わにちゃんはともだちじゃない

あおい はる

 血液、そういうの、ようは、からだをつくっているものを、せんせいは、たいせつにしていて、神経、臓器、骨、など、でも、生きているものならば、大体のひとは、みんな、そういうものじゃないのと思いながら、しらない街の道路を、ホテルの七階からみている。
 交通規制があって、家に、帰れなくなって、しかたないから、しらない街のホテルなんかに泊まったりして、わにちゃんと。わにちゃん、というのは、ぼくの、ともだちなのだけれど、わにちゃんは、
「あんたのともだちのカテゴリーになんて入りたくないのよ」
と言うので、表向きは、ともだちではない、ということになっている。じゃあ、一体なんなのか、と訊ねられると、答えられないのだけれど。太い指で、華奢なワイングラスを、かろやかに揺らして、わにちゃんは、あたしのことおそってもいいわよ、なんて微笑む。ぼくは、ざんねんながら、せんせいのことが好きなので、いま、いっしょに、ホテルに泊まっているのが、せんせいだったのならば、おそっていたかもしれない、と思いながら、えんりょしておくね、と返す。ふんっ、と鼻を鳴らして、ルームサービスのピザを、わにちゃんはたべる。ちいさいわね、とぼやきながら、どんどんたべる。交通規制の理由は、たぶん、ぼくらの住んでいる町が、町の、いちばんすみっこにある美術館あたりから、静かに、緩やかに、腐っているせいで、家も、そんなに高くないビルも、電車の線路も、道路も、関係なく、日に日に、腐蝕は進んでいる、せいで。そろそろ、わにちゃんのマンションも、あぶないらしかった。
「いっしょに腐りたくはないわね」
 さいきんはほとんど、ぼくの家にいる、わにちゃんは、おいしい料理と、お酒があれば、生きていけるひと(ひと?)だけれど、さすがに、賃貸ではあるが、じぶんの住処が腐ってしまうのは、こまる、という感じだった。しらない街を、七階からみおろしても、とくに、これといった感慨を抱くこともなく、ぼくは、備え付けの冷蔵庫に入っていた、冷えていないミネラルウォーターを、ちまちまと飲んでいた。
 せんせいは、大丈夫だろうか。
 博物館の地下に、せんせいは住んでいて、日夜、さまざまな研究をしている、らしいのだが、ぼくからすれば、せんせいは、好きなことを、好きなようにやっている、という印象で、いきものの生態を、とくべつ、熱心に調べている、せんせいに、いつか、実験体になってほしい、と言われたら、それは、もう、プロポーズとして、はい、と即答するつもりで、ぼくはいる。
「やめなさいよ、あんたのからだ、きれいなんだから」
と、わにちゃんは言うけれど。
 ピザだけでは物足りないのか、わにちゃんが、追加で、やきそばをたのんでいる。それから、フライドポテトも。ぼくは、今夜は、よく眠れないかもしれない、と思いながら、窓際のベッドで、なんの思い入れもない街の、ビルや、コンビニや、行き交う車や、歩いているひとなんかを、みている。

わにちゃんはともだちじゃない

わにちゃんはともだちじゃない

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-02-09

CC BY-NC-ND
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