創作童話  わた雲のママ

苑田  圭 

やっと着いたゴロゴロ山のてっぺんは、爽やかに吹く風がリエの汗を乾かしてくれました。
「リエ、夏休みの宿題はできたのか?」
パパが聞きました。
「あと、何かの絵を書かなくちゃいけないの」
夏休みの思い出を絵にしてきなさいという宿題が残っていたリエにとっては、なにを書くのか悩んでいました。小学校三年生のリエは、そんな想いでパパとこのゴロゴロ山にハイキングに来ていました。ママは去年の夏、病気で亡くなって今はパパと二人っきりの生活でした。
「それじゃ、きょう見たことを書いたらいいじゃないか?」
「でも,何を書いていいのか、わかんないもん」
そう言いながらリエは空を見上げました。そこには綿のような入道雲が、青い空いっぱいに広がっていました。
「パパ!パパ見てみて、ほらママがいるよ」
「ママが?」
「ほら、あそこの綿みたいな雲、ママの顔にそっくり」
リエが指差す空に、モクモクと広がった入道雲が、まるでお母さんの面影のような姿を描いていました。
「あぁほんとだな。きっと、リエの事を見守ってくれているんだろう」
「ねっ、ね、ね、あそこには犬、ほら、あっちのはクジラみたい」
リエは,照りつける太陽の暑さも忘れ、夢中で空に広がるわた雲の切り絵を探しました。
「そうだ、リエ、入道雲の切り絵を宿題の絵にしたらいいんじゃないか。ほら、このカメラでリエが想った雲の写真を撮ってリエが感じたイメージの絵を描いたらいいさ」
「うん、そうする」
リエは自分がおもったイメージの雲の形を何枚も撮りました。
朝早くからパパの作ってくれたおにぎりを食べ、リエが想った形の雲の写真を撮り終わったのは、もう、午後の三時を過ぎていました。
「リエ、もういいか?そろそろ帰ろうか」
「うん、いっぱい撮ったね。うまく撮れているかな」
「大丈夫だろう。じゃあ、帰ろうか」
二人はかたづけをして山を後にしました。家に帰ったのは、もう六時過ぎでした。
「パパ、早くパソコンで写真だして!」
帰ったリエは撮った写真を早くみたいとパパにたのみました。
「よし、じゃあリエの撮った写真をプリントしてみるか」
「早く。はやく!」
ガチャン、ガチャン。パパがスイッチを入れたパソコンはカメラからの絵を写真にするために懸命に動きだしました。一枚また一枚とリエが撮った雲の写真が出てきました。
「うわーママだ、ママだ。ねえパパ。あっ犬、これは魚?だったかな」
リエは自分が撮った写真が、山で見たあの時と同じように写っている事に大はしゃぎです。
「どうだ、ちゃんと写っているか」
「うん、山で見たとおりの雲がちゃんと写って
いるよ。ほらママも…ね」
パパはリエがもっとも、気に入っているママの姿をしたわた雲の写真を手にしました。
「リエはママがいないから寂しいか?」
「うん……でもパパがいるから寂しくなんかないもん。でも……ちょっと寂しいかなぁ」
パパはリエの顔をのぞきこんでいいました。
「じゃあ、リエは新しいママが来てほしいか?」
「いらない。パパがいるし、リエ、ママの写真とこのわた雲のママの切り絵をいっしょに宝物にするから」
パパは思わずリエを抱きしめました。
「痛いよパパ。でもリエ、パパ大好きだからパパがいればいいよ」
「パパだってリエが大好きだし、パパの一番の宝物だからな」
「うん」
「リエ、さあ宿題の絵を仕上げなくちゃ」
「わかった」
リエには、いつまでもママがパパとリエの心にいることを幸せに思った日でした。
                                       完

創作童話  わた雲のママ

創作童話  わた雲のママ

ママの思い出はパパと登ったゴロゴロ山で見た、わた雲にいたママでした。

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