支配者のパレット
突然ですが、人はそれぞれ何かの色に染まっちゃってるっ?、それとも何者かに染められてるっ?
この世界はいわば神のような《支配者》が、手にした絵筆で人を操ってるだけなのかもっ?!
気付けばそんなことばかり考えちゃってる女子高生《雫》と、その幼馴染み《叶汰》の、ある雨の日の出来事。
ー1色ー
地下に閉じ込められていた人混みが、一斉に解放された。
安らぎを求めるふりをして、人の弱みにつけこみながら、私の前を歩いてる。
見えない支配者に、私も絵の具を混ぜられた1人?
―――でも、黒く染まるのだけはヤダな。
そんな思いで、改札を抜けた。
―――いつの間に降りだしたんだろ?
茜色に佇む街並みを、期待してたのに……
ありきたりなオブジェ達が、人工物の足元に増殖していく。
ー2色ー
「雫、傘ないのかよ?」
突如訪れたリアルリンク、幼馴染み.com.
おんなじ電車だったんだ、おんなじ、か……
『急に出てこないでよ叶汰、てか名前で呼ぶのやめて、同級生いたら勘違いされちゃう』
「……ていうかさ、今お前も普通に呼んでただろ、普通に」
物心ついた頃からなんとなく思ってた。何故かいつも一緒、しかもクラスまでいっつもおんなじ、それがまさか高校に入っても続くとは……その偶然の数々、それって“奇跡”ってやつですよね?、できれば将来の宝くじの方に取っておいてもらえませんか?
今までのどれもこれも、その全てが支配者の遊び心?、によるものなのかな?……そうやってこれから先も、私はそこで踊り続けるしかないの?
支配者のパペット?、それともペット?
ー3色ー
「ガキんちょの頃からだから、ここまでくるともう口癖だもんな、でも普段は気をつけてるんだから、今回だけは許してくれよ」
本当に一度も、学校とかで呼ばれたことはなかった。目には見えないそれに気づけた時、私は何故か、その時だけ心を緋色に染めていた。
どうしてそれに気づけたのかは、それは私も同じだったから……その細やかな気配りを、私も心の片隅に持っていて、自分のだったら、いつでも見ることができたから……
ー4色ー
―――あれ?、なんで私、傘持ってるんだろ?……
数多に散りばめられた透明色の群れたちが、重力に引き寄せられているその中へと、叶汰は消えていく。
―――え?、ウソ?!、ちょっと待って!!
気持ちとは裏腹に、折角の傘をバトンがわりに、気づいたら走り出してた。
にしても全然追いつけない。気持ちだけは充分加速してるのに、ちっさい頃から足速かったもんなぁ叶汰、さっすがサッカー部期待のゴールデンルーキー、って、今はそんなこと呑気に言ってる場合じゃないよっ!!
私は支配者に選択を迫られた。2色ある内のいずれか1つを……
―――そんなの勿論、“赤”に決まってんじゃんっ!!
支配者の遊び心は、私の選択を珍しくも歓迎してくれた。
ー5色ー
『ハァハァ……はぁ~やっと追いついたぁ。信号なかったら、永遠に無理だったよ』
どうやら私は、バトンを渡せたらしい。
「ちょっとマジかよ、てかなんで傘さしてねぇの?、こんなどしゃ降りん中じゃ、混ざって消えちゃうかもしんねぇだろ?、雫なんだからさ」
叶汰は、そんな表現をたまにする。それはいつの間にか、私にも伝染してた。
どちらかといえば、群青色に……
て、ちょっとひねくれてるのかな、私……
ー6色ー
『叶汰だって、もうすぐ大事な予選でしょ?、もし風邪でも引かれて試合に出れなくなっちゃったら、その責任、こんなちっさくてかよわい私には、とてもじゃないけど背負いきれないんだからね』
―――雨が止んだ?
違った。にしてもおっきな傘、しかもなんて明るい色、男が持つ色じゃないでしょ。
とは思いつつ、私はその支配下の元に現在、それは見事に収まってる。
そのせいで、叶汰のおよそ3分の2が、未だに大雨警報発令中。
そういうとこも昔から変わらない。目には見えないけれど、きっとあの頃からおんなじ色してるはずの優しさ。
ー7色ー
「自分で“かよわい”なんて言うか普通、ちなみに俺はこんくらいの雨じゃ風邪なんかひかねぇっつぅの、これまで練習とか試合とかで、どれだけの雨に打たれてきたと思ってんだよ」
『滝行やってみた。とでも言いたいのその感じ、じゃぁもし体調崩しちゃったとしても、私は一切責任を負いません』
「なんかの注意書きみたいだな、まぁいいよそれで、なんなら念のためサインでもしとこうか?、その方がより安心できるだろ。それに将来、そのサインにすっげぇ価値がつくかもしれないしな、ンハハッ、そんなことよりさっきの予選なんだけど、勿論来てくれるよな?」
ー8色ー
これも幼馴染みの兼ね合いか、元々親同士が仲が良くて、それにくっついてたら、いつの間にか私だけになっていた。
結局、それも幼い頃からずっとそうだったから、今となってはもう癖みたいになっちゃってる。
―――にしても、何が可笑しかったんだろさっきの、笑いのツボだけは、幼い頃からおんなじとこ1個も見つかんない。
「にしても雫の作るサンドウィッチほんと美味いよな、試合ん時あれ食うと、更に力がみなぎるっつぅか」
こういうことを、なんの飾り気もなしに平気で言うからコイツ、でも、だからさっきの癖なんかもなかなかやめられないのかな。
―――ま、いっか、癖なんだし。
―――“にしても”も、何故だか被ってるし。
ー9色ー
『そうまで言うなら応援行ったげるよ、てかどうせ暇だし』
―――なんて言ってたら、もう叶汰ん家の前だし。
「傘、持ってけよ」
『いいよもう、すぐそこだし』
「なんでそんなわざわざ濡れようとしてんだよ?、それも雫ゆえにか、それとも1日に1回は自分とウェットな何かを絡めなきゃいけない指令でも最近受けたのか?」
『どんな秘密結社に属してんのよ、そんなのに支配されてたら私、とてもじゃないけど生きてけない、もう叶汰しつこいから、傘借りてく』
ー10色ー
何故かもう1回バトンの順番が回ってきたけれど、その割には全然バトンを渡してくれない。
―――自分で言ったクセに、一体何のつもり?
バトンの真ん中、とりあえずクイクイ引っ張ってはみたけれど、放す気配すら感じられない、てか、そんな遊び心一切望んでないから。
もう、なんだかちょっと強めにバトンを引き寄せてみた……そしたらもれなく、叶汰までくっついてた。
―――これって、キス、してるよね。
なんで?、ってか蜜の味っていうより、水の味?、濁点の分、微かに濁ってる……それに“仮名”違いの分まで、もれなくくっついてきてるような……
―――でも、初めてにしては悪くない、のかな。
ってかちょっと待って、これも支配者による遊び心の仕業?、なの?!
ー11色ー
「傘、返さなくていいから……」
『近所だし、しょっちゅう会うし、普通に返すけど、てかなんで純朴少年みたいな空気出してんの、さっきまであんなエロかったクセに』
「そんなことないだろ、普通だったろ、ごく普通」
『なんのこと言ってんの?、信号渡ってからずっと思ってたけど、制服濡れてるからって透けてる下着、何度も見過ぎでしょ?』
「……なんだよそれ、そりゃそんな派手な色のブラ着けてたら見ちゃうっつぅの、それが男ってもんだろ」
ー12色ー
誇らしげに言ってるけど、それ、開き直ってるだけだから。
―――派手な色?
今日どんなブラしてたっけ?、あ、これか、にしてもよりにもよってこんな日に……違うの選んどけばよかった。
これも支配者が私のこと弄んで、“選ばされてるだけ”、なのかな?
それに雨に濡れたのも、遊び心の色まで塗られちゃったのも、結局は……でも、この遊び心って、一体何色ほどの色を保有してるんだろ?、12色程度じゃ全然足んないだろうな……あれ?、それでなのかな?、なんだかさっきから何回やってもきれいに閉まらないんだけど、私ん中の絵の具の蓋……。
《……了?》
支配者のパレット
エンディングBGMには、青 (feat. 春茶)?!
ここで再び突然ですが、私、『同居人はひざ、時々、頭のうえ。』って漫画が大好きで、アニメも最高で、なのでよかったら皆様も読んだり観たりしてみてね。
それとこれは余談ですが、seven oopsさんの「オレンジ」って楽曲、なんだかとぉっても中毒性があるような気がするの私だけ……