべきなのは、誰だ。
もう嫌だ…関係のない人の命を奪うのは。
どうせ、生きて家族の元には帰れない。
そう思ったら、自分の中で何かが壊れていった。
吹き飛ばされた小さな手を、そっと拾いながら、俺はあの子が歩いて来た道を歩き出した。
娘によく歌ってやった『夕焼け小焼け』を
歌いながら────
暮れなずむ