ひとりの夏祭り

マグネシアの(あか)りがわたしのこころに()みついて、春・秋・冬を鏖殺(おうさつ)しました。孤独という名の飴を舌癌(ぜつがん)になるほど舐め続けていました。孤独は水分を肥やしにわたしに気付かれないように拡がっていき、(つる)のように全身を雁字搦(がんじがら)めに()っていきました。わたしはあの日から夏の魔物に取り憑かれてしまったようです。拝啓、金沢のあなたへ。お元気ですか。わたしは少しばかり、世界を病ませてしまいました。あなたと過ごした時間だけが、本当の夏だと思っていました。否定を重ねれば重なるほど、画は甘言を放ってきますね。忘却は愛に含まれますか?あなたの顔と声、そしてことばを(つる)から彷彿とさせられては金縛りのように感傷が全身を蝕みます。病名はあなたです。あなたとの夏を嘗試(しょうし)してしまったがために、あなたのいない夏がすべて紛い物にしか見えなくなりました。四季から夏が死にました。わたしの140字、(おぼ)えていますか?心の温度を測るサーモグラフィーがあるとしたら、すぐにわたしの網膜(もうまく)搭載(とうさい)して(さが)しにいきます。あなたと、あなたとの夏を。逢いにいきます。忘却は愛に含まれますか?いま必死に夏に、心肺蘇生を施しています。マグネシアの(あか)りがわたしのこころに()みついて、春・秋・冬を鏖殺(おうさつ)しました。

ひとりの夏祭り

ひとりの夏祭り

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-02-01

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