カゲロウ

少しずつずれ始めたお互いの気持ち。
ずっと気が付かないふりをしていた。

君と付き合うきっかけになったのは何だったのか、今ではまるで覚えていない。その位の歳月が過ぎた。ってことなのだろうか。
 気が付くと私たちは気まぐれや冗談で付き合う齢ではなくなっていた。
 焦っていたのはどっちだっただろう。
 結婚を意識したことはなかった。と言えばうそになる。
 親が口うるさくなってきていた。
 それも否めない。
 だけど私たちはどんなことがあっても離れない。そう信じていた。
 季節外れの台風が上陸。記録的な暴風雨。
 震える思いで、君の帰りを待った。
 何度も送るメール。
 君の声が聞きたい。
 だけどその思いは届かなかった。
 明け方、君からのメールが届く。
 無事。という一言だった。
 胸が苦しくなる。
 眠れない夜を過ごした私に、君はむごい仕打ちをするんだね。
 きっとずっと前から答えは出ていた。でも、認めるのが怖かった。
 君が私の知らない人と歩いていたって、友達から聞かされていた。だけど、そんなの人違いだよって、笑い飛ばした。そうであってほしかったから。君が言葉数が減って来たのは、いつ頃からだっただろう。自分の心に嘘は吐けない。
 キラキラしていた二人の夏は、もう戻って来ない。
 君が嘘を言うから、私も黙るしかなかった。
 夢見ていた未来が、カゲロウになって揺れる。
 泣いたりしないから、本当のこと教えて。
 言う勇気がないから、今日もあなたからのメールを待っている。
 愛している。と、もう一度聞けるなら、騙されてあげても良い。だからお願い、何万回でも言い訳をして。
 夕暮れ、足早に過ぎて行く人並。私一人取り残して行く。
 悲しみが押し寄せる。
 君が、ごめんとぽつり言う。
 二にも聞こえないよ。足が動かないよ。心が叫ぶよ君の名前を。それでも君は振り返らない。
 もう振り返らない。
 

カゲロウ

カゲロウ

誰かを愛するということは、孤独を抱えるということとは、私は知らなかった。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-01-29

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