三題噺「神話」「平日」「コンテスト」(緑月物語―その13―)
緑月物語―その12―
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緑月物語―その14―
現在執筆中
――彼女は聞いていた。誰かが何かと戦う音を。
――彼女は感じていた。誰かが何かと戦う振動を。
――そして彼女は知っていた。それが誰で、何と戦っているのかを。
――けれど彼女は忘れていた。それが誰で、自分にとって何者かを。
彼女が目覚めた時、そこは暗闇の中だった。
「――――」
「――――?」
「――」
近くで誰かが話しているのが聞こえる。
内容までは聞き取れないが、どうやら三人いるようだ。
彼女は誰にも気付かれないよう息を殺した。
幸い気付かれた様子はなさそうだ。
少しの振動の後、自分がどこかに運ばれていくのを感じる。
彼女は寝起きの頭でまどろみながらも、周囲に気を配った。
そして、同時に自分が何に対して警戒しているのかふと疑問に思った。
(……あれ? 私は……誰?)
その問いに答える者はない。
彼女は断続的に続く揺れの中、どこかへと運ばれていくのだった。
「あー、やっと着いたー!」
見るも無残といった送迎車から、森本健司が出てきて体を伸ばす。
「はぁ、散々な目に合った……」
続いて降りる酒野修一もげんなりしている。
そして、最後に神樹友紀子が何事もなかったかのように車を降りる。
しかしながら送迎車の上半分は大破。出来そこないのオープンカーのような外見だ。
森本が整備出来たから何とかなったものの、最悪徒歩で数時間歩くことになっていたかもしれない。
酒野と神樹はそれに感謝こそすれ、調子に乗るだろうからと口には出さなかった。
「……とにかく行くぞ、荷物は後で良いからまずは報告だ。反省文の提出はその後だ」
「「うげぇ~~」」
「…………行くぞ?」
「「……はい」」
逃げ腰の男連中を目で黙らせ、神樹達三人は国立緑月調査部隊育成学校ヤマトの校舎の方へと姿を消した。
国立緑月調査部隊育成学校ヤマトは、緑月調査部隊隊員の育成機関である。しかし同時に、緑月の研究機関の一つでもある。
そのため広大な敷地内にある研究棟では、平日休日関係なく研究が行われている。
ちなみに学校で使われる『スパイダー』や『ペガサス』、『ドラゴンフライ』などもここで作られている。
隊員見習いによる実地データが取れるとのことで、思いのほか重宝されているとのこと。
なお、動物や神話の生き物などの名称は俗称で、研究員達が名付けたものが広まっていったらしい。
そんな研究棟群のうんちくを語りながら逃げようとする森本の、首根っこを掴んだまま神樹はどんどん進んでいた。
酒野はその様子を戦々恐々としながらも興味深げに見ていた。
「失礼します」
神樹達が教官室を訪れると、
「やあ、神樹君に森本君。それに修一君。久しぶりだね」
そこに立っていたのは――理事長の稲葉孝三郎だった。
「神樹君は半年前の事件以来、森本君は学内の技術コンテストの表彰式以来、修一君は入学試験の面接以来だねー。あ、お萩食べる?」
相も変わらず飄々としながらも、それぞれとの接点を説明する理事長。
三人ともその人柄を少しは知っているとはいえ、あっけに取られ言葉をなくしていた。
「――さて」
そんな空気が一変する。
「話を聞こうか。一体何があった?」
そこには弛んだ空気など一片も残らない、一人の教育責任者の顔があった。
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