スマホから変えただけなのに

スマホから変えただけなのに

 SNSを眺めていたら、ある呟きが目に入った。
「スマホは本当、便利でいいよねえ」
 何だか凹んでしまった、過去を思い出して。
 その時自分はノートパソコンから閲覧していた。
昔はスマホから見ることも多かった。
 
 その時と書いたが、現状僕が閲覧する際は常にノーパソ経由。
 僕が所有している携帯型電話はいわゆるガラケー。
それも月額定額制ではない、最もお安いプラン。
 帰郷後、在京時から使ってきた旧型のスマホ、
厚みや丸みがあるタイプ、その愛機の調子が悪くなった。
 相当使い込んで液晶にもガタが来ていたため修理は諦め、買い替えることにした。
 
 当時の僕は数カ月ハローワークに通いつめ、やっと就けた正社員の職を、
人間関係の悩みにより生じた過大なストレスが原因で、辞めた直後だった。
 勤めて1年もたっていないため、退職金など出るはずもない。
 次の職を探している最中だったことや、
多機能に飽きてしまっていたというか、原点回帰したかったのかもしれない。
 前述した金銭面での負担軽減も加味し、
スマホを手にする以前、長年馴染み親しんできた携帯電話を所望した。

 在京時、機種変更に伴い始めてスマホを手にしたときは、
そのハイテクぶりに自らもが最先端の波に乗ったかのようで、
すこぶる機嫌が良くなったことを覚えている。

 会社へ通う電車の中で音楽を聴く機会も増えたし、
仕事の休憩時間にYouTubeで動画を観る楽しみを覚え、
LINEを利用することでそれまで以上に、
友人知人との繋がりの深さを感じることができた。
 今思い返すとLINEは僕の方が送る場合がほとんど、
相手からの返信を待っていた。
 寂しかったんだろうな、きっと。
 
 一人暮らしという生活状況もあったし、
一期一会と言えば綺麗な言葉になってしまうけれど、書
店での仕事はお客様との出会いと別れがあまりに早すぎて、
社会と接している感じは十分感じられていたけれど、
反面接客が流れ作業のように思えてしまうことも少なくなかったから、
密で深い触れ合いをプライベートで求めていたんだろうと思う。
 スクロールするのにだいぶ手間がかかる量の長文を打ち、
内容に合わせたスタンプを添付し、レスポンスを待った。
コールを繰り返していた。

 東京を離れ故郷に戻ってからも、縁が切れることを恐れ、
こちら側から頻繁に連絡を送っていた。
 そんな具合だから相手に迷惑がられ、
自然に連絡が途絶えることも少なくなかった。
 仕事がらみの付き合い、親しくしていた出版社の営業さんが多かったため、
書店員ではなくなった自分は、距離が近かった頃とはまた別の存在として、
相手から認識されたのかもしれない。
 考えすぎかもしれないけれど、きっと考えすぎなのだろうけれど。
 
 スマホからガラケーに変えるときも、LINE機能付きの機種にこだわった。
 車での移動が主となったため音楽を聴く機会は少なくなり、
動画を観るのはより画面が大きく鮮明なノーパソ主体だったため、
スマホ経由で携帯に求める必須の機能はLINEだけで充分だった。

 そんな寂しがり屋の自分に欠かせない機能が、
買い替えてから2度目のバージョンアップをもって、
所持する機種での使用が不可能となってしまった。
 首都から垂らされる蜘蛛の糸が切れたような、
生命線を絶たれた気分、絶望感は大きかった。
 代わりにSNSでのやり取りを希望したところ、
LINEのことを『連絡網』と称されたことに腹を立て、
持病といえる癇癪を起こした結果、絶縁されたケースもある。
 折に触れ思い出し、己の愚かさ加減に呆れる。
取り返しのつかないことをしてしまった、その過ちの大きさを後悔する。

 スマホ、今の自分とは縁の薄い存在。
次に機種変する際もおそらく携帯になる。
 ガラパゴス。本来の意味合いとは異なるが、
この僕には相応しい例えだ、ハハハ。

スマホから変えただけなのに

スマホから変えただけなのに

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-02-09

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