ありがとう、先生
注意事項
①米印の箇所は読まないでください。
②カッコ内は読んでください。
③このお話は、男性2人と女性3人の計5人声劇です。
ありがとう、先生
〔登場人物〕
男性:駿太(しゅんた)、大輔(だいすけ)、
女性:栄子(えいこ)、沙貴(さき)、彩香(あやか)
駿太「今から話すのは、俺が、幼稚園に通っていた頃のお話さ。その幼稚園に、俺が、結構気になっていた先生がいてね。今頃、どうしているのかなぁ?なんて思うわけさ。」
彩香「ねぇ、貴方。なんでそんなことを話そうと思ったの?」
駿太「それは、ここ最近、大きく話題となったニュースを見たらわかるさ。確か、君は保育園の出身だったね。それなら、今回のニュースは、よくわかるでしょ?生憎(あいにく)、自分は幼稚園の出身だから、保育園のことが、よくわからないんだ。まぁ、そのあたりは追々(おいおい)話を聞かせてくれ。」
彩香「わかったわ。また、今度、その話をするわ。」
駿太「ありがとう。
そんじゃ、始めよう。俺が気にしていた先生、栄子(えいこ)先生のことを。」
彩香「栄子先生って、確か、貴方のアルバム写真の中にいた、紫色の服を着たっていう、女の先生のことかしら?」
駿太「そう、それ。彼女は、良い意味では、セクシー。言葉を変えると、大人の色気があったんだ。悪い意味では、おばさんな先生だった(笑)。…て、そんなこと口にしても、当時の年齢じゃ、そんな考えなんて全く浮かばなかったね。良いもんだよ、幼いころの自由さは。」
彩香「そうよねぇ~。当時の無邪気さは、それこそが、当時の青春のようなもので、かけがえのないもの。
あの頃の無邪気さ、また欲しいわ。」
(※栄子は、駿太が年少の頃の担任だった。)
駿太「せ~んせ!
(先生、今日も今日とて、濃い紫色の服を着ているなぁ。しかも、女性の、大人が描かれている。ちょっとだけビックリしているのは、秘密♪)」
栄子「ん?どうかしたの?しゅんたくん。」
駿太「せんせ。今日は、何か出し物やるの?他の先生は、何か、マジックや踊りをやるって言ってた。」
栄子「さぁ?どうかな?」
駿太「おしえて~、せんせ~。」
(※ねだる駿太)
栄子「だ~め。始まってからの、お・た・の・し・み♡ ね?」
駿太「は~い。」
(※若干、ご機嫌斜めな駿太。)
(※この日は、クリスマスのお遊戯会〈おゆうぎかい〉。先生たちが、必死になって練習したパフォーマンスを披露する日なのだ。)
大輔「楽しみだなぁ♪どんな演技をするのか、楽しみだ!」
駿太「だ、だいちゃん…。」
(※だいちゃんとは、大輔のこと。)
大輔「ん?なになに?しゅんちゃん。」
(※しゅんちゃんとは、駿太のこと。)
駿太「恥ずかしくなったら、後ろ、隠れていい?」
大輔「しゅんちゃんは、人見知りなんだから!(笑)
いいよ!いざとなったら隠れんぼだ!」
駿太「ありがとう!いぇい!」
大輔「いぇい!」
(※駿太と大輔で、ハイファイブ。)
(※始まりの言葉があり、演技が始まる。)
沙貴「みんな!私の持っている、このハンカチを見ててね。可愛い可愛い、この、お花のハンカチが…、じゃん!
本物のお花になりました!拍手~!」
大輔「おい、見ろよ!沙貴先生が、マジックをしているぜ?かっこいい…。」
駿太「お、おう…。見てるよ…。
(す、すげぇ…。)」
沙貴「次のマジックをする前に、1人、お手伝いをお願いしてほしいな。
誰か、お手伝い、してくれる子~?」
(※次々と、園児が、「は~い!」と、手を挙げる。)
大輔「はい!はい!僕に!僕にやらせて!」
駿太「(僕はいい、僕はいいから…。お願いだから、あてないで…。)」
沙貴「それじゃあ…、そこの、赤いレーシングカーのワッペンの子!」
大輔「お!俺だ!やったぜ!!は~い!!」
沙貴「それじゃあ、キミ。名前を教えてください♪」
大輔「はい!高倉大輔(たかくらだいすけ)です!」
沙貴「だいすけくんね。よろしく♡
早速だけど、この、金色のコインを、手に持っていてね。」
大輔「はい。」
沙貴「そして、そのコインを、ギュっと、握りしめてね。」
大輔「ギュッ!」
沙貴「そして、この、緑色のコップを見ていてね。タネも仕掛けもない、このコップ。これを、台の上に置くよ。
…それでね、だいすけくん。さっき握っていた手を、開けてみて?」
大輔「うん。」
(※恐る恐る手を開ける。)
大輔「あ!コインがない!どこなの?おーい!コイン~!」
沙貴「じゃあ、だいすけくん。さっきのコップ、上げてみて?」
大輔「うん。」
(※コップの中には、あの時のコインが)
大輔「コインだ!やったぁ!!」
沙貴「マジック、大成功!!」
大輔「わぁ~い!」
(※拍手と歓声が沸く。)
沙貴「だいすけくん♡お手伝い、ありがとう♡」
大輔「どういたしまして♪」
沙貴「はい!お礼の、クリスマスプレゼント!中身は、家で開けてね?」
大輔「はい!」
(※「いいなぁ~ (´・ω・`)」という、羨ましい声が上がる。)
大輔「やりぃ!」
駿太「お疲れ様。中身、何なんだろうね?」
大輔「後で、じっくり楽しむもん♪
今日は、お迎えに来てもらうし♪その中ででも、やっちゃお♪」
駿太「実は、僕も、今日はお迎えに来てもらうんだ♪こういう時は、パパに、お菓子やパン、ジュースを帰る途中で買ってもらえるんだ♪」
大輔「いいよなぁ~。 (´・ω・`)」
駿太「いいでしょ~♪ (´▽`*)」
(※そして、お遊戯会は進み、クライマックスの劇に。演目は、『猿蟹合戦〈さるかにがっせん〉』)
駿太「もう、お遊戯会も終わりかぁ。劇だけになちゃった。」
大輔「別にいいじゃん。終わったら給食だし。
しかも、今回は、豚汁(とんじる)が出るんだよね♪」
駿太「あ!確か、ケーキも出るよね?」
大輔「出るとも出るとも!」
駿太「早く終わらないかなぁ?(笑)」
(※劇の幕が上がる。)
駿太「おぉ!始まった始まった!
(おなかすいたぁ~。)」
大輔「『猿蟹合戦』」って、どんな話だっけ?」
沙貴「猿が甘い柿を食べて、苦い柿を蟹に投げつけてられてしまうんだけど、それの仕返しを、仲間がする、っていうお話よ。」
大輔「うん、そうそう…。
…って、えぇ?!先生?!」
沙貴「しー。」
(※先生の、シーの指が、大輔の唇の前に。)
駿太「www」
大輔「おい、しゅんたァ~!」
沙貴「劇、始まっているわよ。」
(※猿が蟹に、渋柿を投げつけるシーンに。その時の、蟹の役の人に、見覚えがあるようで…。)
駿太「だいちゃん。そして、先生。
あの、紫色の服の先生って…。」
沙貴「そうよ。栄子先生よ。」
駿太「だいちゃん。ちょっと退避。」
大輔「おけ。」
沙貴「しゅんたくんは、恥ずかしがり屋なのかな?」
大輔「そうみたい。」
駿太「ボクは何も見ていない、ボクは何も見ていない…。」
(※現実逃避)
(※劇が終わり、お遊戯会が終了。)
駿太「やったぁ!お昼だぁ~!」
大輔「さっきのプレゼントは、さきせんせいに預けてあるから、あとで、栄子先生にたぁ~のも、っと♪」
栄子「みんな、お待たせ。」
駿太「(せんせい、あの時のままだ…。あの服、似合っているかも。)」
(※そこから時は過ぎ、駿太達は年長へ。栄子先生は、他の幼稚園へと異動となった。)
駿太「それでさ、また、顔が見たいなぁ、なんて思ってたんだけど。
…今、彼女がどこにいるのかが分からなくてねぇ。」
彩香「へぇ~。そうだったんだ。
そういう私も、その時は、イケメンな先生が保育園にいてね。外を皆で散歩をする時は、ボディーガードとして、私を護って(まもって)くれているような気がしてね。憧れていたなぁ、あの人に。」
大輔「あ!駿太じゃん!お久(ひさ)!」
駿太「ん?誰?
…あ!思い出した!大輔!」
大輔「おう!俺だ。」
沙貴「ど、どうも…。」
大輔「沙貴。怯えなくていい。あの時の、駿太ってやつだ。
お前、今、何してんの?」
駿太「就職活動を終えて、卒業論文を制作中。あと、一ヶ月もあれば、完成するさ。」
沙貴「もしかして、駿太さん。
あの、人見知りだった彼、なのですか?」
駿太「えぇ。間違いありません。お久しぶりでございます。
現在、野倉大学(のくらだいがく)の4年生で、言語学を専攻しています。ゼミは、ツーリズム関係のところに所属しています。」
沙貴「凄い…。私たちの幼稚園を巣立った駿太君が、こんなにも真面目で大人になっていただなんて…。」
駿太「なぁ、大輔?お前に、1つ質問だ。」
大輔「ん?何?」
駿太「栄子先生がどこにいるか、わかるか?」
大輔「…それ、俺に聞く事か?
聞くなら、俺の妻(つま)にしてくれ。少なくとも、俺には、わからん。」
彩香「沙貴さん、初めまして。私、彩香(あやか)と申します。」
沙貴「彩香さん、初めまして。」
彩香「私から、貴女へ、同じ質問をしますね。
栄子さんという方は、現在は、どちらの方にいらっしゃるのでしょうか?」
沙貴「…。」
彩香「沙貴、さん…?」
沙貴「…実は、つい、3ヶ月ほど前に亡くなったの…。」
彩香「え?」
駿太「…。」
大輔「…駿太、スマン。
…実は俺、そのこと、知っていたんだわ。3カ月前に、乳ガンで亡くなったってこと。沙貴から聞いて、お前に連絡しようかと思ったんだけど、お前が泣くことを想像すると、どうも切り出しにくかったそうなんだ。」
(※駿太が、手にしていたお茶のペットボトルを地面にたたきつけ、踏みつぶす。その時、飲みかけの中身が飛び出る。)
彩香「あなた…。」
駿太「…彩香。驚かせてすまない…。」
彩香「大丈夫です。
…実は、あのニュースの先生、私の学校の先輩なのです。」
駿太「嘘でしょ?!」
沙貴「え?!」
大輔「マジか…。」
彩香「どこかで見覚えのある名前だなぁ。
…なんて思っていたら、まさか…。」
(※駿太が、すぐに彩香を抱き、介抱する。)
駿太「今、俺たちに出来ることは、亡くなった方々を弔い(とむらい)、事故の方は、事故の加害者を潰すだけだ。
亡くなった後輩さんの敵(かたき)、俺たちでとる!」
彩香「うん!」
大輔「俺も、加勢(かせい)しよう。」
沙貴「私に、任せてください!」
駿太「さぁ、みんなで戦おう!」
駿太・大輔・彩香・沙貴『おー!』
ありがとう、先生